268-ヘタレ
夜。
豪華なディナー....といっても食い飽きたほどのものを食べ、シラルドがアルをどこかへ誘ったあと。
俺は夜の街に皇帝と共に出ていた。
「夜まで都市そのものを封鎖.....相当の経済損失ですね...」
「その心配をする必要はない、帝都サルバンに経済的な動きはほとんどないと言っていい程に、経済機能はサルバンプライムの各地に分散されているのだ」
そうなのか。
それなら、確かに古風な街並みにも納得がいく。
高いビルが殆どなく、古来からの街並みが残っている感じだ。
経済機能や工業機能はこのサルバンには殆どなく、この星そのものが首都として機能するようになっているのだろう。
それは、通信技術や社会常識が十分に発達した帝国だからできる事だろうな。
地球でやるにはまだ早すぎる。
「ここは?」
「私の数少ないお気に入りだよ」
そして、俺は皇帝と共にとある店を訪れていた。
数少ないお気に入りとは、要するに公の立場で外出できる数少ない機会で行ける店という事だろう。
俺は店内へと入る。
落ち着いた音楽が流れる店内には、当然客はいなかった。
ただ、個人店らしき雰囲気だというのに営業しているという事は....
「いらっしゃると思っていました」
「ああ。五年ぶりか?」
「ええ」
五年も外出していないのか。
それだけ、皇帝という立場は重いのだろう。
何故王国に居たのかは分からないが、英雄爵絡みの事なのかもしれないな。
「いつものを頼む。彼女には融和風を」
「承知しました」
「融和風?」
「王国との融和をイメージした一品だ、人気がなくすぐに流通しなくなったが、その方が口に合うと思ったからな」
「人気、無かったんですね」
「帝国の酒は、甘味が強いものが人気だ。甘い物に慣れていると、王国イメージの酒はあまり....な」
成程。
それにしても、王国の酒は辛いと思われているのか。
別にそんな事はなく、数多くのフレーバーが流通していると思うのだが....隔絶された国境がイメージをしにくくしているんだろうか。
暫くして届いた細長いグラスの酒。
俺と皇帝はそれを軽く乾杯して、一口飲む。
しばらく沈黙が続いた後、皇帝は唐突に口にする。
「俺は帝国を大きくしたいとも、発展させたいとも思わない。ただ、王国を刺激したくない、それだけだ。だから俺は、融和風が好きだ」
「...........」
それは無難だが、無能だ。
そう言いかけた俺は、口を噤んだ。
いくら皇帝がこの場において無礼を許しているとしても、それは禁句だ。
無難である事は悪い事ではない。
次世代に繋ぐために、当たり前のことを淡々とこなしている。
世間の評価とは別の所に、彼の評価はあるのだろう。
決して、皇帝の苦労や支配者の懸想といった場所に身を置いたことのない俺が口出しするべき話ではない。
これは愚痴だ、この場でしか口に出来ない愚痴を、俺に吐いているだけなのだ。
「酔うには早すぎませんか?」
「下戸なんだ、君と飲むために無理をしただけだ」
そういう建前か。
俺は頷き、視線で続きを促す。
「貴族は戦争をしたがる。過去に敗戦の歴史がありながら、次は勝てる、昔は武勇が足りなかったなどと理想論を抜かす。内戦で殺し合っただけで、付け上がる。....その程度で王国に勝てたら苦労はしない」
「戦争に勝つつもりなんですか?」
「いや。.......あらゆる面で、俺は帝国が王国に勝てるとは思っていない。だから争いは避ける...少なくとも、この目が黒いうちはな」
「それは、私が王国人と知っての発言ですか?」
俺がこの話を王国に持ち帰ることを期待しての発言か? という問いを飛ばす。
冷たいようだが、重要だ。
苦労人だし、なるべく期待には沿っておきたい。
「いや。.........こういう話を出来る相手は、君の他にはロデアとシラルドしかいないからな」
「.........」
そういう話を出来る相手を作ればいいんじゃないか?
それに、宰相が含まれていないのも気になる。
さっさと結婚相手を見つけて、愚痴を聞いてもらえばいいのではないかと思ったが、これもまたセンシティブな話題だろうな。
「正直なところ、君を娶るという選択肢もあった」
「.......そうですか」
内心、どきりとした。
同時に、嫌悪が心の底から湧いてくる。
異性として認識されている事への、憎悪。
今までの好待遇は、俺が異性だったからなのか?
「だが、それは俺個人の考えに過ぎない。君が示したように、俺も堂々とするべきだな」
「....というと?」
「帝国内の貴族令嬢を探す。正妻を選ぶのが大変なのであって、側室を選ぶのは簡単だ」
「応援していますよ」
「ああ」
その後、数時間にわたって俺と皇帝は話した。
色々な本音が聞けたが、それが本当に本音だったのかは、俺には分からなかった。
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