405-嵐の壁の先にあるもの
雲の中を、オリオンは飛んでいた。
周囲はプラズマと高電圧の稲妻が走り、ここを生身で突破することは文字通り不可能だと目で見て分かる。
『進度97%...中央まであと少しです!』
「わかった!」
周囲の視界はゼロ。
かと言ってセンサー類が使えるかといえば、それも無い。
目を潰されている以上は、ペルソナの計測に頼って進むしか無い。
人間もよくやる、ある一点に対する推測での移動だ。
「空の向こうに雲があるなんてな、普通に生きてたら想像なんかできなかったぜ」
「...だね」
ナスカが言った言葉を、俺は重く受け止める。
宇宙にも雲がある。
ただそれは、惑星上のように穏当なものでは無い。
こんな恐ろしい光景を、宇宙でも見る事になるとは。
『進度98%! もうすぐ雲を抜けるはずです!』
「うん!」
光が強くなって来ている。
まるで灯台のように、雲の中からでもはっきりと見える紫の光。
俺は舵を握る手を緩めない。
あの先に何があるのか、今になって俺自身が気になって来ていた。
「それにしても...こんな天体、自然に生まれるものなのかな...」
『あり得ません。二つの重力嵐が生まれるということは、特異点クラスの重力の中心が二つ、近距離で均衡を保つように存在しているということです』
「あ、ありがとう」
すぐにフォローが入る。
それなら、確かに不自然だ。
天体が均衡を保つだなんて事は、まさに奇跡レベルの出来事なのだから。
そして。
雲を突き抜け、オリオンがその先へと出る。
「わぁ...」
「おお〜!」
そして、その先にあったものは。
俺が感嘆し、ナスカが珍しく驚いた声を出すほどの光景だった。
綺麗に雲と嵐が晴れ、真の凪のような空間が、広々と広がっていた。
そして、紫の光は俺たちが近付いた事で弱まり、そこに何があるのかがはっきりと分かるようになっていた。
「...遺跡かな」
「それは分かってるけどよ...デカいな」
「こんな巨大なものを作れる文明だったって事...?」
中央には一つの惑星があった。
いや、星かどうかは分からない。
その周囲の光景が異様すぎるからだ。
白い星を囲むように一つの円環があり、それをさらに囲むように大陸...いや、このサイズでは小惑星と言っても良いものが天と地で二つ。
その大地の上に、無数の白い構造物が上と下から乱杭のように聳え立っていた。
大地には赤黒いラインが無数に走り、脈動するように光っている。
「これが...こんなものが遺跡だっていうのかい」
いつの間にか席を立っていたシアラが、驚くように言った。
俺たちの想像を遥かに超えるもの。
潮汐、軌道力学。
そんなものは存在しないとばかりに建てられた、学者にとって悪夢の具体例のような遺跡。
『通信回復。雲を突破できたのは十二隻程度のようです』
元の規模が二十六隻だった事を考えると、半分も残らなかったのか。
俺は雲を抜けられなかった人達が生きている事を願い、サボランの艦に呼び掛ける。
『...った! やったぞ! やはり存在した! 雲の向こうに遺跡があった!』
呼び掛けたのだが、向こうは大騒ぎのようだ。
その騒ぎの中でも、サボランの声はよく聞こえた。
『長かった...メイラム、クンダ...お前たちの死は無駄ではなかった』
それが誰の名前かは分からなかったが、俺はサボランという男を少し勘違いしていたと気付いた。
彼は自分の妄想や推測を真実にするためでも、権威を得るためでもなく。
ただ死んだ仲間のために、この場所を目指していたのだと。
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