4-4 バグを許さぬ伝説のプロマネへ、天才は直談判する
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さて、第4章第4話の更新です!
王宮の地下深くに籠もり、血眼で「醤油作り」の工程管理に追われていたバルドとジーク。
ついに最初の絞り出し(テストラン)を迎えたその時、地下室の結界を破って、魔法国家の天才魔導師「マヤ」が突入してきます!
顔面凶器のバルドに一度はチビりかけるマヤですが、互いの口から飛び出す「前世の業界用語(社畜&プログラマー)」によって、奇跡のエンカウントが果たされます。どうぞお楽しみください!
「――よし、ジーク。布の張りを固定しろ。これから最初の『テストラン(絞り出し)』に入る」
「ウィッス、先輩! 緊張で手が震えてきたっす!」
王宮地下の特別倉庫。
清潔な晒布を張った桶の上で、バルドとジークは割烹着に手ぬぐい姿で息を呑んでいた。
発酵を終えたもろみを布の上へと注ぐ。
ぽたり、ぽたり……。
重力に引かれて下に落ちたのは、透き通るような美しい深みのある琥珀色――いや、艶やかな黒の液体だった。
「おおお……! 落ちてきたっすよ先輩! 醤油だ、本物の醤油(生揚げ)っす!!」
「……あぁ。香りも完璧だ。雑菌の混入もない。前世の記憶を頼りにしたプロジェクトが、ついに一歩目を踏み出した……!」
バルドの三白眼に、うっすらと感動の光が宿ったその時だった。
――ドガァァァンッ!!!
「「な、なんだ!?」」
地下倉庫の入口に張られていた重厚な遮蔽結界が、眩い魔法光と共に粉々に打ち砕かれた。
舞い散る粉塵の向こうから、分厚い眼鏡をかけた小柄な少女が、杖を構えて颯爽と姿を現した。
「そこまでよ! 恐るべき暗黒兵器をコンパイルしているプロジェクトマネージャー!! あなたたちの不法なコード(計画)は、この私が――」
威風堂々と叫びながら乗り込んできたのは、魔法国家ドゥブロニアの天才魔導師、マヤであった。
だが、叫び終える前に、彼女の視線がバルドの顔面と真っ直ぐにぶつかった。
殺し屋の三白眼。頬に深く刻まれた刀傷。
そして何より、手ぬぐいを頭に巻き、割烹着を着たその姿から漂う「邪魔をする奴は一人残らず抹殺する」と言わんばかりの超弩級の圧迫感(※ただの醤油作りに集中していた顔)。
(……ひっ、ひいいぃぁぁぁぁぁっ!!!???)
マヤの膝がガクガクと震え、手にした杖がガラガラと床に転がった。
(ななにこの顔面……!? 悪魔……ううん、バグの概念が人の形をして歩いてるレベルの威圧感……! 殺される、直談判しに来た瞬間に私の存在そのものが消去される……!!)
あまりの恐怖に、マヤは涙目でその場にへたり込みそうになった。
「おい、お前……」
バルドは三白眼をさらに細め、低い声でマヤを見下ろした。
「せっかくの繊細なテストラン(絞り出し)の最中に、豪快に粉塵を巻き上げてくれたな。……埃が入ったらどうするんだ。雑菌(不純物)の混入は一切許さんと言ったはずだぞ」
「ひぃっ! ご、ごめんなさ――」
「たく……どいつもこいつもフワッとした仕様書(指示)で現場を振り回しやがって」
バルドは額を押さえ、深々とため息をついた。
「上の奴らは『いい感じに魔法(業務)を回せ』としか言わねぇし、急に納期は詰めてくるし、現場でどんだけリソース調整して温度管理してると思ってんだ。仕様変更(雑菌混入)は一発で炎上なんだよ……!」
前世の社畜営業マン時代の怨嗟が、ポロリと口から溢れ出た。
その言葉を聞いた瞬間、恐怖で固まっていたマヤの思考がぴたりと止まった。
(……え? 仕様書……? リソース調整……? 炎上……??)
マヤは震える手で眼鏡を掛け直し、呆然とバルドを見上げた。
「あ、あなた……もしかして、そっちの用語(言葉)……知ってるの……?」
「あん?」
バルドが首を傾げると、横からジークがパッと身を乗り出した。
「あれっ!? マヤちゃん、もしかして……『日本の人』っすか!?」
「えっ」
「俺、前世は日本のゲーマー! で、こっちのバルド先輩は前世の社畜営業マンっす!」
「が、ゲーマーに……社畜……!? じゃあ、あなたたち……全員『転生者』なの!?!?」
地下室に、マヤの甲高い絶叫がこだました。
「な、なんだ、お前も転生者だったのか……」
バルドは拍子抜けしたように肩の力を抜いた。
「魔法国家の天才って言うから、どんな気難しい魔法使いかと思えば……」
「私だってびっくりしたわよ!!」
マヤは立ち上がり、ボロボロと涙をこぼしながらバルドに駆け寄った。
「私、前世はバックエンドのプログラマーだったの! こっちの世界の魔法使いどもってば『気合で魔力を練る』とか『イメージで飛ばす』とか、フワッとした仕様書しか出さなくて毎日がデスマーチだったのよ!? なのに、あなたのその完璧なタスク管理と数値計測……!」
「あぁ……フワッとした指示を出す上司ほど害悪なものはないからな。現場が死ぬ」
バルドが深く頷くと、マヤの目が輝いた。
「やっぱり……! あなた、バグを一切許さない『伝説のプロジェクトマネージャー』だったのね!!」
「(プロマネ……? まあ営業時代に案件の進捗管理は散々やったが……)まあ、現場の品質管理は徹底しないとな」
「バルドさん……!!
(仕様書が通じる! 現場の苦労を分かってくれる神のような上司(PM)がこの世界にいたなんて……!!)」
マヤの顔から恐怖が完全に消え去り、その瞳は「崇拝」の光へと塗り替えられた。
「よし、ちょうどいい。マヤ、お前も転生者なら話が早い。今、念願の『醤油』が完成したところだ。一緒に味見していくか?」
「し、醤油!? 異世界のあのバグレベルに不味い食事に、パッチが当てられるの……!?」
♢
こうして、遮蔽結界を破って突入してきた敵国の天才魔導師は、わずか数分で「バルドプロマネの忠実な部下(信者)」へと上書きされたのだった。
第4章エピソード4をお読みいただき、ありがとうございました!
ついに三人目の転生者・マヤとの直接遭遇を果たしました!
顔面凶器のバルドに一度は命の危険を感じたマヤですが、前世の「フワッとした指示を出す上司への恨み」で一瞬にして意気投合してしまいました(笑)。
マヤの目には、バルドが「現場の苦労を分かってくれる最高のプロジェクトマネージャー」として映っており、もはや完全に信者ルートへ突入しています。
次回、エピソード5『社畜×ゲーマー×理系の異世界居酒屋トーク』!
完成した醤油と刺身、そして冷えたエールを囲んで、前世のあるある愚痴大会が開催されます! 外で待機するルシアンの勘違いも冴え渡りますので、どうぞお楽しみに!
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