260-高潔なる剣士
散歩のルートを変えてみよう。
そんな考えが、俺の中に浮かんだ。
毎日同じルートを散歩していたが、たまには別の場所を通っても構わないだろう。
何しろ、中庭は広大である。
城自体の規模がとんでもないものなので、ルート選びには事欠かない。
「(体を動かす事くらいしか、する事もないしな)」
俺は庭園に出て、歩く。
帝都の空は青鈍色で、どうも晴れていてもほの暗い。
気分が落ち込むが、帝都で暮らす人々にとっては快晴だ。
花を愛でる趣味もないが、植え込みに咲く花に目をやる。
「.........」
一人だと、本当に情緒が湧かないな。
俺は中庭を出て、中へと戻る。
エレベーターホールに向かい、何階に何があるかを確かめた。
「...訓練場? そんなのがあるんだ」
何の訓練だろう。
俺は気になり、エレベーターに乗る。
思えば最近は、自室と中庭と最上階の往復で、帝城内を探索したりはしていなかった。
俺の権限なら大抵の場所には入れるようだし、帰国前に二度と見られない城の内部を探索するのもありだな。
「ここが訓練場と」
扉を開いてみると、暗いマシンジムが見えた。
貴族専用のジムみたいなものか?
人はいないらしい。
ただ、奥に灯りが見えた。
俺はそちらへ寄ってみる。
灯りの正体は、奥にある広大な空間を見下ろす観覧席だった。
そこから見下ろすと、下では一人の男が剣を振り回していた。
剣を当てる用の柱が等間隔に並んでいるのをみるに、武器の訓練用のスペースなんだろうな。
だが、何より目を引く事がある。
俺はそれを確かめるために、下へと降りた。
「っ、誰だ...? って、リリー・シノ様ですか!?」
「え、あ、はい」
降りた瞬間、武器を下ろした男がこちらを見た。
俺は曖昧な返事を返す。
やはり、そうだ。
ウォルタール人の特徴を備えた、この城で見たシラルド以外の人間。
「やはり、シノ様も剣闘士大会に出られるのですか?」
「あ、いえ。私は見学に行くだけですので」
この細腕で剣が持てると思うか?
俺は自分の腕をつついて見せる。
「おお...英雄様が見てくださるのであれば、我々はいつもより死闘を演じられましょう」
「...いつも通り戦ってください」
そういうのはやめてほしい。
全力で、かつ人道的に戦ってほしいものだ。
「ところで、お名前は?」
「あっ...失礼致しました、俺の名前はケレン、ケレン・ウィラーと申します」
「貴族ではないのですね」
「貴族お抱えではありますが、この国でウォルタール人...私のような者たちは、尊い身分になる事はできないですから」
ウォルタール人の貴族はいない。
それなら、シラルドは何なんだ?
「その方のご厚意で、この訓練場を使わせて頂いています。普段使うと文句を言われますが、この時間帯ならば誰もおりませんので」
「なるほど」
俺は周囲を見渡す。
柱は綺麗に見えるが、ある箇所だけが集中的に攻撃されたようで、へこんでいる。
「頑張ってください」
「ええ、当然です」
ベタな応援に、ケレンと名乗った男は気持ちのいい笑みを浮かべてガッツポーズをした。
しかしまあ、凄まじい筋肉だな。
今からでも俺もマッチョになれないかな?
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