279-スロナイⅢ
一週間後。
リリーは囚人船に乗り、スロナイ星系へ到着していた。
オリオンであれば二日程度の行程だが、光速航行速度だけに特化した囚人船であれば仕方がない。
乗客は脱走に備えた兵士二人と、パイロット四人だけであり、リリーはコールドスリープ装置に入れられていた。
「ようやく到着か」
「いつもは怖いもんだが、今回はお姫様一人。楽で助かる」
感慨深げに、舵を取る一人が呟く。
その横に座る、予備操縦士が同意した。
普段この囚人船は、一般の囚人輸送に使われており、いつ脱走するかもわからない重犯罪者を荷物に何週間も航行するのである。
それに対して、今回は棺のようなコールドスリープに入れられたリリーが一人だけ。
パイロットたちはいい休暇だと笑っていた。
それを、船長は黙って聞いていた。
「(明らかにまともな案件ではないが.....仕方ない部分も多かった、いざという時は責任を取らねば.....ああ胃が痛い)」
結局、一般の認識などこんなものである。
大きな陰謀が進行していることも知らず、忙しい船員たちはリリー・シノの事など知らなければ、そもそも囚人に会いたくないため顔を知らない。
眠るリリーの顔を見たのはこの中では船長だけであり、胃薬の効果がない事を実感していた。
「それにしても、スロナイに刑務所なんてあったんだな」
「要人を入れておくところらしい、関わり合いにはなりたくないな」
既にだいぶ関わりを持ってしまっているのだが、それに突っ込む者はいない。
囚人船はスロナイⅢへと光速航行で移動し、指定地点で静止する。
軌道上には夥しい数の静止衛星が係留されており、それには凄まじい数の武装が搭載されている。
シャトルやコルベット程度では、ここを通過する前に残骸と化すレベルの防備だ。
「物凄いな」
「....ええ」
それらが自分たちに向けられない事を祈り、囚人船は防衛ラインをゆっくりと降下していく。
軌道上に配置されたステーションから、二機の戦闘機が出撃し、囚人船の周囲を飛行する。
「警備隊から連絡です、護送するのでそのまま降下せよ、との事です」
「気にするな、そのまま降りたまえ」
「はいっ」
ここで初めて、船長が喋った。
船員に要らぬ不安感を与えないために。
囚人船は基本的に輸送船を改造したものが多く、囚人に利用された際に武器として使えないように非武装である。
そのため、攻撃されれば何もする術がないのだ。
「(これは、ますます拙いな)」
この後、全員で集団記憶喪失にならなければならない。
船長はそう実感した。
それだけ、この国の司法に属するという事は、闇に触れる事が多いのだ。
「お、見えてきましたよ」
「これはまた.....」
そして、よく晴れた空を突き抜けて、囚人船は収容所の上空へと出た。
木や水の無い広大な荒野の真ん中に、大きな施設が一つ存在していた。
外気温は2℃、船の外側の窓が結露し始めた。
「そろそろ姫さんを起こすように言ってくる」
「頼んだ」
予備操縦士が席を立ち、ブリッジの下へとハッチを降りて行った。
船は平行姿勢に移行し、収容所へと最終降下を開始する。
それを見届けた戦闘機は、そのまま大気圏突破の速度を稼ぎながら空へと向かった。
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