250-茶会の真意
「初めまして、リリー嬢。わたくしはアリア・サベール・リャイヤ・サフィアですわ。伯爵家の跡取りとして、日々励んでおりますの」
「それはそれは...私はリリー・シノです、以後お見知り置きを」
「素晴らしい言葉遣いですわね、今日のために必死に練習して来たのでしょう?」
「ええ、実はそうなのです」
無論、嘘だが。
謎の翻訳機能で、俺の丁寧語は正統エストジール帝国語に聞こえているようだ。
そして、悪意を隠さないサフィア令嬢。
逆に清々しいな。
平民に言語を扱う能力はないとでも思っているんだろうか。
まあ、ここは下手に出て、なし崩し的に終わらせよう。
ここで頭を下げて面倒が避けられるなら問題はない。
俺は貴族と敵対までして自分の正義に殉じるつもりはない。
「ときに、質問があるのだけれど?」
「ええ、なんでしょうか」
「帰国の日はいつか教えていただけますこと?」
ストレートに来たな。
帰れ、か?
別に帰ってもいいんだが、黙って帰るのはまずいよな。
「予定もなく来たもので、皇帝陛下と相談して決めなければいけませんね。ですが、一ヶ月以内には帰ります」
「あら...そうなのね」
何を心配しているか分からないが、俺はもらうものを貰ったら王国へ帰る予定だ。
特に絡まれる筋合いはない。
「それは良かった。わたくし、皇帝陛下があなたを特別扱いしていると勘違いしていましたの」
「皇帝陛下が? ありえませんよ」
「ええ、でもそれはあなたの考えでしょう? 誰も皇帝陛下の真意を汲み取ることはできませんわよ?」
扇子を取り出して口に翳す彼女。
見下すような視線が、俺を射抜く。
口を出すな、ということか。
気を付けよう。
「皇帝陛下はそのように単純ではありませんけれども、貴女のその容姿と肉体に惹かれぬ男はいませんものね、不安になっても仕方ありませんわ」
「ええ、その通りです」
周囲の令嬢たちは黙り込んで何も言わない。
相当怖いんだろうな、俺も怖い。
「獣に襲われる前に、王国へ戻った方がよろしいと思いますわよ」
「強くそう思います」
獣か。
果たして他の貴族のことなのか、それとも刺客なのか。
まあ、それはいい。
俺は少し気になった事を尋ねることにした。
「質問、構いませんか?」
「ええ、自由にして構いませんわ、わたくしでも、他の誰にでも」
「サフィア様は、皇帝陛下をお慕いしているんですか?」
その瞬間、サフィア嬢の顔から表情が消える。
直後、顔が一気に紅潮した。
なるほどな、俺にこだわるのはそういう理由か。
「な、何を...そのようなことはありませんわよ!」
「失礼しました。もしそうでしたら、皇帝陛下の好みや趣味などを聞き出しても良かったんですが」
「...そう、そうね。興味はあるわ、後で教えて頂戴」
「ええ」
借りを作る機会をゲットした。
皇帝の情報を喜んで流すとしよう。
リリーが去った茶会で、アリアは拳を握りしめていた。
してやられたと、彼女は悔しかった。
彼女にできる精一杯の悪意をぶつけても、なおリリーは高潔であった。
皇帝がリリーにご執心だというのは、噂好きな者たちの間では周知の妄想である。
それに危機感を覚えたアリアは、自分で動くことにしたのだ。
「サフィア様...」
「あの子を許してはダメよ、わたくし達でいじめ抜いて、さっさと王国に帰ってもらうわ」
「流石です、サフィア様」
「あんな田舎女に負けないでください」
子爵令嬢が吐いた田舎女という言葉に眉を顰めるアリアだったが、すぐに笑顔を浮かべる。
「ええ」
もう一つの悪意が、蠢き出す。
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