62話 "主戦"
二日目は初日と比べ、あっけなく終わった。
モンスターが散発に現れる程度、平原の方もいくつかの群れが襲撃し、引き上げていったらしい。
三日目も同様だった。
この間を利用し、負傷兵の治療と市民兵の訓練が簡単に行われた。
ついでに城壁の補修とローテーションでの休憩、万全な状態に復活した。
「大きなレイドになるほど、こうやって襲撃に波があるんだ。大体、第二波が一番強くなると聞いたな。気を抜かないようにね」
予想していたより平和で気が抜けた俺らに、オストルフィさんが優しく忠告する。
「モンスターに指揮とかはないんですよね。自然に波に分かれるんですか?」
「私も学者じゃないから詳しくは知らないが、動物が群れを大きくしようとするのと同じと考えられているらしい」
「相手より群れを大きくしたら強いから、どんどん集まろうとするってコト?」
「多分ね。...それと、城外に偵察に出た兵の報告だと、中核はかなり危険なモンスターって話だよ」
「一体どんなモンスターが...」
背後で鐘が鳴る。
交戦を知らせる鐘だ。
「全員、戦闘準備を。三日目が始まるよ」
武器を構え、いつでも戦えるように整える。
初日と同じ厳重態勢。しかし、心の中に薄っすらと慢心がある。
その慢心を揺さぶる音がする。
「なんだ...?何か来るぞ?!」
「この音、オーガよりは大きそうだね」
衛兵が少し震えた声で叫ぶ。
オストルフィさんもいつも通りを装っているが、声が少し上ずっている。
かなり重い足音。
一歩ごとに低く響いている。
音が段々と近づくが、一向に敵は見えない。
景色はいつもと同じ森、少し風が強く揺れ動いている。
「...木、動いてる!」
サーシャが叫んだ。
風で揺れる木の中に、少し変わった揺れの木がある。
足音と共に何かを引き摺る音、変わった木がゆっくり近づいてくる。
動く木といえば、該当するのは限られる。
「トレントだ!」
一本の樹木から太い枝が二本、腕のように生えている。
根のようなものが足にように生え、引き摺るようにして歩く。
木の怪物トレント、オーガより一回り程大きい。
「どこが弱点なんですか?!」
「太い部分に心材がある、そこが核だ!」
「私、回り込みます!」
風のような動きで鈍重なトレントの裏に回り込むサーシャ。
俺は風の刃で表皮を斬り付け、オストルフィさんは聖なる魔力で注意を引く。
足の部分から根が伸びる。
鞭のようにしなりながらサーシャに打ち付けられるが、ギリギリで避けて斬り落とすことで何とか躱している。
トレントは火に弱いが、森の中で火魔術でも使えば辺り一帯に引火してしまう。
そもそも森に出るモンスターのため、倒し方は核を破壊する一択になる。
後ろに回り込んだサーシャが幹に向かって剣を突き刺す。
「...っ?!硬すぎ!」
かなり深くまで刺しこんだが、核を破壊できなかったらしい。
突き刺さった剣をトレントを蹴り飛ばして抜き、一旦距離を取る。
「アクアサイス、マジックスピア!」
「...わずかに届かないか」
魔術を撃ち込んでみるが、大してダメージを与えられた様子はない。
「サーシャ君、少しずつでいいからトレントの体を切り取るんだ!注意はこちらで引く!」
樹木の体、少しずつなら体を切り取れる。
核の破壊まで時間はかかるが、これが一番安定している案だろう。
魔術を再び構え、トレントにちょっかいをかける。
メイスが根を叩き潰し、魔術が横からトレントを叩く。
そうやって注意がこちらに引きつけられている間、サーシャが表皮を削り、中の木を切り取っていく。
「核、斬ったよ!」
トレントが急に止まった。
さっきまで根を振り回していたのが噓のように、まるで最初からそうだったかのように朽ち果てた。
「オストルフィさん、どうしたんですか?」
枯れ木になったトレントを信じられないものを見る目で見ている。
衛兵たちも訝し気にトレントを見つめ、周囲を警戒している。
「トレントがどういうモンスターかは知っているだろう?」
「森の中に棲む木のモンスターですよね?」
樹木に魔力が宿ったことで動き出す、ガーゴイルの木バージョンといった怪物。
ガーゴイルと異なる点として、トレントは自然に発生する。
深い森に棲むため、人里に現れることは基本無い。
「...なんでここに?」
「迷い込んできたのかな。でも、そんな動くようなモンスターじゃないよね」
ガーゴイルとトレント、本来レイドに現れないモンスター。
例外が多発している。
「伝令、伝令です!」
背後から伝令の兵士が走ってきた。
戦闘終了を伝えに来たのではないだろう。
明らかに焦っている。
「北から南西の全てから大群が接近。数は推定六百、恐らくまだ増加します!」
四日目、レイドの前哨戦が終わった。




