4-5社畜×ゲーマー×理系の異世界居酒屋トーク
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さて、第4章第5話の更新です!
前回、互いに「前世の愚痴」をこぼし合ったことで、見事に打ち解けたバルド、ジーク、マヤの3人。
今回は、王宮の地下倉庫に即席でオープンした「異世界居酒屋」で、完成したばかりの醤油を囲む宴が始まります!
社畜×ゲーマー×理系プログラマーが繰り広げる前世の「あるある愚痴大会」と、それを外で聞くルシアンの過剰な勘違いをどうぞお楽しみください!
王宮地下の特別倉庫。
かつては冷たい石壁に囲まれていた殺風景な暗がりは今、木箱を並べた即席のテーブルと、揺れる松明の明かりによって、すっかり「新橋のガード下」のような居酒屋の空間へと変貌を遂げていた。
「——それじゃあ、念願の醤油完成と、同郷のエンジニアの参加を祝して……乾杯っ!」
「「乾杯っ!!」」
カチン、と木製のジョッキが力強くぶつかり合う。
中に注がれているのは、キンキンに冷えたエール酒。
「ぷはぁぁぁーっ! やっぱ一仕事終えた後のエールは五臓六腑に沁みるわね……!」
マヤは豪快にジョッキを空けると、プハッと息を吐いて分厚い眼鏡をクイッと上げた。先ほどまでバルドの顔面に怯えていた少女の面影は、もはや影も形もない。
「さあマヤ、とっととデバッグ(味見)してくれ。厨房から仕込んできた白身魚の刺身だ。これに、さっき絞った生醤油をちょいとつけてな……」
バルドが小皿に注いだ艶やかな黒い液体を差し出す。
マヤは半信半疑のまま、薄切りにされた刺身の切れ端に醤油を少量付け、おそるおそる口へと運んだ。
次の瞬間、マヤの体がビクンと跳ね上がった。
「――っ!? 嘘……なにこれ……っ!?」
刺身の生臭さが醤油の芳醇な香りと塩気によって一瞬で消し去られ、魚本来の凝縮された旨味が口いっぱいに広がる。
「美味しい……! なによこれ、バグレベルで不味かった異世界の食生活に、完全に『神パッチ』が当たってるじゃない……!!」
「だろ!? マジで先輩の発酵管理は神レベルなんすよ!」
ジークが自分のことのように胸を張り、エールを煽る。
マヤはボロボロと感動の涙をこぼしながら、次々と刺身を口へ運んだ。
「私、ずっと辛かったのよ……! 異世界の魔法使いども、魔法の術式はレガシーコードの塊だし、料理は味付けの概念すらない塩茹で肉ばかりだし……! まさか異世界で醤油が作れるなんて……!」
「わかるぞ、マヤ」
バルドは深く頷き、しみじみとエールを口にした。
「新しい環境(異世界)に来て一番困るのが、既存の仕様(食文化)の劣悪さだからな。だが、ないなら作ればいい。現場の創意工夫とスケジュール管理でな」
「バルドさん……! 本当に理想のプロマネだわ……!」
そこからは、まさに「業界異種格闘技戦」とも言える前世の愚痴大会が幕を開けた。
「聞いてくださいよ先輩! 俺の前世のゲーム開発会社、アップデートのたびにメインキャラを理不尽に弱体化してくるんすよ! 仕様変更が雑すぎるっす!」
「甘いわねジーク! プログラマーの現場なんて、納期の前日に上の人間から『やっぱこの機能全体的に差し替えて』ってちゃぶ台返しが来るのよ!? 全コードの書き直し(炎上)よ!!」
「あぁ……上の奴らが吐く『いい感じにやっておいて』という指示ほど、現場を破壊するものはないからな。曖昧な仕様書は万病の元だ」
「「「それなーーーーっ!!!」」」
ドカンと地下倉庫に爆笑と同意の叫びが響き渡る。
社畜営業マン、ゲーマー、そして理系プログラマー。
生前の職種は違えど、「現場を理解しない上層部への恨み」という一点において、3人の魂は完全にひとつになっていた。
***
一方――。
地下倉庫の重厚な扉の外。
完全武装で警戒にあたっていた近衛騎士副団長ルシアンは、扉の隙間から漏れ聞こえる声に、冷や汗を全身から噴き出させていた。
(な、なんだ……この空気は……!?)
ルシアンはゴクリと生唾を飲み込んだ。
中から聞こえてくるのは、あのアラゴン帝国すら一目置く魔法国家ドゥブロニアの天才魔導師、マヤの叫び声だ。
だが、その声には、彼女が普段見せる冷静沈着さや気高さを微塵も感じさせない「狂気」が混じっていた。
「『全コードの書き直しよ!』……『ちゃぶ台返し』……!? 恐ろしい……! 彼女は一体、バルド様からどのような精神的拷問を受けているのだ……!?」
ルシアンの頭の中で、高度な心理戦が勝手に展開されていく。
(あの気難しく、どの国のスカウトも冷淡に撥ね退けてきた天才魔導師マヤが……バルド様の圧倒的な圧迫感と恐怖の拷問を受け、正気を失って笑い声を上げている……! わずか数十分で、彼女のプライドを完全に粉砕し、精神を解体してしまわれたのか……!!)
さらに中から、バルドの低く重厚な声が響く。
『曖昧な仕様書は万病の元だ。徹底的に管理しろ』
『それなーーーーっ!!!』
ルシアンの背筋に、激しい寒気が駆け抜けた。
(おお……! マヤ殿が、バルド様の教義に完全に心服し、歓喜の叫びを上げている……! バルド様は、武力だけでなく、言葉の刃で敵国の天才すらも一瞬で洗脳し、ご自身の忠実な手駒(部下)へと書き換えてしまわれたのだ……!!)
「……恐ろしい。恐ろしすぎるぞ、バルド様……!」
ルシアンは膝をガクガクと震わせながら、天を仰いで固く拳を握りしめた。
(このお方に逆らうことなど、人類には不可能だ……!)
***
そんな外での特大の勘違いなど知る由もなく。
「ふぅ……久しぶりに前世の愚痴を吐き出したら、胸のつかえが取れたわ」
マヤはすっかり赤くなった顔で、満足そうに息を吐いた。
「だろ? ストレスの溜め込みすぎはパフォーマンス低下の最大原因だからな」
バルドはニヤリと笑うと、小皿に醤油を足した。「さて、醤油も無事にコンパイルできたことだし、これで明日からは快適な醤油ライフが送れるな」
「そうね……! バルドさん、本当にありがとう」
マヤは嬉しそうに頷き――そして、ふと真面目な顔になってメガネの位置を直した。
「……あ、そうだ。バルドさん。愚痴に夢中で本題を忘れるところだったわ」
「本題?」
マヤの雰囲気が一変し、真剣なプログラマーの眼差しへと戻る。
「私、単に醤油の噂を聞いて偵察に来ただけじゃないの。あなたという『最強のプロジェクトマネージャー』に、どうしても相談したい**重大なバグの駆除**があるのよ」
「……バグの駆除?」
バルドが眉をひそめた瞬間、マヤの口から、この世界の運命を揺るがす恐ろしい『要件定義』が告げられるのだった。
第4章エピソード5をお読みいただき、ありがとうございました!
地下倉庫での「異世界居酒屋」は大盛り上がりでした!
刺身と醤油の組み合わせに感動し、前世の愚痴で一致団結する3人。社畜・ゲーマー・プログラマーの絆が深まる一方で、外で聞いていたルシアンは「言葉の刃による精神解体と洗脳」だと震え上がっています(笑)。
そしてラスト、ついにマヤから本題が切り出されました!
次回、第4章最終話・エピソード6『衝撃の要件定義(魔王討伐の相談)』!
マヤが持ち込んだ「重大なバグ駆除」とは、なんと「絶世の美男子である魔王」の討伐!?
顔面凶器のバルドVS絶世の美男子の魔王という、物語最大の伏線が交差する怒涛の引きをお届けします!
お楽しみに!




