251-アルの心配
アルの朝は遅い。
早くに寝ても、大抵はオリオン内標準時の午前9時に起きる事が多い。
今日は少し早く目覚めた彼は、一人で着替えて顔を洗い、歯を磨く。
「おはようございます」
「おはよう」
彼は艦内を移動し、食堂へ向かう。
そこでは既に、ペルソナが朝食を準備していた。
見慣れた食パンの上に野菜と薄切りのハムを乗せ、贅沢にもう一枚のパンで挟むサンドイッチである。
パンが残ったとしても、トースターに突っ込んでバターを塗って食べればいい。
アルは意外と、このメチャクチャなコンセプトの食事が気に入っていた。
「リリーさん、まだ帰ってこないの?」
「ええ、これで三日目ですね...」
食卓が寂しい。
その感情を、アルは押し込めた。
心を病んでいるわけではなく、仕事で外にいるだけだ。
ただ、それはそれで父親と重なる部分も多い。
アルはずっと一人ぼっちで、ようやく心を許せる父親以外の存在が出来た。
けれど、それも上手くいかない。
リリーは忙しくなり、ナスカはリリーとの仲が悪くギスギスする。
「ねえ、リリーさん、このままお城に住まないかな...」
「それは...」
皇帝との婚姻を意味する。
ペルソナは即座に意味を察する。
そして同時に、子供に結婚の難しさがわかるはずもなく、これは戯言なのだと判断する。
リリーを取られてしまうのではないかと思ったが故の。
「大丈夫です! 結婚なんてそう簡単にできるもんじゃないですし、第一会ったばかりの陛下がリリー様に一目惚れなんて、恋愛ドラマじゃあるまいしないですよ」
「...そうかなぁ」
まさかその通りとはつゆ知らず、食事を終えたアルは自室に戻って勉強を始める。
アルの頭脳は、急激に成長している。
リリーを手伝う男になると決意した彼は、法律や地理、数学から外国語に至る多くの学問を修めている最中であった。
しかしそれだけ学んでも、男の友人はいない。
彼を突き動かす感情が何かを教えてくれる友人は。
「お昼ご飯、お持ちしましたよ」
「ありがと!」
勉強中の彼の部屋に、ペルソナが入ってくる。
昼はカレーパンと、ポタージュスープであった。
折衷案としてリリーが思いだしたものであり、ペルソナはこれをよく作る。
カレーライスに関しては、アルはリリーの作ったものしか食べないからだ。
「...」
食事を終えた彼は、再び参考書に目を通す。
彼は普段はブリッジで勉強している。
何故なら、リリーに自分が頑張っている姿を見ていて欲しいからである。
食事も、必ずリリーと共に食べる。
いつか別れが来るとしても、もう少しだけ、一緒にいたいと彼は常に思っている。
「あ、うーん...ペルソナに手伝ってもらおうかな」
そして、勉強に飽きた彼はエグニカ・ドールクライスを起動する。
エンドコンテンツに挑むが、彼だけでは厳しい。
ペルソナを呼び、何とか攻略する。
「リリーさん、ゲームだと勇ましいのに...」
現実ではそうではない。
それは、命を持っている自覚があるからだが、アルにはまだ難しい話だった。
そのうち夜になり、彼は食堂で夕食を食べる。
ペルソナは食事機能を持たないため、会話をしながら食事をしても、味の感想を言う相手がいない。
それでもアルは、自分の状態がリリーの状態に直結することを知っている。
だからこそ、普通に生活する。
「アル様は、どうしてリリー様に思いを伝えないのですか?」
「思い?」
風呂に入ったアルは、ペルソナに体を洗ってもらう。
少し前はペルソナに同行してもらうのは恥ずかしいと思っていたアルだったが、リリーからアルが溺れたら助けろと言われているためペルソナは強行する。
なので既に慣れたのである。
「リリー様が必要なのではないのですか?」
「ううん」
「大事で、心配じゃないんですか?」
「それはそうだけど...ただ、一緒にいると落ち着くから」
「素直じゃないですねぇ」
体を洗ってもらった後、アルは風呂に入れられる。
ペルソナの調整で、アルの身長の2倍ほどはある水量は身長に合わせて調整されている。
「ねえ、ペルソナ」
「何でしょう?」
「リリーさんに抱きしめて欲しいって言ったら、してもらえるかな? 気持ち悪いって思われないかな」
「全然大丈夫じゃないですか?」
「わかった」
ペルソナに何を頼むにも躊躇しないアルだが、リリー相手には嫌われないように立ち回る。
成長型AIであるペルソナは、それをとても微笑ましいことだと認識できるまでになっていた。
アルが寝静まり、オリオンに再び夜が始まる。
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