271-リリー失踪
リリーが居なくなってから二時間後。
見回りのメイドの報告で、帝城内は大騒ぎになっていた。
彼女のいる場所は大抵決まっているため、担当の管理者が滞在を報告するのだが、帝城内のどこにも彼女の姿はなかった。
念の為にと男子トイレや男子更衣室、男子風呂なども捜索されたが、影も形もない。
「もう一度聞こう、そちらにリリー・シノは滞在していないのだな? こちらの警備の問題のために聞いているだけで、匿うような事情があるのであれば.....」
『本当です。艦内にリリー様の反応はありません』
リアシュはペルソナにオリオンの内部について尋ねていたが、返ってきたのはリリーは帰っていないという情報だけであった。
その頃シラルドは、ロデアと共に監視カメラのチェックを帝城の警備員にやらせていた。
「外に出た記録は、本当にないのか?」
「あ、ありません。個人の力で城壁を超えない限りは、入り口の監視カメラはすべて正常に作動しています」
「変装していた可能性は?」
「その時間帯の未認証エラーを全部漁ってみましたが、恐らく外には出ていないかと....」
外にも出ていない。
そして、リリーの行動は全て監視カメラに収められており、最後に姿を見せたのは地下一階の廊下である。
「.....まさか、大迷宮に入っちまったか....?」
「どうして、そんな所に?」
「待ってください、大迷宮の封鎖システムが不正に作動したログが残ってます。経路を辿ってみますのでお待ちください!」
その時、別の警備員が叫ぶ。
それを聞き、シラルドは視線を動かす。
暫くして、リリーの見えた時間の数分後に自動施錠システムが外部からの不正アクセスで起動したことを示すログが発見され、その発信元から使用されたIDが特定される。
「この使用人を抑えろ!」
「はっ!」
すぐにIDを使ったメイドが捕まえられる。
多くのメイドは良家の次女や三女と家から出され、教育をしっかりと受けた者たちだからだ。
貴族であればIDを持ち、このIDは帝城の管理システムにアクセスできるため、IDを持たない一般人にシステムへの侵入は不可能に近いとされている。
IDは皮下に埋め込まれ、複製できないため、個人の特定はすぐに可能だった。
しかし、
「本当です.....子爵と名乗る人物から、緊急で協力してほしいと言われたので....私達にはそういう事は分かりませんので.....」
その後も多くの協力者が見つかったが、全員バラバラの人物に命令されていた。
そして、家紋を書かせたところ、全て存在しない組み合わせのそれっぽく作られたものばかりであった。
「兄上、早く大迷宮に捜索隊を向かわせないとリリーが死ぬぞ」
「分かっている、だがあれは地下何階まであるかもわからないんだ、二次災害を避けなければいけない」
「じれったいな、俺が行く!」
「待て! お前の立場を思い出せ!」
兄弟は執務室で言い争う。
それを、報告に来ていたグラハムは黙って見ていた。
彼は寡黙な人物であり、同時に冷酷な現実主義者である。
それ故に、黙って見ているふりをしながら助ける術を探っていた。
リリー自身には何の価値もない小娘だが、王国との何らかの摩擦が発生する可能性がある事。
迷宮をぶち抜いて助ける案も却下。迷宮は古代の素材で作られており、ドリルの刃や爆発などを全く通さないためである。
ドローンを飛ばすという手もあったが、迷宮内部は通信が反響してしまい外に抜けないため、経由装置の設置だけで手間は全く同じことであった。
「(..........助けられんか、完璧な手口だ)」
グラハムは諦め、運命を天に任せる事にした。
彼にとっては1%の可能性を信じるほど、無駄なことはないのだから。
その後、捜索隊が編成されたものの、第一次捜索はやはり奮わなかった。
リリーが消息を絶ってから、十二時間が経とうとしていた。
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