264-再びの会話
夜。
俺は再び城の最上階に呼ばれていた。
夕飯は既に済ませた後なので、別の用事だろう。
「何のご用事ですか?」
「......お詫びがしたかっただけだよ」
「.......昼間の、ですか」
俺は呟く。
正直、怒りに任せすぎた。
あんなキャラじゃないのにな、俺は。
「きっと、言及するべきことではなかったんでしょうね」
「......黙っている方がいいと?」
「事態を大きくしてしまいましたから」
今考えれば、ケレンと俺は一度会っただけの仲。
彼は結果に満足しているかもしれないし、俺が口出ししたことで名誉が穢されたと思うかもしれない。
一度会っただけの人間の気持ちを量り、それで憤る。
冷静になってみれば、あまりに馬鹿らしいことだ。
「いいや。.......これは皇帝として相応しくないもの言いかもしれないが、君は立派だ。あの場に居た誰よりも、高潔だったと断言しよう」
「......」
皇帝が自分を下げて褒めちぎる。
それなら、俺もその名誉を受け取るほかない。
黙り込んだ俺に、皇帝が言葉をかける。
「認めよう、認めなければいけない。我が国は、酷い人種差別問題を、非常に長い時間抱えてきた。外部の人間でなければ、ここに一石を投じることは難しかった。.....正直なところ、胸がすっきりした」
「....そうですか」
周囲の人間の「こいつ早く帰らねえかな」ポイントが急上昇したんだろうな。
ただ、少しだけ俺にもわかる。
皇帝は人種差別をなくそうと努力したんだろう。
ただ、あのように。
軋轢を生まないように、反逆の種を蒔かないように、進めるのは難しい。
何世代もかかる事だろう。
「そういえば、どうしてあんな風に感情を露にしていたんですか?」
「....シラルドの事を悪く言われただけだ、気にしなくていい」
「.........」
掘り下げる気は俺にも無い。
ただ、何を言われたかは想像に難くない。
詳しい事情は知らない。
だから、俺がかける、かけられる言葉は一つだけだ。
「大変ですね」
「ああ、とても」
俺は何にも関わる気はない。
少し短慮で複雑な問題に足を突っ込んだが、このまま帰れば済むことだ。
「――――リアシュさん」
「.....どうした?」
「私は、そろそろ王国に戻ろうと思います」
俺は本題を切り出す。
向こうから言いださないところを見ると、もしかして俺に遠慮しているのではないかと思ったからだ。
「そっ...! それは、何故だ? 俺たちのもてなしに、何か不満があったか?」
「いえ、元より剣闘士大会までという話でしたので...」
「...そうか」
何を理由に引き留めようとしているのかが分からない。
今の反応から、俺のこの発言に驚いている様子だった。
「君が帰りたいと言うなら、俺に引き留める覚悟はない...」
「はい、一週間後に帰国を予定します」
「...分かった、では、それより前に君を街に案内したい。...構わないか?」
俺は頷く。
帝都観光はこちらも望むところだ。
皇帝は笑顔になり、すぐに顔を背けて帝都を見下ろす。
...そうか、今まで星ばかり見ていて、気付かなかった。
このバルコニーは、帝都を一望出来るのか。
いや、違うな。
俺が夜景に興味がなかっただけだ。
宇宙に気を引かれているという訳ではない。
「...では、この辺で失礼します」
「ああ。....いい夜を」
もうそろそろいい時間だ。
床を共にするのでもなければ、帰った方がいいだろう。
俺は一礼すると、バルコニーを後にした。
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