58話 "持ち場"
街に滞在するすべての冒険者に緊急招集が出された。
ギルドに急いで向かうと、すでに他の冒険者たちがいた。
職員たちが慌ただしく動き、ホールの壁に街の地図が貼りだされた。
「招集に応じていただいてありがとうございます。時間がないので、さっそく説明を始めます!」
壁に貼りだされた地図を使い、職員が説明を始める。
「現在、街の南西方向から四百から五百ほどのモンスターが接近しています。ボロヴィツはこれをレイドとし、冒険者ギルドへの緊急依頼を発しました!」
ざわめく冒険者たち。
数百のモンスター、それがこの街に?
「先ほどボロヴィツ城で行われた会議にて、各パーティーの配置が決まりました。この説明が終わり次第、各位指定の場所に向かってください」
冒険者の規約において、いくつか義務が存在する。
その一つが、レイド等の緊急依頼への強制参加である。
パーティーの名前が読み上げられ、それぞれ担当の場所が示される。
「ねえシュウ、今呼ばれてた『裏鱗』ってジェログルードにいた人じゃない?」
「...あっ、確かそうだった気がする」
「こっちに来てたんだね」
「次、『ガウェイン』。南東の森林、城壁の未完成部です」
名前が呼ばれた。
配置場所は南東の森林、木でできた柵壁の場所だ。
四方にある門は城門が閉まるが、ここは柵でできた壁しかない。
モンスターがここに気づいて押し寄せれば、突破されてしまう。
「説明は以上です。各位、自身の持ち場に向かってください!」
職員の合図で、パーティーが担当場所へと向かう。
全員、険しい表情だ。
「シュウ、私たちもいこっか」
「...うん」
不安。
サーシャも同じようで、いつもの元気さがない。
ピリピリとした空気の街を小走りで進み、自分の戦場を目指した。
ボロヴィツ市、南東の隅。
針葉樹の森の中を進み、街のふちの部分に向かう。
四人の武装した衛兵と、祝福を受けたプレートアーマーに身を包む騎士がいる。
ルテルナ教の聖騎士だ。
長柄のメイスにカイトシールド、どれも神聖な魔力を帯びている。
兜の中の優しそうな顔がこちらを向く。
「君たちがここに配置された冒険者かい?」
「はい。えっと、聖騎士さん...」
「オストルフィと呼んでくれ。二人の名前は?」
「シュウです」
「サーシャです、よろしくお願いします!」
元気なサーシャの声。
聖騎士と共に戦えることが嬉しいのだろう。
オストルフィさんは穏やかな雰囲気で、手に持っているメイスが少し不釣り合いに見えてしまうくらいだった。
「二人共、かなり若いな。どれくらいのモンスターと戦ったことがあるんだい?」
「オーガやミノタウロスまでなら...」
「若いのに、随分とやるじゃないか。剣士と魔術師か、頼りになるね」
優しそうに笑い、近くの切り株に腰を掛けるオストルフィさん。
四人の衛兵を近くに呼び寄せ、木の枝で地面に図を描く。
「予測だと、主戦場は街の北から南西にかけて広がる平原だ、そこからはぐれた奴らも南門に集中するだろう」
「じゃあ、こっちと東側はあまり来ないんですか?」
「多分ね。勘がいいやつはここにたどり着くだろうし、東門は道が整備されているからそこそこの数は来るだろう」
門がある四方はしっかり道が整っているが、ここは獣道が少し通る程度。
大群で来るモンスターは通りやすい道を選ぶだろう。
「レイドは軍隊の攻撃と違い、無秩序な襲撃なんだ。オーガがゴブリンを率いるみたいなのはあるけど、それも作戦や指揮といったのはない」
「狼の襲撃みたいなの、ってことですか?」
「それ以下だよ。狼は指揮役がいるけど、レイドは高位個体が恐怖でモンスターを集め、集落にけしかけるだけなんだ」
無計画な物量の圧殺、一番恐ろしいことだよ。
そう言ってオストルフィさんは立ち上がり、装備の点検を始めた。
「モンスターが近くまで来たら、鐘が鳴る。それまでしっかり準備をして、気を抜かないようにするんだよ」
集まった衛兵も離れ、ハルバードを持って警戒を始める。
緊張からか、誰もしゃべらない。
森の静寂がよく聞こえる。
数百のモンスターが迫ってるなんて信じられないくらい、静かだ。
「オストルフィさん、聖騎士ってすごく強いって本当ですか?」
サーシャが静けさに耐え切れなくなったのか、雑談を始めた。
今の陣形はオストルフィさんとサーシャが前衛、衛兵と俺がその後ろの形だ。
「私、物語が好きで、騎士に憧れてるんです!邪悪な怪物を倒す聖騎士の物語を読んで、私もそれくらい強くなりたいって目指してるんです」
目をキラキラさせて語るサーシャ。
オストルフィさんは苦笑しながら話す。
「残念だけど、私は英雄みたいな聖騎士じゃなくてね...。上級聖騎士はみんなとんでもなく強いが、下級には私みたいな志の低い人もいるものさ」
「...そうなんですか?でも、聖騎士になるのって難しいんじゃ?」
「信心深い勇士しかなれないっていうが、実際はそうでもないよ。素質があると判断されたら、どんなのだろうと構わず誘われるんだ」
「素質って?」
「私にもさっぱりだ。神の意思が云々って言っていたが、私は聖騎士の方が収入が増えるって聞いてなることにしたんだ」
教会の聖騎士とは思えない言葉。
サーシャの中でイメージがかなり変わったらしく、明らかに落胆している。
「別の街に妻と子供が居てね。素質があるって言われて入信したが、金がなきゃ家族を養えない。本当なら逃げて家族に会いたいが、生活費を稼ぐために戦わなきゃいけない」
軽い溜め息と共に言葉を吐く。
その姿は聖騎士でなく、家庭を支える一人の大人だった。
「落胆しただろうけど、上級の聖騎士は本当にすごい人ばかりだよ。まさに物語通りの、英雄ばかりさ」
「そんなにすごいんですか?」
「下級の聖騎士の中から、主神が直接選ぶんだ。そして教皇が選ばれた聖騎士を祝福、心身ともに英傑の者のみが成れるんだよ」
雑談の最中、街の鐘が鳴った。
空気が一瞬で変わり、戦場が近づく。
「始まったようだね。全員、警戒を厳に」
衛兵がハルバードを構え、サーシャが剣を抜く。
ボロヴィツの戦いが、ついに始まった。




