258-蠢く貴族たち
「何て事をしてくれたのよ!」
軽い音が、一室に響き渡る。
声の主は、アリアであった。
彼女の目の前には、頬を張られ、しかし理不尽に耐えているリューナ・ヘイロン子爵令嬢が立っていた。
リリーとシラルドに対して嫌がらせを画策した張本人であり、本来ならばこの場面は「飴」を与える場面であった。
後ろ盾のないシラルドに対して何をしようと、アリアたちに影響はない。
ただ......
「少し悪く言うだけでよかったのよ、恥をかかせろとは一言も言っていないわ!」
「.........はい」
嫌がらせをしろ。
そう命じほくそ笑んでいたアリアのもとに、一通の手紙が届いた。
その中には、約束した皇帝の情報が書かれていたのだ。
アリアは自分が恥ずかしい事をしているのだと、それだけで気付かされた。
リリーは純粋に、自分と皇帝の恋路を応援してくれている。
だというのに自分は、何とあさましいと。
その怒りを主犯に向け、アリアは自己の崩壊を防いだ。
「もういいわ、帰りなさい」
「.....はい」
安堵したように表情を和らげる子爵令嬢。
そして、そそくさと去っていく。
アリアは窓の外へ目をやった。
木々の隙間から、皇帝と歓談するリリーの姿が見えた。
「どうして......」
皇帝に恋心など全く抱いていない女は、自分よりも皇帝の心を掴んでいる。
けれど、自分の欠片ほどの良心が、リリーに対して嫌がらせを仕掛けるのは卑しい行為だと訴えている。
身分でも、心でも、その在り方でも。
リリーに対して勝つことはできない。
「早く帰ってほしいわ....」
それだけが、彼女の本音であった。
これ以上皇帝の心が動かされる前に、早く。
早く。
帰国してほしいと。
貴族街にて。
その中央付近にある大きな屋敷に、多くの者たちが集まっていた。
この者たちは高位の貴族であり、本来は「別の場所にいるはず」の貴族であった。
「デュリオン殿、此度の案件如何する?」
一堂に会した彼らは、その場を纏める者に対して口を開く。
暗い部屋だ。
だが、唯一の光源がある。
唯一の光源である窓を背に座る男。
――――カスター・リドル・ジェイラム・デュリオン伯爵。
貴族界の事実上の支配者である。
「ゼントラル子爵、君に発言の許可を与えたつもりはないが?」
それに対して反論するのは、マルゴ伯爵。
新参者がしゃしゃり出るな、と言いたげだ。
「まあまあ、マルゴ伯爵」
怒気を強めるマルゴ伯爵だったが、響いた冷ややかな声に身を竦める。
この場で最も恐ろしい人物が、声を発したのだ。
黙るのは当然の事である。
「救世主――――英雄爵を救う者の登場は、確かに大ごとですが...我々には何の影響もないのでは?」
「ですがっ、皇帝のお気に入りになったとのうわさもあります」
「ふむ.....それだけで動くのは、馬鹿のやる事ですよ――――貴方は、馬鹿ですか?」
なおも食い下がるゼントラル子爵に、カスターの冷ややかな声が追い打ちをかける。
自分は無知で、場違いな存在なのだとゼントラル子爵が理解するのに、さほど時間はかからなかった。
不気味なほどの笑みを浮かべて、カスターは言う。
「けれど、そうですね――――悪くない意見ではあると思います。我々で、出来る事をやってみましょうか?」
新参者の意見でも、使えるかもしれないですね?
そんな含みを持ったカスターの言葉に、その場にいた者たちはただ頷く他なかった。
カスターという男には、この場にいる誰もが知っている特徴がある。
皇帝を――――憎悪しているという特徴が。
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