5-4 現場監督の招集(WBSの導入)
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第5章の第4話をお届けします!
魔物たちの集落で繰り広げられていた惨憺たる「デスマーチ現場」。
前世の記憶と激しい胃痛を刺激されたバルドが、ついに現場改善の第一歩として「責任者」を呼び出します。
現れたのは、過労で今にも倒れそうなオークの村長。
元営業PMの管理術が、魔物たちの労働環境をどう変えていくのかご期待ください!
「ひ、ひえぇぇ……っ! お許しくだせえ、お代官様ぁぁっ!」
バルドの「責任者は誰だ」という怒号に引きずり出されてきたのは、巨大な体躯を極限まで丸めた、老齢のオークだった。
目の下には凄まじい隈が刻まれ、膝はガクガクと震えている。
「あ、私が……この集落を取り仕切る村長のゴルダでごぜーます……っ。魔王様からの相次ぐ改修指示に対応できず、お目汚しを……っ!」
村長はバルドの凄惨な傷跡と鋭い三白眼を見上げるなり、失禁寸前で地面に額をこすりつけた。
(……なんだ、この疲弊しきった顔は。完全に限界を迎えているじゃないか)
バルドは腹の奥の激痛に耐えながら、大きく溜め息をついた。
(責めるべきは、現場で必死に汗を流すこの男ではない。無計画な仕様変更を上から押し付け、適切なリソース管理も行わない上層部だ……!)
「頭を上げろ、ゴルダ」
バルドは意識して声を抑え、低く静かな声で告げた。
「責めに来たわけではない。今の作業工程を整理し、無駄な手戻りをなくすために来た」
「……へ? 作業の……整理……?」
ポカンとするゴルダと魔物たちをよそに、バルドは近くの平らな岩壁へと歩み寄った。
そして、腰の小刀を抜くと、岩肌へガリガリと勢いよく線を刻み始めた。
縦と横の直線。
そこに細かく書き込まれていく項目。
「マヤ、魔法でこの表を複製し、現場の班長全員に配れ」
「えっ……? うん、分かったわ!」
マヤが魔法で岩壁の文字を写し取り、羊皮紙へ転写していく。
「ジーク、お前は現場の資材在庫をすべてカウントしろ。余剰分と不足分を明確にする」
「了解っす、バルd……先輩! 要するにインベントリのチェックっすね!」
バルドは出来上がった表——WBS(作業分解構成案)と簡易的なガントチャートを指差し、村長ゴルダに向き直った。
「ゴルダ、いいか。まず全体タスクを『整地』『資材調達』『建築』『検品』の四つの工程に分解しろ。前の工程が完了するまで、次の作業に着手することは禁止だ」
「た、作業の分解……!? 前の工程が終わるまで次をやらない……!?」
「そうだ。上からの仕様変更が入った場合も、私を通せ。現場へダイレクトに指示を落とすことは金蜜……いや、厳禁とする」
村長ゴルダは、手渡された羊皮紙を震える手でじっと見つめた。
今まで「とにかく作れ」「やっぱり壊して直せ」と闇雲に命令され、混乱を極めていた現場。
それが、たった一枚の表によって、いつ・誰が・何をすべきか完璧に視覚化されていたのだ。
「こ、これは……なんという神の書……! これなら、何をすればいいのか一目でわかる……っ!」
ゴルダの目から、ボロボロと大きな涙が溢れ出した。
「神様……! あなた様は、俺たちを見捨てなかった救世主様だぁぁっ!!」
「「「救世主様だぁぁぁっ!!」」」
集落中に、オークとゴブリンたちの歓喜の叫びが響き渡った。
当のバルドは、再び襲ってきた胃の激痛に耐えながら、静かに目を閉じていた。
(ふぅ……これで少しは現場のバグと手戻りが減るはずだ。次は……労働者のスタミナ回復と、衛生環境の改善(味噌の導入)だな)
こうして、バルドによる魔物国家の業務改善プロジェクトが、本格的に動き出したのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第5章のエピソード4でした!
無計画なデスマーチに苦しむ魔物たちへ、WBSとガントチャートを授けたバルド。
現場の混乱を交通整理したことで、一気に「救世主」として崇められることになりました(笑)。
次回は、作業効率を跳ね上げるための「食生活改善(味噌の導入)」へと着手します!
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