第九話 聖なる夢
暗い部屋に灯るクリスマスツリーの灯り。
静かに点滅する姿が漂わせているなにか。
空虚な心に入り込もうとする綺麗な言葉。
思えば綾音様も、誰も居ない私の家に上がり込んだ。誰かが家に来るなんてなかったのに。
友達も居なければ家庭訪問に来た担任だって上げなかった。
綾音様はまるで狼だ。
もとから一匹狼気質なところがあるけど。
私を殺めに来てくれたのなら。なんて。
殺してもくれない、愛しい人。死ねとも言ってくれない、優しい人。
生かしてくれてしまったね、先生。
生きるつもりなんてなかった私を。
「叶、もう起きたの。まだ暗いよ」
寝起きの声で時間を確かめる綾音様。
まだ六時じゃん、とスマホの明かりを消して枕に突っ伏せている。
起きたというよりは眠れずにここまで来た。
クリスマスイブ。
楽しみすぎて眠れなかったわけではない。
決して遠足の前の日の子どもみたいなわけでは。
「なんか、思い出すな。ビルの屋上まで探しに行ったっけ」
「道のりを覚えて勝手に行ったことですか。それずっと引きずってきますね」
そりゃお前の悪事だから、と言って寝息を立て始めた。
頭を撫でながら思う。
死という願いに入り込む希望。
生きたいわけじゃないけれど。死ぬ理由なんて結局なかった。
死にたくない理由なら作れる。綾音様とずっと一緒に居たい。
なんだろうな。自分から頼みに頼み込んでおいてなんだけど。
雪里先生に綾音様を取られるってなに?!寝取られじゃんそんなの。いやだそんなのいやだ。
でも綾音様はきっと後追いしてくるし。それは絶対嫌だし。そんなの実質私が綾音様の首を絞めたようなものじゃん。
今の今まで色々頼んできたんだ。文句なんて言えない。化けたって意味もない。
化けるときは綾音様を、私が望まない形にしたときだけだ。
頼みに頼まれてくれたのは今瀬先生のことが好きだからなんだし。複雑だなあ、なんか。
複雑にさせたのは私でもあるけど雪里先生が付け入るようになったせいでもあるし。
綾音様も綾音様で嫌っているように振る舞っているくせにかなり頼ってるし。
三角関係すぎる。いつも思うけどなんでこうなったんだ。
「綾音様は私だけのですよ」
呟いてみるとむくりと起き上がってきた。今起きたの?タイミングよすぎるでしょ。
「なに考えてるか知らないけど。私は叶が居てくれるから生きてる。叶が居ないならいやだ」
愛してくれてるのはとても分かるよ。分かるんだけどさ。
絶対後追いしてくるじゃんこの人。
もう十二月も終わる。まだ生きているのは奇跡に近いと医者も言う。
病魔に蝕まれていても、綾音様が居るから私は生きてる。生きないといけない。
限界なんて突破していくしか道はない。
綾音様が。誰よりも大切な人が。自分から死という道を選ぶなんて絶対に嫌だ。
「私もです。でもですよ、先生。あなたが死なないでって言ったんです。中学生のときからずっと、あなたがそう言ったんです」
「だからなに、なんだって言うの。誰が教え子を、恋人を看取りたいの?」
一度重たい空気になるとしばらく残り続けてしまう。
暗い空が徐々に明るくなり始める。今日も朝が来た。
「誰が恩師に、恋人に後追いさせたいんですか。あなたは生きてください。生きて、私のような誰かをまた救ってください」
掛け布団を握りしめ、そこに涙が滴り落ちる。
嫌だと何度も言ってくれる。嫌なことくらい分かってる。無理だと繰り返す。
私だって嫌だ。
綾音様もいやだよね、そうだよね。そりゃそうなんだ。
私が私であったから、綾音様が綾音様であったから。今がある。
同じ結果が起こることはもう二度とない。
今年もクリスマスツリーの星は黄色の画用紙で作ったもの。案外長持ちするんだよな、不思議なことに。
私たちの関係も思ったより長く続いた。死ななければ永遠だったのかもしれない。
深呼吸をして自分を落ち着かせ始める愛しき人。
こういうのも大人の対応だよなと思う。
私はいつまで経っても変わらず。マセガキみたいなものだ。
「叶。また寝てないみたいだけど」
「寝れなくて。寝るのが怖くて。……夢を見たくないし。あと死にたくないし。生きている実感が欲しい」
夢を見たときは大体悪夢。
陰惨な記憶の通りに夢に出てくる。そうなると夢なのか現実なのかも分からなくなってまた手にミトンでも取り付けられてしまう。
一ヶ月持てばいいほうだと聞いてからというもの、何気に誰よりも死に怯えている。
生きている喜びを探す。まだ息をして、この人を愛せていることを実感する。
電池が切れたら流石の私も眠りに落ちるが。切れないとなかなか眠りにつけなくなった。
いつもこんな調子だから睡眠薬でも買って飲んでやろうかと思ってしまうけど。それは綾音様との約束も自分自身で決めたものも破ることになる。
あと普通に下手したら死ぬ。薬を飲んでいる以上、下手に処方もされていないものを飲んだら死にそうで怖い。
どうやら私は死にたくないらしい。
サンタさん、私にあと十年くらいの寿命をください。
それかあの日々の馬鹿な自分からどうにか苦しみを奪ってあげてください。
なんて、無理な話だ。
「そうだよね。誰よりも怖がってるのは叶だ。病気なってからすぐ葬式だとか遺言書だとか用意し始めるから。ドン引きしてたよ内心」
「それは、早めのほうがいいと思って。実際自分だけで動けてた期間も短かったですし」
案外死ぬのにもお金がかかることを知ってよくたじろいでいた。
海で死ねば墓いらずじゃん!とか馬鹿げたことを本気で考えていたせいで。
綾音様だってそういう老後のことはよく言っていたし、前からよく見て調べていた。
だからさっさとやっておいたほうがいいのか、と思ったまでで。
というかこの人だって。……いつか人は死ぬんだから、ってよく私に言うから。
その度に駄目だって言ってきた。五百歳まで生きろって言ってきた。
そんなの無理だよと微笑まれて、その話は強制的に終わる。
何気に私が一番嫌っている話を綾音様はよくするから。
ちょっとだけ、ほんの少しだけ分からせてやろうと思ったんだ。
置いていかれる恐怖心でも煽ってやろうと。
遺言書に関しては大人になってからとりあえずは書いておいていた。親に相続されるとかガチで無理だし。綾音様に遺せるものは全部遺しておきたかった。
葬式だとかはよく分からないし。直葬でいいかと思っていたら大反対されてしまった。
お金浮きますよ、とプレゼンでもしようかと思えば激怒されて話ができる状態ではなかった。
ほんと、なんというか。死というものが嫌いなんだな。二人して。
「当たり前に怖いです。変ですよねー、何度も死のうとしたのに」
「そういうものだよ。だから生きてるんでしょ、今も。五百歳まで一緒に生きよう」
気付けば日も昇り、朝焼けが町を照らしていた。
なのにカーテンを閉めたまま、眠りについた。
昼夜逆転とでも言うべきか。起きるまで綾音様も隣で一緒に寝ていた。
このお方も私のせいで寝不足の日もたくさんあったからな。休めるときに休んでほしい。
これから一睡もせずに泣いていそうだし。
今だけは一緒に、ね。クリスマスだし。
「張り切って料理でも作りますかね」
「お前なあ。自分の身体のこと分かってる?忘れたとは言わせない」
起きた途端に怒られた。なんで。
毎年恒例のものがあるわけじゃないし、基本買ってきたローストチキンを食していた。
何回か鶏の丸焼きを買ってこられて二日に分けて食べたことはあったけど。
よく考えなくても最近この人がお菓子を食べている姿を見ていない。
毎年のように本命のプレゼントとおまけのお菓子を与えていた。
最近食べている姿を見ていないせいで買い損ねた。彼女失格だ。死のう。
「お菓子食べなくなりましたよね、最近というかこの半年くらい」
「え、ああ。叶が餌付けしてくれてたから、よく」
餌付けされてた自覚あったんだ。
なんかもので綾音様を釣ったみたいだけど違います。一応愛し合っているはず。
話を聞いてみると普通に与えてくれる人が居なくなったから、と言われてしまった。
そうかそうか。つまり私が悪いんだな。知ってた。
「自分で買ってもいいんですよ」
「面倒くさいじゃん、どれがいいか考えるのとか」
こういうところがあるんだよなこの人。
自分のために自分になにかしてあげるということがとてつもなく苦手な人。私もそうだけど、ちょっとそれは困る。
一人になったらご飯さえ食べなくなりそう。食べなければ死ねるじゃんとか言いそう。私も思う。
どこまでも一直線なのはいいことでもあるんですが。これからは自由に、と思ってきたけど。
これからは自分の好きなものを見つけていってほしい。
「スーパーでなにか買ってきましょうか。せっかくですし」
「最近せっかくしか聞いてないような。まあ、行くか。食べるものなにもなくて」
冷蔵庫を開いてみると見事にからっぽだった。
最近買い出しに行っている姿を見ていなかったと思えば。やっぱりこうなっていたか。
一人にするわけにもいかない、ペットカメラがあったってなにかあったら不安。
度の過ぎた心配性の人なせいでまともな生活を送れなくなっている。
だからたまに雪里先生を召喚して外に行くか、買ってきてもらうかになっているんだな。
私がもっとしっかりしていれば。この人を安心させてあげられるくらい強くなっていたら。
タラレバの話なんてしても仕方がないけれど。思ってしまうというのが人情というもので。
「チキンいっぱいありますよ」
「一個買って分けて食べるか」
こんなにいっぱい売られているのに。二人暮らしですよねうち。一個だけとか。ほんとに。
まるまる一個食べることは確かにどんな修行よりも今は厳しいけどさ。お正月に餅食べたら死ぬのかな自分。それは意地でも食べるんだけど。
「あれー、今瀬先生だ!」
「え、ああ。久しぶりだな。元気?」
春まで綾音様も教師をしていたんだ。
なのに私が休職に追いやったんだ。クズすぎて死ねる。地獄にでも落ちられる。
談笑を広げてくれている間にそそくさとその場から離れる。
車椅子で動くのも最初は無理ゲーすぎて半泣きだった。こんなに難しいものなのかと。
何年生きようとメンタルは弱っちいまま。
練習して練習して。何回もやるというのは何事も大事だということを再認識した。
予習して授業を受けて復習する。私はしたことないけれど。
している子も一定数は居てすげー、と関心ばかりしていた。
一体私は何者だったのか。本当に教職に就いていたのか。なにを教えていたんだ。一体全体。
いつも車椅子を押してくれる人がいるので甘えてしまっているが。あまり距離は行けないにしてもまだ少しは。
分かっている。今瀬先生の優しさは誰よりも知っている。
なにも変わっていなかった。いつも元気?と訊いてくれるんだ。誰に対しても、そうで。
そんな先生を。誰よりも尊敬している先生を。
出会わなかったほうが綾音様にとってもよかったんじゃないか。
タラレバの話。もしもの話。どうにもなってくれない人生の話。
「叶!よかった、見つかった。勝手に離れるなよ、心配するじゃん」
えらく焦っていたらしい。ぼーっとお酒のコーナーを見ていただけなのに。
知らない味が出てるとかラベルが冬仕様になってるとか思ってただけで。
「あの子はよかったんですか?」
できるだけ普通に、いつも通りの声色で問う。
こういうときっていつもが分からなくなる。焦ると自分を見失う。いやなにに焦ってるんだ。
「うん。いいも悪いもないでしょ、生徒なんだし。学校外で出くわすのは得意じゃないし」
毛先をくるくるといじりながら微笑まれる。
なんで胸が締め付けられるような感じがするんだろう。嫉妬とかではなくて。妬く理由もないし。
「久しぶりに今瀬先生を見た気がします。なにも変わらない」
「先生の立場じゃないもんね、今は。確かに久しぶりに先生っていう立場に戻った。変わらないならよかったよ。君の先生だからな」
私だけのものじゃない。私以外にも大切にしている、思っている人が居る。
それなら私一人くらい消えたっていい。はずだった。
君の先生だから、って。なんだそれ。どれだけの生徒を相手にしてきたと思っているんだ。私よりもずっとたくさんの人と関わっているくせして。
まるで私が特別みたいじゃないか。
「お酒ずっと見てたの?」
「はい」
元気?と訊かれてはい、と答えていた頃のような感覚を覚える。
唯一の安全地帯。否定も肯定もしない強さと優しさ。
「たまにはいいか。薬の効き目がどうなるかっていうのはあれだけどな」
「ノンアルならなんとかいけるのでは」
クリスマス仕様のラベルになっていたノンアルをカゴに放り込んでもらって、チキンが大量に並べられている惣菜コーナーに戻る。
お酒は止められているけれど。どうせ死ぬならいいだろう。
一個を分けて食べることにして、またカゴに入れて。
冷蔵庫の中身が空っぽのままでは困る。あーだこーだ言いながら野菜やら調味料やらを調達して。
料理が多少できるようになったからといって、買い物をするのに慣れているわけでもない綾音様。なにが必要なのか聞いてくれたらいいものを。
バカ高いものを買ってこられたときは羽交い締めにするところだった。
ただの貧乏性が暴れただけ。価値観の不一致というわけではなく、知識不足がたたった。
色々教えたつもりでも教え足りていなかった。授業でもすればよかったか。
お値打ち価格で買える日の表とか作ったらよかったのか。やってられん。
「外行けてうれしいです」
「病院と家の行き来だもんね。調子いいときにパソコンとかでなにかしてたじゃん。なにしてたの?」
これは言ってもいいやつなのか。
雪里先生に長文のメールを打つとか。
連絡先を全消ししたのは最初の頃だしな。
えーと。綾音様に遺しておく手書きのレシピを完成させるとか。その手書きのレシピたちをパソコンに打ち込んで送りつけるとか。
これといってなにかをしているわけでもない。なにしてたのか、とかいつもなにしてるの、とか訊かれても答えるのが苦手すぎて頭がショートする。
特別なことをしていないからって怒られるわけじゃないけど。言うまでもないというか。特に綾音様にはお世話になりすぎているし。
「レシピを完成させるために。まあ色々とです。綾音様も作れるようにならないとですし」
「まだあるの、あれ。一冊もうもらったよね」
高校生のときから書き溜めていたものを一度あげてはいる。
書ききれていないものを書いて、またあげようと。どれだけ作らせる気なんだという感じだが。
ふとあれがまた食べたい、と思ったときにいつでも作れるように。
綾音様のためにも、もちろん自分のためにもゼロから十まで書いてある。
「楽しみにしておいてください。今夜あげますね」
「プレゼントそれ?あとネタバレ?ちょっと情報量」
買い物袋を抱えて帰るまでの道のり。
どうでもいいような時間が一番の幸せ。なににもならない、お金にもならないからこその幸せ。
これからも幸せをたくさん感じるんだよ、今瀬先生。
「メリークリスマスです」
「だな」
寝室に置かれていたツリーを引きずってリビングに運び、買ってきたものを食卓に並べ。
グラスに注いだノンアル。アルコールが入っていないならいいだろうと思い。怒られたってどうせ死ぬから無敵。
危なっかしいと視線を浴びながらチキンをナイフで食べやすい大きさにカットする。
息を止めれば多少の震えはマシになっているようでなっていない。慣れてはいる作業だから大して問題はなくはない。
どうせなら綾音様に奉仕したい。
先生という立場から一度退かせた懺悔を兼ねて。
今日のあの生徒だって、久しぶりに見たであろう今瀬先生に目を爛々と輝かせていた。どれだけ好かれているんだ、この先生は。
だからこそだ。教職から退くのは私だけでよかったはずなのに。こんな形で巻き込んでしまって。
無理にでも関係を切るべきだったのかもしれない。
傷付けたくないからその人から離れる。誰のためにそんな真似をするのかと問われれば自分のためと答える。
お互いの無事を祈っているほうがずっといい。
「美味しいです。早く綾音様も」
どうせなら食べさせたい。というわけで食べさせる、無理矢理に。
「美味しいよ。自分で食べるし食べさせてやるから」
最期のクリスマス。
食べさせたい人と食べさせたい人の集い。
やりたいことが一緒なのでは困るな。食べさせ合えばいいか、そうか。そうだよな。
リハビリ兼ねてちぎったレタスと切ったきゅうりはサラダになった。彩りとして加えられたミニトマトも。
「そうだ、あなたの嫌いな人からメッセージ来てましたよ」
見たくないと言わんばかりにサラダを無心で食べている綾音様。そんなの構わず見せつける。
今瀬先生と雪里先生のツーショットを。
これが送られてきたときスマホを壊しそうになった。どうやら嫉妬深かったらしい、自分も。
「これって、待って。いつの写真だよ」
「ざっと三十年前だって」
「そりゃ歳を取るわけだ」
うなだれてしまった先生を元気づけるためにもお菓子をあげましょう。
こうやってあげるのも久しぶりだな。あげたらよろこんでくれるからよくあげていた。
太るとかそんな文句も言わない人だった。太らないんだよなこの人。恐ろしいことに。
「なんか買いすぎじゃない?」
「あなたがなんでもポイポイ入れるせいです」
どれだけでもいいとは言った。言ったさ。カゴいっぱいに入れられるとは思わんじゃん。お酒が埋もれていく様はなかなかだった。
駄弁ってお酒を飲んで。食べ終わればスーパーで買ってきたケーキを開ける。
今の御時世なんでも売っているものなんだな、と関心したりしたけど前からあったな。買わなかっただけで。
「今まで作ったケーキとかも書いてますから」
「絶対作らないとは言い切れないのが嫌だ」
綾音様の誕生日には作ろうと思っている。それが本当の最後の最後。
作らないとは言えない綾音様が愛しくて哀しい。
そんな顔してるとサンタさんも来ないよ。仕事のやる気なくなっちゃう。
「ほーら、暗いムード作らないでください。プレゼントタイムですよ」
このムードを作ったのはお前だろ、と笑われる。そしてプレゼント乞いを始められた。
用意したのはお菓子。それはもうすでに奪われてしまったので。
綺麗に包装した紙から箱が生まれる。
「ペンダント?」
「ロケットペンダントですよ。つけましょうか」
よっこらせと立ち上がり、綾音様の横に座る。
一人でもつけられるだろうけど。こういうのはつけてあげないとね。ドラマとかでもそうだし。
迷いに迷った挙げ句、ロケットペンダントを選んで。これまた色んな種類があって、値段も全く違って。
三桁のものもあれば六桁のものもあって。見ていないだけでそれ以上のものもあるんだろう。
流石にバカ高いものは買えなかったけど。
「似合ってます。中は好きなもの入れてもらえれば。あ、でも私の願いくらいは入ってますから」
「分かった。好きなもの、ね。うん」
贈った意味も大体感じ取ってくれているのだろう。
一人じゃないよって。大丈夫だよって。何の意味もなさないかもしれない言葉。
幸せで居てほしい。元気で居てほしい。笑っててほしい。私のために泣かなくていい。これからの人生を楽しんでほしい。
届いてはくれないかもしれない願い。
遺髪とか遺骨とかを入れる人も居るらしいけど。王道の写真、とかもあるらしいけど。
それは綾音様の自由にしてもらえたら。私がつべこべ言うことではない。
「あとこのチェーン、あのネックレスから付け替えてみました」
「ネックレス……。ああ、あれ?まだ持ってたんだ」
たまにつけてはいた。といっても若い頃の話。
夏休みの課題の討伐に成功したお祝いというかご褒美にもらったネックレス。
灼熱地獄のような外に出て雑貨屋さんで買ってもらった思い出つき。
「大切にするよ。ありがとう」
首にかけられたペンダントを手に取り見つめながらお礼を言われた。
雪里先生にもう一度お礼を言っておこう。おかげで渡すことができた。
「あとレシピ帳」
「ありがとう。私に作れるかな」
ぺらぺらとページを捲りながら笑う彼女。
作れるもなにも、作ってくれ。これからどうやって生きていくつもりですか綾音様。死ぬのはなしですよ。
「私からはこれ。額縁と新しい毛布と、パズル飾る用の」
額縁はこの前のクリスマスマーケットで買ってもらったもの。額縁というか写真立て。
何の写真を飾るかは今決めた。やっぱりあれだろう。フォトウェディング。あの頃はまだ互いに若かったな。
毛布はもう何回もらったか分からない。家に何枚あるんだか。寒いのが苦手な綾音様も、雪里先生はどうか知らないけどこれからも使えるな。
そしてまさかのパズルを飾る用の額をもらってしまった。
リハビリ兼ねてでもあり。入院しているときに暇すぎて死にそうだったとき始めたジグソーパズル。
最初は意味が分からなくて。全部一緒じゃないか、とブツブツ言いながらやり進めていた。
時間を潰すのにはうってつけで。
パソコンやらスマホやらの画面を見るよりもこっちのほうが私には合っていた。目が疲れにくいしやった後よく眠れる。
作っては壊して、たまに新しいのを手に入れての繰り返し。
作ったままそこら辺に置かれているパズルを閉じ込めよう作戦だ。
「ありがとうございます、綾音様。今年もこうやって過ごせてうれしいです」
何でもかんでも最期、がつく。
三年生に何でもかんでも最後の体育祭だとか文化祭だとか言ってきたし聞いてきたけれども。
さいごの意味合いが違ってくるのはなんか嫌だ。
最後なら、まだこれからの人生に希望が持てる。まだまだ道がある。ここで終わりなわけではない。何ならスタートでもある。
最期となってしまえば道なんてものは途切れる。
私からすればゴールとも言えない。望んできたものが手に入る。それは嬉しいのかもしれないけど、でも。
もっとやりたいことはあったし。後悔こそしないように生きてきた甲斐あってあれだが。
心にぽかんと空いた穴が塞がらないのは未練たらたらなんだろう。
「今年はこうやってゆっくり過ごせてよかったよ。一緒に居られる時間が長かった」
ツリーの電飾を見つめながら過ごす聖なる夜。
サンタさんは来てくれるだろうか。早く寝たら。
なんて思っていたのに早く寝るどころかある意味で寝た。
のでサンタさん、来てください。なにも見なかったことにして。




