4-1 『大豆』という名の超極秘マテリアル搬入
お待たせいたしました!
いよいよ新章【第4章:魔法国家ドゥブロニア編】のスタートです!
隣国との戦争危機を見事に(大いなる勘違いの力で)回避したバルド。
今回から、念願の「醤油醸造プロジェクト」が本格的に始動します。
しかし、バルドにとっては「ただの美味しい調味料作り」でも、周囲から見れば「世界を揺るがす国家最高機密プロジェクト」にしか見えません。
ジークの無駄すぎるハイスペックな警備と、バルドの顔面凶器っぷりが合わさり、初手から勘違いのアクセルが全開です。
それでは、第4章エピソード1をどうぞ!
隣国との平和条約が締結されてから、
数週間後。
我が国の王都にある中央巨大城門は、かつてないほどの緊張感に包まれていた。
「お、おい……見ろよ、あれ……」
「嘘だろ……隣国の正規騎士団が、総出で何かを護衛してくるぞ……!」
門番の兵士たちがガタガタと震えながら、街道の先を指差す。
彼らの視線の先には、地平線を埋め尽くさんばかりの重装騎兵たち。そしてその中央には、頑丈な鉄帯で補強された、見るからに物々しい巨大な木樽を積んだ馬車が、何十台も連なっていた。
この異常な光景を、城壁の上から見下ろしている男がいた。
バルドの忠実な部下であり、近衛騎士団の副団長であるルシアンだ。
ルシアンは、冷や汗をにじませながらその行軍を凝視していた。
(なんという警戒態勢……! 国家予算レベルの重騎士たちが、一つの隙もなく隊列を組んでいる。……ん? 待て、あの先頭で馬を駆っている男は……!)
ルシアンの背筋に、冷たい戦慄が走った。
輸送隊の先頭を歩むのは、かつてこの国を恐怖に陥れた隣国最強の戦闘狂――
『狂犬』ジークだった。
いつもなら狂気に満ちた目で獲物を探しているはずのジーク。
だが、今日の彼は違った。
その目は、まるで国宝を運ぶかのように真剣で、一分の油断もなかった。
「総員、速度を落とせ! ここからはバルド先輩の治める聖域だ! 馬の足音一つ立てるんじゃねぇぞ!」
ジークの鋭い怒声が響く。
隣国のエリート騎士たちが、
その指示に「ハッ!」と一糸乱れぬ動きで従った。
城門へ到着したジークを出迎えたルシアンは、恐る恐る声をかけた。
「じ、ジーク殿……。お久しぶりです。
本日は、条約に基づいた『物資』の搬入ということで間違いありませんか?」
「おぅ、ルシアンじゃん! 久しぶり!」
ジークは馬から飛び降りると、一転して、部活の先輩に挨拶するような爽やかな笑みを浮かべた。
「これ、バルド先輩に頼まれてた『最高の素材』だ。
国中から一粒残らず一級品をかき集めてきたぜ。
道中、野盗どもがチョロチョロ湧いたが、一粒でも傷つけられたら先輩に顔向けできねぇからな。
全員、塵一つ残さず肉片にしてやったわ!」
「に、肉片……っ!」
ルシアンは引きつった笑みを浮かべた。
(やはり、あの樽に入っているのは……ただの穀物ではない! 隣国が総力を挙げて極秘開発していた、世界を揺るがす禁忌のマテリアルなのだ! それをバルド様は、一晩でジークを調教し、完全に我が国へ引き渡させた……!)
「バルド先輩はどこにいる? さっさとこの最高のマテリアルを届けたいんだ!」
ジークが目を輝かせて尋ねる。
「は、はい……! バルド様はすでに、王宮の最下層、特別地下倉庫にてお待ちです……!」
♢
その頃、王宮の地下深く。
普段は使われていない、強固な石造りの地下倉庫の暗がりに、俺――バルドは立っていた。
相変わらずの、殺人鬼から引き継いだ最凶の三白眼。
顔の傷跡が、地下室の松明の炎に照らされて、禍々しく浮かび上がっている。
腕を組み、壁に寄りかかりながら、俺は心の中で激しくガッツポーズを繰り返していた。
(キタキタキタキタ、ついにキタァァァーーー!!!)
前世、しがない社畜営業マンだった俺が、この異世界に転生して最も絶望したこと。それは「米と醤油がない」ということだった。
だが、あの戦闘狂ジークが同郷の転生者(元ゲーマー)だと判明し、彼の実家が「大豆」を大量に栽培していると聞いた時の衝撃といったらなかった。
(これで……これでついに醤油が作れる……! 冷奴、刺身、照り焼き、煮物……! 全部食えるようになるんだ!!)
じわじわと込み上げる感動のあまり、俺の口元が不敵に「ニヤリ」と歪んだ。
だが、その表情は、暗黒街のボスが「世界を破滅させる計画」の実行を前にして、邪悪に 嗤 っているようにしか見えなかった。
重々しい鉄の扉が開き、ジークを先頭に、大豆の樽が次々と運び込まれてくる。
「バルド先輩! 遅くなりました!」
ジークは割烹着……ではなく、厳重な鎧を着たまま、俺の前でビシッと直立不動の姿勢を取った。
「おう、ジーク。待っていたぞ。……例のモノは、無事か?」
俺は低く、凄みのある声で言った。ただの「大豆、ちゃんと潰れずに届いた?」という意味である。
だが、ジークの目には、それが『伝説のギルドマスター』の覇気に映っていた。
「はい! 完璧です! 温度管理も、直射日光の遮断も、俺の魔法で完璧に維持してきました! 先輩の『神のレシピ(醸造手順)』通り、最高の醤油をコンパイルしてみせます!」
「ふっ、頼もしいな。お前ならやってくれると信じていたぞ」
俺はジークの肩をガシッと掴み、二人の間で熱い視線が交わされた。
(よし! 早速、明日から麦を炒って、麹作りからスタートだな!)
(うっひょお、先輩と共同開発イベント発生! マジでワクワクしてきたぜ!)
二人の脳内は完全に「おいしい居酒屋メニューの再現」で一杯だった。
しかし、地下室の影からその様子を窺っていたルシアンは、恐怖で奥歯をガタガタと鳴らしていた。
(何という禍々しい光景だ……。バルド様が、敵国最強の狂犬の肩を抱き、不敵に笑っている……。あの巨大な樽に詰められた禁忌の物質を使い、バルド様はいよいよ、この世界の理を書き換える大計画を始動させるのだ……!)
「よし、ジーク。これからは時間との勝負だ。不純物の混入は一切許されん。徹底的に、完璧な環境を構築するぞ」
「ウィッス、先輩! 徹底的な除菌ですね! 任せてください!」
こうして、バルドとジークによる、異世界初の「醤油醸造プロジェクト」が幕を開けた。
それが、周囲の人間たちの恐怖をさらにどん底へと突き落とす、地獄のデスマーチの始まりであることも知らずに。
――そして。
この奇妙な「超厳重な大豆の流通」と「王城地下での怪しい引き籠もり作業」のノイズは、海を越えた遙か遠くの地へと届いていた。
魔法国家ドゥブロニア。
その最先端の魔導研究所の暗がりで、一人の少女が、数式が乱舞する魔力スクリーンを睨みつけながら、不快そうに髪をかきむしっていた。
「……何なのよ、この異常なトラフィック(物流)は。ただの穀物を運ぶのに、なんで『狂犬ジーク』がフル装備で張り付いてるわけ?」
彼女の名はマヤ。
魔法国家が誇る、稀代の天才魔法使い。
そして――彼女もまた、この世界にシステム(魔法)の不条理を呪う、三人目の転生者であった。
「バルド・コーウェン……。あの顔面凶悪な騎士団長、裏で一体、どんな危険なコード(計画)を走らせているの……?」
マヤの冷徹な瞳が、不穏に光った。
第4章の第1話、いかがでしたでしょうか!
ジークの無駄な高スペック警備のおかげで、ただの大豆が「禁忌のマテリアル」に格上げされてしまいました(笑)。
ルシアンの勘違いも相変わらず絶好調です。
そして、ラストにはついに三人目の転生者・マヤが少しだけ登場しました!
次回、エピソード2では、マヤがバルドたちの醤油作りを「理系脳」で超高度に分析・監視する【隠密偵察編】をお送りします。
彼女の視点を通すことで、バルドの割烹着姿がどう誤認されていくのか……!?




