266-ホンネとタテマエ
当日。
俺はアルと共に、皇室専用車両に乗った。
「よろしく頼む」
「はい、よろしくお願いします」
リムジンタイプの車内で、俺とアルは皇帝とシラルドと対面する。
車は走り出し、景色が流れ出す。
「飲み物は必要か?」
「私はいいです。アルには何か甘いものを」
「分かった、ロデア」
「承知しました」
ロデアと呼ばれる人物が、グラスに金色の液体を注ぎ、レモンみたいな柑橘系の何かを差して、アルに手渡した。
ジンジャーエールみたいなものか?
「ストローは使いますか?」
「大丈夫です」
アルの受け答えは淀みない。
こういう所は、しっかりしているな。
「今日は貸し切っていただいて、ありがとうございます」
「構わない。襲撃対策でもあるからな」
車の中での会話は殆どない。
まあ、それは当然だろう。
幼いアルに気を遣ってくれているのもあるだろうからな。
「到着だ」
そして、数十分後。
車は速度を下げ、止まった。
自動で開いた扉から外に出る俺。
「...」
「綺麗だろう、ここが中央広場だ」
噴水が見えた。
それも、とんでもない大きさの。
基本は一本の柱だが、様々な形状の受け皿や、たくさん開いた穴が、幾何学的な水の分岐を作り出していた。
底には、大量の硬貨が沈んでいる。
「ちなみに、ここの硬貨を拾うと罰金刑だぜ」
「あっ、そうなんだ」
「まあ、拾えるとも思えないがな...経年劣化で、固まって剥がせないはずだ」
そうか。
キャッシュレスが完全に普及しているからこそ、もう硬貨を使う人間もいないというわけか。
つまり、それ以上堆積せず、古い層の硬貨は固まって取れないと。
「だが、国庫から硬貨を持ち出して来た。この泉に皆で投げ入れよう」
「え? あ、分かりました」
この泉に硬貨を投げ入れることにどんな意味があるんだろうな。
まあ、適当に投げておこう。
四つの金貨が泉の中に消えていき、小さな音が響いた。
「じゃ、俺は適当に行かせてもらうぜ」
「...ああ、後でな」
沈黙を破ったのは、シラルドの一言だった。
彼はそのまま、どこかへ去っていく。
「あの、彼はどこへ?」
「繁華街だ」
「...そうですか」
まあ、遊び人なんだろうな。
コミュニケーション能力の高さも窺える。
皇族としてはどうかとも思うが、俺が言及することではない。
「さあ、屋台街へ向かおう。口調には気をつけて」
「ええ」
屋台街は既に、警備兵が大量に詰めかけていた。
近くのマンションやビルにも警備兵がいる事から、狙撃対策も万全ということか。
少し奥に入り込めば、美味しそうな匂いが漂ってくる。
帝城は消臭がしっかり行われていたから、こういう流れてくる匂いはなかったな。
「さあ、どんなものでも手に取るといい。貴方は賓客なのだから」
「ふうん...アル、何か食べたいものある?」
「...リリーさんが取ってきてくれるなら、なんでも食べる」
アルは何か言いたそうだったが、最終的にそう言った。
俺は一瞬悩んだが、とりあえず野菜でいいかと判断する。
ペルソナが毎日の食事を報告してくれているが、野菜が足りないように思える。
適当に屋台街を歩いて、串焼きに目を留める。
野菜も一緒に串に刺さっている。
「これにします」
「請求は帝室で頼むぞ」
「い、いえっ! 皇帝様に支払わせるのはあまりに恩知らずです、無料で持って行ってください...」
購入しようとすると、店主が畏れ多すぎるといった様子で、支払いを拒否してくる。
その後も金を受け取る気が無いようで、俺が前に出る。
「なら、私が払いますよ。皇帝に払わせるより、幾分か気が楽でしょう?」
「救世主様...ありがとうございます...!」
拝まれた。
そんなにか。
ただ、皇帝が直接払うより、俺が払う方が心理的負担は少ないらしい。
そりゃそうか、生まれた時から崇める対象の皇帝と違って、俺はいきなり現れた国賓というだけの女だからな。
「はい、アル」
「...うん」
俺は串焼きをアルに渡す。
アルはそれを頬張っていた。
俺も、屋台から離れてそれを口にする。
美味いな、ただ上品な味付けでは無い。
帝城で繊細すぎる料理を食いすぎたせいで、若干雑味が多く感じてしまう。
「私も食べていいか?」
「服が汚れてしまいますから、汚れなさそうなものを探しましょう」
俺は次の屋台を探し、足を動かした。
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