↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/11

2話 生きることについて


 00は冬に戦争を始めた。隣国と領地をめぐっての戦争だった。俺はそこに参加する事になった。しっかりと訓練を積んでいたし、俺は同期の中でも優秀な方だった。

 パチパチ―焚き火の音。大して美味くない魚を食う。小骨が多い。多少のものなら飲み込んでしまえ。

「そんなに急ぐな。誰も取りゃしねえよ。」

「すみません。サモエド副長。」俺の隊の副長はサモエドという男。サモエドと言うのはコードネームである。あごにひげを蓄えた優しげな男だ。高校で出会った親友と同じ鳶色(とびいろ)の目をしている。最初にあったときから優しく気にかけてくれた。

「焼き魚は好きか?」

「まあまあです。せめて塩がほしいところですね。」

「塩なんてのは貴重だからな。そのへんを走って汗をかいてたらしゃいいんじゃねえか?」

「それでは食事の意味がありませんよ。」

「そりゃあそうか。」こうして緊張をほぐしてくれるのはありがたい。

「サモエド、交代の時間だ。」

「おう。」やってきたのは見張りから帰ってきたガレリアン隊長。こちらもコードネーム。喋ったことはまだない。

「見たことがない顔だな。ということは新人か、コードネームはなんだ?」

「まだ決まっていません。」

「おや、そうか。なら、そうだな。スピッツというのはどうだ?」

「スピッツですか。いい名ですね。ありがとうございます。」

「いままではなんと呼ばれていたんだ?」

「名前を呼ばれることはなかったです。」

「なるほどな。昼食を摂ったら少し動くぞ。」

「わかりました。」

 俺の所属する隊は後方部隊だ。情報員とスナイパーで構成されている。

 00は南に向かって攻め込んでいる。隊は西に移動している。これは勝っているんだろうか。そんなことを考えながら雪がうっすら積もっている山道を歩いた。

「全員足を動かしながら聞け。この隊はこの山を登り、野営をする。ただし、敵の陣の一部に急接近することになる。明かりをつけることはできない。理解しておくように。」隊長がいう。

「なぜ、そんなことをするのですか?見つかる危険はもちろん、低体温症や高山病のリスクもあります。」隊員の一人が言う。

「朝になったら敵の陣の頭、リーズ少佐を撃つ。それができ次第、撤収し本陣に入る。」まじか。そんなことができるのか?少佐がすんなり打たれる位置に出てくるとは思えないが、確かにこの隊は小さく見つかりづらいだろう。隊長を信じるしかないのか。

 目的地についた。流石に疲れた。15キロは歩いたのではないか。完全に夜になっている。

「全員いるか確認しろ。」全員いるようだ。

「よし、このまま今日は寝るぞ。」よかった。もう寝よう。


 寒い。浅く眠っては目が冷めてしまう。夢さえ見れない。

 パキ―? パキ、カツ、ザッザッ―誰か歩くような音だな。他にも眠れない人が?でもふらふらと歩くだろうか。それに少し遠いところだと見受けられる。うちの隊の人間ではない?……敵……敵かもしれない。ゾッ―背筋が凍った。勘違いならいいが、そうではない気がした。手元に武器はない。とんだ大失態!敵陣を捉えた位置で手元に武器を置かないとは!音を立てないように草むらに身を潜めた。じっと、心臓の音が聞こえそうだ。

「いるならここらだ。」

「新兵の言ったことだ。信頼はできないがな。」

 敵。みんなが見つかってしまう。

「はっ。」敵兵の息を呑む声が聞こえた。敵兵もほんとにいるとは思っていなかったらしく、焦りが伝わる。しばらく二人でゴニョゴニョ言っていた。それから敵兵二人は誰からやるかを決めているようだった。ガレリアン隊長、サモエド副長をやられたら隊は終わりだ。なんとしても死なすわけにはいかない。俺が絶対に助けるんだ。……動かない?足が、動かない。恐怖ですくんでしまっている。そんなことをしている場合ではないのに。助けなければ、ここで自分が助けなければ確実に死んでしまう。

ピシィ―サイレンサーをつけているのか。……撃ったのか?誰が死んだのか?それとも当たっていないのか?

ピシィ・ピシィ―何発か落ち着いて撃っている。ということは玉は当たっている可能性が高い。痛みに悶える声が聞こえないのは全員が脳天か心臓を正確に撃ち抜かれているからだろう。ゾクゾクッ―うつ伏せのまま動けない。夜も相まって目もほとんど仕事をしない。俺は何をやっているんだ?自分だけ逃げて、身を挺してみんなを守らなければいけないんじゃないのか?もしやり過ごせたとしたらあの世で合わす顔がない。ならばここで自分も死んだほうがいいのか?馬鹿な!そんなわけがない。こんなことを考えるなんてパニックだ。あまり人が死んだという実感がない。夢なのかもしれない。ぐちゃぐちゃになりそうだ。

 敵兵二人にとっても相当イレギュラーな事態らしく、落ち着きがないように見える。そして俺は、まだ恐怖とパニックによって指先一つ、ピクリとも動かせない。少しして、二人は森に消えてしまった。バッグの数を調べればあと一人がどこかにいて生き延びていることがわかったのに、これもなんという失態だ。


 朝になってわかった。隊は俺を除いて全滅らしい。俺が、手元に拳銃の一つでも持っていれば助かった命だ。俺が殺したも同然だ。残ってリーズとかいう少佐を撃つなんてとんでもない。俺にできるわけない。少し多めに食料を持って自陣に戻ろう。

 一歩一歩が重くのしかかる。そんなに長い距離を歩いているわけじゃないのに随分つかれた。よく寝れていないからというのもあるが、目の前で仲間が死ぬのを見て、一応朝になって死んでいるかどうかこの手で確認した。そのせいだろう。

 飯にしよう。食わないとやっていけない。敵に見つかったら投降すればいい、腹が減った。木を組んで、火をつける。大してうまくないあの魚を食べる。食べながら視界が歪むのがわかる。俺は泣いているんだ。サモエド副長には世話になった。この魚は彼を思い出させる。彼には家族がいるらしい。車屋をしているお兄さんがいるそうだ。その人はどんな気持ちになるだろう。自分に想像するのは容易かった。ほかの隊員も似たようなもんだろう。新婚や親になりたての隊員もいたかもしれない。そう考えると自分を責めずには、悲しまずには、悔やまずにはいられない。でも、泣いているのはそれだけが理由じゃない。疲れているんだろう。

 また俺は歩き出した。もちろん足は重たい。でも俺は生きている。あの中でたまたま寒さに凍え、目を冷まし、耳を澄ませたのが幸いして命を失わずに済んだのだ。あまりにも特別。あの二人の兵士が人数の確認を怠ったのも幸いだ。もしかしたら神とか言うやつが俺に生きてほしいと言っているのかもしれない。戦場にいると死んでしまう仲間や敵も大勢いる。それを割り切って、そいつらの運がなかった。実力がなかったのだ。と思っていた。しかし、今の状況はどうだろうか。死んでいったほかの隊員が普通で生き残った自分が異常であるようだ。生きているというのは奇跡なのかもしれない。これまで普通に動いてきた心臓が止まり、動かなくなってしまうという瞬間は誰にでも訪れるものだ。100年待てば俺も間違いなくそうなる。自分のように生きているのは喜ばしいことこの上ない。俺はまた溢れてきた涙を拭い、足をはやめた。

「どうも、ディー隊のものです。」俺は本陣について、そのへんにいた少しは偉そうな兵士に喋りかけた。

「ん?ディー隊?ガレリアン隊長の隊か。」

「そうです。リーズ少佐を狙撃しようと試み、敵陣の近くで野営していたところを敵兵に発見され、私以外の隊員は殉死されました。」

「なんだと?……ガレリアン隊長が。君はボロボロじゃないか。とりあえずわかった。君は休むといい。負傷者キャンプが奥にある。そこに行きなさい。」彼は驚きを隠せていなかった。

「ありがとうございます。」一刻も早く寝たかった。キャンプについた俺はすぐに寝てしまった。

 その後、色々と事情を聞かれた。あの夜あったことを話さねばならなかった。

 それからは隊の単位で動くわけではなく、本陣にいて、適当に仕事をすることになった。あまり面白いものではなかった。もともと、戦争なんて面白いものではないのだが。ここには副長のような面白い人もいない。どこかの隊がリーズ少佐を殺したらしい。本来なら俺の役だった、などとほざく元気も出ない。

 一ヶ月くらいして戦争は終わった。勝利したらしい。リーズ少佐を殺した隊の活躍が大きかったらしい。


 今は、お金がまあまあ入って、少し良い家に住んでいる。次の招集があるまでなにか職を見つけないといけない。なににしようか。パン屋でもしよう。中学のときからかじっていた。

「あー。呑気にパン屋か。俺は何をやってんだ。目標はそんなもんじゃなかったじゃないか。」独り言をこぼしてみる。口に出したことで罪悪感とか無力感が溢れてきてまた泣いてしまう。寂しい。人と関わらないと心が壊れてしまいそうだ。じゃあ接客があるパン屋でいいじゃないか。元気に生きられるのは奇跡なのだから、仕事で格好をつけなくてもいい。


 俺はパン屋になった。もちろん、軍人の活動の合間というていだが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。