8話 仲間について2
またこの景色。大きいもの小さいもの、太いもの細いもの、実をつけるものつけないもの、雪を被るもの被らないもの。
そんな区別など一切なく、斜面に整列する木々。
まるで、軍隊のようだ。
しかし、隊長がいない。司令官がいない。
いないようでいるのだろうか。
いるとしたらどんな木だろう。
その木を使って焚き火をしたいと思ったとする。
どうするだろうか。
俺なら、この山の木を全部ちょっとずつきって、集めて、火をつける。
その中にリーダーは少しだけだがいるはずだ。
「レア隊の今回の任務はこれだ。」
隊長から作戦が伝えられる。ここ1年、戦争は膠着状態。現状に満足している軍部ではない。レア隊は敵の要塞の一つ、バーギルアの偵察を任された。ここをさっさと落としてしまいたいということだろう。
「バーギルアの偵察か。」
「偵察だけならなんとかうちの隊だけで足りるか。」
「ああ。俺らも直接攻撃するわけじゃない。」
「了解した。」
「くれぐれも安全に、だ。今までとは規模が違う。」
「了解した。」
ザッ、ザッ、ザッ——もう少しでバーギルアにつく。要塞とはどんなものだろう。今までは駐屯地になりかけているキャンプなどをねらってきた。
「うあ。すげえな。」
「ああ。」
バーギルアは自然の地形をうまく利用した要塞だった。派手さはないが、機能性は高そうだ。
「ここにいて見つからないのか?」
「ああ。ここは大丈夫らしい。ここからは攻撃の手立てがないからな。守りもしなくていいんだろう。」
「なるほど。」
「ここにもし監視の目が届いているとたら01の人間は女と握手するときに握りつぶされないか心配しないと気がすまないだろうな。」
「ちょっとよくわからんが、」
「忘れてくれ。」
パァン——銃声。
「左後方!」
「なに?そっちは俺らの隊がいるところ。」
「自分の安全を最優先。音源の方向に向かうぞ。」
まずいかもしれない。01を取り違えていた?戦争では女の握手すら命を落とすきっかけとなる。と、クレバーな国なのか?
だとしたら俺もバレている?
ザ、ザ、ザー——トランシーバーがなる。
『こちらレア隊ミール班。班員の一人が発泡。野生動物を敵と勘違い。どうぞ。』
「なんだと……。ヘマをしやがって。それでバレたらどうするんだ?」
「どうするも何も逃げるしかない。これでバレている可能性だって十分にある。変えるぞ。俺達のキャンプに。」
「了解した。」
キャンプについた。どっと疲れた。心臓が跳ね上がっている。
「バカ野郎がいたな。」
「ああ。あんなのが隊にいたんじゃ、仕事にならん。」
「レア隊ってそういうところなのか?」
「俺達だって実戦経験がないうちに入れられたしな。」
「くそ。」
「考えても仕方がない。今日はもう休もう。」
「ああ。わかった。」
こんなようではいつ死んでもおかしくない。自分の身は自分で守るようにしてきたが、限度というものがある。あしたからどんな任務を任されるのか。今日ので使えないことがわかったのだから、最悪、隊が解散になるのかもしれない。別にそれでもいいが、こいつと一緒でいたい。
「今日は、もう一度バーギルアに偵察に言ってもらう。」
「なんだと?昨日あれだけ危険な目にあっておいてなんでだ!」誰かが反論する。
「上から言われた。」
「上から言われたって、あんたそれちゃんと拒否したのかよ。この隊の状況わかってんのか?」
「だまれ。命令は絶対だ。」
「嫌だ。俺は行かないぞ。命が惜しくないやつだけ行けばいいじゃないか。」
「お前も行くんだ。人数が足りていないんだ。」
「じゃあ、この隊じゃなくていいだろ。こんなできたばっかの隊で、バーギルアのようなデカい要塞を見てくるなんておかしいだろ。」
「黙れ!」隊長は厳しい目をした。
「俺だって嫌だ。だがよく考えてみろ。この戦争は長いこと続いている。これを終わらせるには今までにないようなことをしなければいけないんだ。それがこの攻撃的な行動、危険を顧みない行動だ。黙って飲み込むんだ。自分の身を守るんだ。生きて帰ってさえ来れば、何かしらがある。それまで辛抱するしかないんだ。」
「そうは言っても、」
確かに無謀だ。間違っている。俺は、この作戦で死ぬのだろうか。
カサカサ、ピィーッ——森は様々な生き物の音がする。その中で人の音はよく目立つ。
「ついたな。」
「ああ。」
「ここからは班別行動だ。」
「よし。」
絶対に失敗はできない。班別行動はありがたい。他の奴らに迷惑をかけられる心配がないから。
十分ほど歩いた。
ザザ、ザー——トランシーバーがなる。
『聞こえるか?エリック、マスク。』
「ああ。どうした?」
『なにか変わったことはないか?』
「ない。」
『作戦変更だ。お前たち、弾はどれだけ持ってきている?』
「かなり多くある。」
『よし。では、我々はお前たち二人を残して撤退する。そして、お前はできるだけ敵に被害を与えろ。詳細は任せる。できるか?』
「なぜそんな判断をした?」
『それを答えている暇はない。いいか、悪いか、だ。』
「それを知るまでは言わない。」
『ああ、わかった。端的に説明すると、俺達のキャンプが攻撃されたらしい。俺達は戻って挟み撃ちにする。その時、ここからは出てくる奴らを足止めしてほしい。』
「なるほど。わかった。」
『では頼んだ。』
「キャンプにいたら危なかったかもしれない。」
「ああ。命拾いしたのかも知られないな。」
「俺達はここでやるか。」
「エリック、どう攻める?」
「今までは待ち伏せの戦法だったから、攻めのやり方は知らない。」
「そうだな。」
「とりあえず目に入ったやつをやるか?」
「いやまて。あれを使う。」
「どれだ?」
「オキとベンがやっていた、一人を十人に見せるあの戦法なら、集団で攻めてきたと思って下手に動けなくなるだろう。」
「なるほど。確かにそれがいい。まさかここでいきてくるとはな。」
「ああ。そしたら準備をするぞ。」
カチャカチャ——スナイパーの準備は本来、大変なものだ。しかし、撃って走ってまた撃ってとするこの戦法は極限までその準備を短縮してある。
「よし。できた。」
「では、あの男だ。このまま歩けば弾道が開ける。」
「了解。」
パキ。——
パァン——
「あたった。おそらく即死。行くぞ。」
「よし。」
少し懐かしい。重たい荷物をもって走るこの感じ。
「ここだ。」
カチャカチャ——
コキッ——
「先ほどの男の周りにいて、指示を出しているあの男だ。」
「了解。」
パァン——
「もう一度。」
パァン——
「よし。次だ。」
走る。走る。走る。俺達は01の兵を減らすんだ。
「ここだ。」
パキッ——
パァン——
パァン——
「よし。一旦引くぞ。」
「了解。」
山の奥の方に逃げた。なんとなく懐かしい。しかし、感慨深いものではない。思い出したくなかったものを思い出してしまったような。
「上出来だな。」
「ああ。」
「この感じ、嫌だな。」
「ああ。背筋が凍るし、初めて人を撃ったあの感覚が蘇って来るようだ。」
「俺もだ。」
「少し休憩したらもう一度いくか。」
「ああ。」
そういう相棒の目は光を失っていた。
「大丈夫か?」
「ああ。すこし、動揺しているかもしれないが、大丈夫だ。」
「では行こう。」
「了解した。」
「先ほどから兵の動きを追うとどうやらあの部屋に偉いやつがいるらしい。」
「そこを撃つか?」
「いや、どうせ無理だ。」
「だったらどうする?」
「あの男だ。確実な位置にいる中で一番位が高そうだ。」
「了解。」
ヒュウ——
冷たい風が目に染みる。一度両目を閉じ、深呼吸をする。ここは敵からかなり距離があるが、ここは戦場であり、気を抜くと一瞬で命を落とす。前方を見つめて、いつものようにクラッキングをした後、指が引き金にかかるのをしっかり確認する。あとは引くだけ。神経を尖らせ、実行する。銃声とともに今、人が一人死んだんだという実感が湧く。二十歳の俺はもう何回も戦争を経験したが、この気持ちはいいものでは無い。




