254-差別の歴史
「ねぇ、ウォルタール人って何?」
「あッ、それはだな...」
あの場から逃げて、風呂に入った後。
熱冷ましと乾燥を兼ねて庭園で休んでいた俺は、隣にいたナスカ...ではなくてシラルドに聞いた。
気になっていた事だ。
ウォルタール人とは何のことだ?
差別用語である事はそうなんだろうが、その事情を俺は知らない。
「...まあ、俺たちみたいなのを指す言葉だよ」
「シラルドみたいな?」
「褐色と、黒めの髪色。...帝国南部の移民にありがちな、特徴だぜ」
「...」
それはつまり。
人種差別と言うことか。
胃が落ち込む感覚が、直に伝わってくる。
だが、皇族であってもそれを否定できないほど、シラルドの立場は弱いのか?
「...リリーさんの想像してる通りだ。俺の立場は弱い、兄貴に縋らない限りは、何の権力もないだろうな」
「だから逃げ出したの?」
「いや...ああ、そうかもしれない。俺はそうするのが最善だと思ったけどよ、逃げ出したようなものかもしれない」
しょぼくれるシラルド。
だが俺は別に同情はしない。
そこまで俺は慈悲深くないからだ。
「それで、何でウォルタール人は差別の対象なの?」
「...歴史の話をしてやるよ」
シラルドは話し出す。
まずは、二つの文明の成り立ちについて。
「帝国は今は一つだが、昔は二つの国だった」
「それって、統合したってこと?」
「いいや、統一された」
互いの国が二つで一つになったのではなく、片方が片方を攻め滅ぼして統一した、そういうことらしい。
「旧帝国は多民族国家だったんだけどな、ウォルタール人の国...ベルメリア皇国は、元は一つの惑星で、何百年もかけて入植を繰り返して来たんだ」
帝国は長い間、ベルメリア皇国のある星系に繋がるゲートを発見できていなかった。
しかし偶然それが発見され、ベルメリア皇国は征服された。
ここまでは問題なかった。
しかし、とある事情がベルメリア...ウォルタール人たちを苦しめた。
「俺たちは元々、光速航行用のエンジンにガスパール機関というものを使っててな、最近はナイアール機関に置換されているが、以前はハロマイト鉱石ってのを使ってたんだ」
「そのハロマイト鉱石が、ウォルタール人の土地で採掘できてしまった...って事?」
「平たく言うと、そうだな」
ハロマニウムという物質を多く含む鉱石であれば何でも良かったようだが。
そして、悲劇が始まったというわけか。
ウォルタール人は鉱山労働者で稼ぐようになり、産業は衰退し、帝国からの物資に頼るようになった。
いや、そうじゃないんだろうな。
そういうふうに誘導された、というべきか?
「帝国人...ベイラス人は、明るい髪色と白い肌が特徴なんだ。ウォルタール人は珍しかった」
「王国だと珍しくないんだけどね」
「どこもそうって訳じゃないからな」
そして、結局人種差別は起きてしまった。
ウォルタール人はそんなつもりは全くなく、真面目で勤勉だったが被害者体質だったために、かえって差別を助長した。
「もう理由なんてどうでもいいんだよな、ウォルタール人だから、差別されるんだ」
「.........」
ウォルタール人の差別はわかったが、じゃあ何故ナ...シラルドは“こう”なんだろうか。
なぜ皇族になったんだろう。
本人が言い出さないのにそこに踏み込むのは、あまりに失礼だろう。
歴史を知ったはいいが、本質にあまり辿り着けそうにはないな。
「講義ありがとう、講義代を支払うべきかな」
「いや、要らねーよ」
「そう」
そして、また俺たちは他人に戻って別れた。
ナスカの行為は許せないが、彼も苦労しているんだなと思うのだった。
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