7話 仲間について
一年経った頃、また例の場所に呼ばれた。今度は01との直接の戦いだ。徴兵の連絡が来たとき、震えが止まらなかった。ついに来てしまった。俺は、いい加減な戦いなら断ってもいいと思っていた。なぜなら今回は今まで以上に引き止められることはわかりきっているからだ。まえの戦争から帰ってきて二ヶ月ほどしたとき、シリと初めてデートに行った。その一ヶ月後に付き合い始めた。そしてこの手紙を受け取ったわけである。無論、行くしかない。
強く引き止められた。しかし、行くと言って聞かなかった。そして、荷造りをし、出かけた。
「よう。」
「よう。一年ぶりだな。エリック。」
「元気にしていたか?」
「ああ。そっちはどうだ?」
「ぼちぼちだ。しかし、また始まるんだな。」
「ああ。お前にとって大きな意味を持つのはわかっている。くれぐれも無茶をするなよ。」
「危険が迫ったときはその耳で俺を助けてくれ。」
話をしていると、背筋に張り付くようななにかを、感じた。振り返らなくてもわかる。
「よう、お前ら。体は元気か?」
「はい。二人はあれからずっと戦場にいるんですか?」
「そうだ。」
やはり、これだ。戦場というわけのわからない場所にずっといるなんて狂っているとしか考えられない。今日はとりあえず部隊分けとその中での班を決めることになっている。本格的に動き出すのは一週間ほどしてからだ。
整列してから順に振り分けられる。
「カリー=スミス、メタ隊。」
「エリクサンドラ=グロウビッツ、レア隊。」
「マスク=ブラットマン、レア隊。」
「マイケル=クルシュファー、レア隊。」
「オキさん、ベンさん。俺達レア隊って言う聞いたことがない隊なんですけど、どういうことですか?まさか新しく二人が作ったとか?」
「いや、俺とベンは今まで通りオーガ隊だ。」
「えっ?一緒じゃないんですか?」
「そうらしいな。あと、レア隊なんてのは俺達も聞いていない。新しいんだろうな。」
「そうですか。」
「今まで世話になったな。」
「素っ気なさすぎじゃないですか?二人は知っていたんですか?」
「そんなことはない。だが、上から振り分けられなかったやつに特に挨拶などないだろう。この一年も何もしていない。」この二人はこういう人種なのだ。別れを惜しむだけ無駄なのだろう。
「行こう。」
「ああ。」俺たちはその場を離れた。
レア隊というのは小さな隊だった。その中で、俺たちは二人のみの班として動くらしい。もうすでに一人前だということだろうか。
「なあ、どうする?」
「ん?うーん……どうっつってもね。」
「とりあえず、隊長からもらったリストがあるが、」
「オキたちのようにやれるわけじゃないからな。」
「そうだな。」
「コールマン少佐、隊を一つ持っている。この男が今日の夕方この近くにやってくる。すばしっこいやつらしい。」
「そいつが最初のターゲットだな。しかし、毎度毎度よくこんな情報を仕入れてくるよな。」
「聞くところによるとスパイがいるらしい。」
「ほう。」
「こちらにも何人かはいるかもしれんがな。」
「そうだな。だが、我々は隊の変更が激しいから情報伝達が難しいのかもしれないな。」
「ああ。それで俺達も新しい隊になったしな。」
山の中腹でおそらくコールマンというのが現れるだろう場所を見張る。今の季節、一面は雪で覆われている。とげとげした葉をつけた真っ直ぐな木々が表情一つ変えずに突っ立っている。まるでクローンのように一つ一つが同じ格好をしている。深い緑であるはずの葉も黒く見える。
「そろそろ来てもおかしくない。」
「了解。」一言で返事が済んだ。天気はいい。視界良好。風なし。目を凝らすと微動だにしなかった自然の中で規則的に変化するものがみえた。
「見えた。」
「ああ。俺も見えた。」
「どれがコールマンだ?」
「わからないな。もう少し待って、あぶり出す。」
「任せる。」
五分待った。俺のやり方はこうだ。オキ、ベンはそうはしなかった。
パァン——一人に弾があたった。その瞬間、目をぐっと凝らす。負傷した兵士以外に人の注目が集まる人間が一人。二人。
「前から二集団目最後尾と最後尾集団先頭。」
「そのとおりだ。」
パァン、パァン、パァン、パァン——
四発の銃声。いずれも目標へのヘッドショット。確実な殺人を感じた。
「退散。」
「エリック、マスク。」
「隊長。なにか用ですか?」
「ああ。お前らはコールマンを仕留めたらしい。確実な線から連絡があった。ご苦労だった。」
「ありがとうございます。」
「しかしその他に一名いただろう?そいつはなぜ殺したのかきいてもいいか?」
「あっちもコールマンかなと、迷って」
「迷って、だと。お前らは今までオキとベンについて行ってたらしいな。俺もあの二人は知っている。あいつらは無駄打ちを極端に嫌うだろ。そこで育ったお前らはなんでそういうふうにするんだ?」
「だめですか?」
「ダメではない。むしろ、保険をかける意味では正しいことをやったと言ってもい。」
「単純に動機ですか?それだと、さっさとやりたい。が理由です。どれが本物か迷ってる暇があるならどっちもやろうと。」
「なるほど。確実に早く。と言うことか。」
「はい。」
「なぜそんなにあせっているんだ?なにか特別なものが……」
「隊長!言っていいことと悪いことがあります。」相棒が割って入る。
「……。あ、すまなかった。」
「いえ。感情的になりました。」
その次の日も次の日も、リストに載っている人物を殺す日々だった。
「これ、意味あるのかな。」
「これって言うのは?」
「偵察に来た奴らをちまちま殺して01は弱るのかな。俺の中の憎しみは全く消えない。オキたちが任されてた奴らより見るからに小物じゃないか。ターゲットは。それで何が変わるのか?答えは何も変わらない。だ。」
「エリック、言いたいことは分かる。俺も感じていたことだ。しかし今は耐えだ。今回の徴兵は短い。この間に戦績を作って次回からデカいやつを任されればいい。」
「そうはいうが、」
「そうはいうがなんだ?それ以外ないんだ。他の手を模索しても出てくるのはこれよりひどい結果だ。最短がこのやり方だろ。」
「ああ。」
「さっさとやるために複数人殺す作戦を使ってるんじゃないのか?」
「そうだな。ああそうだ。そう。」
「スッキリしたか?まあ、無理もない。というか俺もこうして話して整理できた部分もある。感謝するよ。」
「何だよそれ。お互い、頑張ろうぜ。」
両親と妹を亡くした悲しみというのは簡単に捉えられるものではない。悲しみはいつか怒りや憎しみといった感情になる。それを自分が一番わかっている。本を辿れば悲しみだったのだ。いま自分が戦場にいるのはそれを忘れないためなのかもしれない。最初に仲間がたくさん死んだときは悲しいより怖かった。その後、悲しかった。いまいち感情というのはよくわからない。しかし、さっきの話でわかったことがある。感情というのは論理にあてはめると薄まる。合理的に考えしまうとスッキリするかわりにそれまでの含みを失ってしまう。オキとベンがあんなふうになった理由が一つわかった気がする。
二週間して、街に帰った。今回は疲れたわけではない。自分の負担が増えたといえば増えたが、自分たちで量も調整できるのでそこまでだ。
「ただいま。」近所の人に挨拶をする。毎回だが、本当に暖かく感じる。
「ただいま。」シリにも帰還を報告する。
「良かったぁ。死んじゃうかもって思ってたわ。」
「死ぬわけないだろ。」
「わからないよそんなの。」目には涙が浮かんでいる。それを見て、この世には良い涙もあることを知った。この感情は決して合理化などしない。永久に色褪せずに取っておきたい。




