2-1 スラムの干し肉と格闘していたら、うっかり兵站部の横領を全摘発してしまう
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皆様の温かいご声援のおかげで、いよいよ本日より【第2章】の開幕となります!
スラム出身の一般兵から、うっかり「最強騎士団の団長」という
不本意すぎる地位に就いてしまったバルド。
王都での生活がスタートした彼を初日から待ち受けていたのは、
陰謀渦巻く腐敗貴族たちと……スラムから持参した「あの保存食」でした。
舞台を王都に移しても、バルドの胃痛と最凶のすれ違いコントは健在です。
第2章の幕開け、どうぞお楽しみください!
王宮近衛騎士団、団長執務室。
豪奢なマホガニーの机に向かい、
俺(瀬戸蓮)は一人、深刻な顔で『それ』を睨みつけていた。
(……硬い。マジで硬すぎる。なんだこれ、石か?)
俺の目の前にあるのは、スラムの長屋から持参した
「特製・保存用干し肉」である。
着任初日、豪華な歓迎のフルコースを振る舞われたのだが、
貧民の胃袋に高級フレンチのような油と肉は重すぎた。
完全に胃もたれを起こした俺は、慣れ親しんだスラムの味が無性に恋しくなり、
こっそり持参していた干し肉を取り出したのだ。
しかし、乾燥しきったそれは、ちょっとやそっとの力では噛みちぎれない。
俺は三白眼を限界まで吊り上げ、ギリッと歯を食いしばりながら、
サバイバルナイフで干し肉を削ぎ落とそうと悪戦苦闘していた。
コンコン、と控えめなノックの音が響いたのは、まさにその時だった。
「新団長閣下。
兵站部を統括しております、バルク男爵にございます。
ご挨拶と、今後のお付き合いのお願いに参りました」
入ってきたのは、丸々と太った、
いかにも悪だくみをしていそうな貴族の男だった。
その手には、ずっしりと重そうな小箱(どう見ても賄賂が入っている)が
握られている。
(うわぁ……絶対に関わっちゃダメなタイプの偉い人だ……)
俺は内心で冷や汗をかきながらも、ナイフを握ったまま、
引きつった顔(傍目には凶悪な睨み)で男爵を見た。
「……あぁ」
(挨拶はいいから早く帰ってくれ。
俺は今、この干し肉と命がけの死闘を繰り広げているんだ)
バルク男爵は、俺の顔面凶器に一瞬ヒッ……と肩を揺らしたが、
すぐにねっとりとした笑みを浮かべた。
「閣下におかれましては、スラムのご出身とか。
我が兵站部と『協力』していただければ、下層の兵士たちへの食料支援なども、
さらに『手厚く』できますぞ。
その代わり、少しばかり帳簿の確認を甘くしていただければ……」
男爵の言葉は、俺の耳には全く入っていなかった。
なぜなら、ナイフの刃が干し肉の筋に引っかかり、全く切れないからだ。
(くそっ……! この腐れ筋め!
根元から完全に切り落とさないと、全部ダメになるぞこれ!)
「……腐りきっているな」
俺は、干し肉のあまりの硬さに苛立ち、無意識にドスの効いた声で呟いた。
「えっ……?」
男爵のねっとりとした笑顔が、ピシリと凍りついた。
俺は干し肉を机に押し付け、ナイフを逆手に持ち替えた。
そして、顔面の筋肉を引きつらせながら、
憎き干し肉の筋に向かって、全体重を乗せてナイフを振り下ろした。
ドスゥゥゥゥゥンッ!!!
分厚いマホガニーの机にナイフが深く突き刺さり、鈍い音が執務室に響き渡った。
「ヒッ……!?」
俺は肩で息をしながら、刺さったナイフの刃先を睨みつけた。
「……外側だけ取り繕っても無駄だ。
中の『脂』まで完全に腐りきっている。
こういうのはな……大元から全部、根こそぎ削ぎ落とさないと、
組織(肉)全体がダメになるんだよ」
(干し肉の保存状態が悪くて、中までカビてやがった……最悪だ)
絶望的な気分でため息をつき、俺がふと顔を上げると——。
バルク男爵が、床にへたり込み、ガチガチと歯の根を鳴らして震えていた。
その股間からは、生温かい液体が赤い絨毯に染み出している。
「ひ、ひぃぃぃぃぃッ!! お、お助けを! 命だけは!!」
「……はい?」
「横領したのは事実です!
末端の兵士たちに回すはずの小麦を横流しし、
私腹を肥やしておりました!
この小箱の黄金も全て差し出します! ですから、
どうかそのナイフで私の脂を削ぎ落とすのだけは、
ご勘弁をぉぉぉぉッ!!」
男爵は土下座を通り越し、床に額を擦り付けて泣き叫んでいる。
(……え? 横領? なにそれ、俺そんなこと一言も言ってないけど!?)
パニックになる俺の横で、いつの間にか控えていたルシアンが、
感動に打ち震えたような顔で静かに拍手をした。
「……お見事です、バルド団長。
まさか、自ら『劣悪な保存食』を召し上がることで、
末端の兵士たちがどれほど苦しい生活を強いられているかを体現し、
さらにその肉を『腐敗した兵站部』に見立てて、
男爵の罪を無言で糾弾されるとは……!
ナイフを突き立てた時のあの冷酷な瞳、私ですら死を覚悟いたしました」
「ち、違う! 俺はただ、この干し肉が……!」
「直ちにこの豚を地下牢へ!
団長の『根こそぎ削ぎ落とせ』という御命令だ。
兵站部の腐敗を、徹底的に洗い出せ!!」
「「「ハッ!!」」」
ルシアンの号令と共に、どこからともなく現れたエリート騎士たちが、
泣き叫ぶ男爵を引きずっていく。
机には深く突き刺さったサバイバルナイフと、カビた干し肉だけが残された。
かくして。
最凶の顔面を持つ新団長は、
着任初日に「ただ干し肉を切ろうとしただけ」で、
長年王国を蝕んでいた兵站部の巨大な汚職ルートを完全摘発し、
腐敗貴族たちを恐怖のどん底に陥れることとなったのである。
俺の……おやつの干し肉が……。
第2章開幕!
ただ干し肉と格闘していたら、うっかり巨大汚職を摘発してしまいました。
いつも本作をお読みいただき、ありがとうございます!
本日より第2章がスタートし、
第1話『スラムの干し肉と格闘していたら、うっかり兵站部の横領を全摘発してしまう』を更新いたしました。
豪華な執務室で、ただ自分の「おやつ(スラムの干し肉)」を切り分けようと必死になっていたバルドですが……その庶民すぎる行動と恐ろしい顔面が、またしてもルシアンたちの華麗な「深読み」によって、汚職貴族を恐怖のどん底に突き落とす結果となりました(笑)。
バルドの意図とは裏腹に、着任初日から王国を蝕む腐敗を(物理的に)切り捨ててしまった新団長。ここから彼が、どのようにしてプライド高きエリート騎士団を「真の強さ」へと導いて(しまって)いくのか、次回以降のドタバタ劇にもぜひご期待ください!




