278-偽りの手
その辺に転がされて、何時間経ったかも分からなくなった頃。
急に人の気配がして、轡と目隠しが取られた。
一瞬で入り込んでくる強い光に目を細める。
光に慣れた頃、俺は眼前に三人の人物がいる事に気づいた。
「ようやく会えましたね」
「......誰ですか?」
どこかで遭った覚えはあるが、思い出せない。
いや、思い出した。
デュリオンとかいう家の当主だったか。
「...私の名前を忘れるとは、いいでしょう。もう一度名乗り...」
「カスター・デュリオン伯爵でしたか?」
割り込んで、俺はその名を口にする。
カスターという男は、表情を硬直させる。
かなりイラつくムーブだが、俺にもこうする権利くらいはある。
「思い出したならいいでしょう、さて....リリー・シノ、あなたに選択肢を与えましょう」
「は?」
話が見えないな。
そう思っていると、目の前に手が差し伸べられる。
「貴方が不当な罪に問われているのは、こちらも把握しております。さあ、私と共にここから逃げ出しましょう」
「......そうする事で、何かあなたに得が?」
「時間がないのです、今しかあなたを助けられない」
俺は妙に冷静だった。
だからだろうか、その手を取りたいとは思わない。
急かすように、説明を回避して選択を焦らすのは、詐欺師のやり口だ。
「いいえ、納得できません。......貴方はこれで、何を得るんですか?」
「.......」
カスターは、その言葉に黙り込む。
少なくとも、愚かではないという事なんだろうか。
「確かに、私はこの件について責任を求められるでしょう。しかしながら、王国との国際問題を回避する事で、私は陛下から覚えがめでたくなります。それに代わる対価など、誰も用意できないでしょう?」
「.......」
今度はこちらが黙る番だ。
ただ、俺もそこまで焦っていない。
むしろ状況がよく分からない中、現れたこの男に従うのは危険だと、理性ではわかっている。
「でしたら、全てが終わった後に、あなただけが手を差し伸べてくれた事実を皇帝にお伝えしましょう。でしたら、貴方はこの件に関わった責任を取らずにすむでしょう?」
仮にこの男が善良な野心家なら、こっちの方が好みの筈だ。
何しろ確実性がある。
俺がこの口で伝えるのだからな。
「全てが.....? あなたがこの先、助かるとでも言うのですか! 未開の惑星に送られ、厳しい生活の中で貴方が耐えられるとでも言うのですか? いつか助けが来ると、本当に思うのですか?」
「ええ」
少なくとも俺は、アルとペルソナを信じている。
帝室を信じていなくても、あの二人なら俺を助けに来るに足る能力を持ち合わせている。
だから、俺は信じる。
苦しみは長くは続かないってな。
「........貴方は賢すぎる、尊敬しますよ、その蛮勇を.....後悔する事です、後になって叫んでも、私は貴方を救わないでしょう」
「構いません」
少なくとも、その手を取る事はしない。
俺も、人と話すうちに何となく相手の事が分かっていた。
こんな重要な場面で、見透かされるのを嫌がるように、
人の目を見ないで話す男を、信用できるわけがない。
「......明日、あなたはここを出ます。それまでに、結論が変わる事を祈っておりますよ」
目隠しと轡を再度かけられた俺に、暗闇から声が響いた。
そして、数時間後に起こされるまで、俺は黙って待ち続けた。
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