59話 "開戦"
ボロヴィツ市、西門城壁。
壁の上には兵士や徴兵された市民が並び、大工が内側から壁を補強している。
城壁の高さは5,6mほど、大体のモンスターは登れないし攻撃を防げるが、オーガやミノタウロスのような怪力がぶつかると危ういだろう。
「来たぞ、先鋒集団だ!」
誰かが叫ぶ。
遥か先、薄っすらと黒い点のようなものが近づいてくる
いくつかの集団がまばらに平原を進んでいる。
一気に騒然とする城壁。
矢の準備に装具の点検、祈りをささげる者もいる。
ゆっくりと近づいてくる集団、少しずつその姿が見えてくる。
「オーガとゴブリンと...、あの後ろにいるのはなんだ?」
「貸してくれ」
一人の冒険者が哨戒から望遠鏡を借りる。
覗き込み、驚きの声を上げる。
「あれは、ガーゴイル...?どっから来たんだ?!」
「ガーゴイルだと?!クソッ、魔術師とエンチャントを使える弓兵に伝えろ、ガーゴイルを最優先に、その次がオーガだ!」
「あいつらはどこを狙えばいいんだ?」
「胴体!どこが胴かわからなかったらとりあえず当てろ!」
ガーゴイル、生きる石像。
ただの弓矢じゃ壊せず、手足を壊しても動き続ける。
石像の形状によっては頭がないので、胴体を破壊することが推奨される。
「全員、空の注意を怠るな!飛ぶガーゴイルが来るかもしれん」
「城の本部へガーゴイルのことを伝えろ!」
「なんでガーゴイルがレイドにいるんだ?!」
冒険者たちが騒然とする。
市民兵はそれを見て不安を感じとり、瞬く間に広がっていく。
そんなことは一切知らず、モンスターの先鋒集団は迫る。
「射手隊、指示があるまで撃つな!矢は限りがあるからな!」
「槍隊、城壁に張り付いたやつは叩き潰せ!おいそこのやつ、大工たちに下がるように伝えろ!」
ざわめく城壁が少しずつ静まり、弓兵たちは矢を手に持つ。
少しずつ鮮明になるモンスターたちの姿。
向こうも城壁に立つ人々を捉えたらしく、地面を蹴って駆け出してきた。
「まだ撃つな!十分に引き付けないと当たらない!」
200m
地響きのような音を立てて近づくモンスター。
恐怖にとらわれる群衆、ベテランの冒険者が落ち着きを取り戻させ、弓兵たちは射撃の合図を待つ。
100m
オーガの咆哮が響き渡る。
恐ろしいその顔が鮮明に見えてくる。
50m
「撃てぇええ!」
衛兵隊長の号令。
放たれた矢がモンスターを貫くが、獰猛な群れはそれでも止まらない。
大鐘楼の鐘がなる。
開戦の合図だ。
「魔術師、ガーゴイルを破壊しろ!投石隊は片っ端から石を投げろ!」
「登られるぞ!槍兵は叩き落せ!」
「オーガを城門に近づけさせるな、破られるぞ!」
「油桶を持ってこい!下にぶちまけろ!」
怒号が飛び交う。
魔術師の放つ火球や水刃がガーゴイルを打ち崩し、飛んできた石に当たりゴブリンが倒れていく。
城壁にたどり着いたゴブリンが槍兵の長槍で突き殺され、それを足場に壁をよじ登ろうとしてハルバードで頭をかち割られる。
死体の山を登る群れが油を頭からかぶった。
すぐに火がつけられ、城壁の下は炎に包まれる。
「あのオーガを止めろ!」
「誰か投槍を持ってこい、破られるぞ!」
広い城壁に弓兵は二十人ほど。
頑丈なオーガを止めるには集中的に火力を投射するしかないが、この数ではそれが間に合わなくなる。
迫るオーガに次々と矢が突き刺さるが、一切止まらない。
城門まであと一歩まで迫ったところでようやく倒れた。
「投石隊に伝えろ、もっと投げまくれ!」
「鐘が鳴ったね、始まったらしい」
「となると、こちらもそろそろですね」
南門、城門脇の塔。
『裏鱗』と商人の護衛剣士が話している。
「魔術師はそちらの一人しかいませんが、大丈夫でしょうか?」
「実力はあるが、あまり大量に来られると間に合わないかもね」
「短弓を拝借してきましたので、少しは助けになるでしょう」
護衛剣士が弓を構える。
剣だけでなく一通りの武具は扱えるようだ。
「...来たね」
オーガが率いるゴブリンの集団。
数は二十体ほどだろうか、ガーゴイルも数体見える。
「オプティム・マジックミサイル」
魔術師が唱える。
高度に圧縮された魔力が円筒を形成し、青い軌跡を残して消えた。
着弾と共に破裂する魔力、ガーゴイルの胴体を一撃で砕く。
「クラス4の...、凄いですね」
「だが連射はできない。脅威度が高いのは魔術で、他はこっちでやるしかない」
「なら、あれはどうします?」
集団の後方、異形が佇む。
オーガより一回り小さい体躯だが、脅威度は遥かに上回る。
「アラクネ。あれはまずいね、こっちで仕留めるしかない」
「衛兵、市民兵に伝達してください。子蜘蛛を近づけないように」
アラクネが跳ぶ。
容易に城壁を飛び越え、市内へと降り立った。
槍使いと護衛剣士がそれを囲む。
悲鳴を上げる市民をよそに、激戦が始まる。




