3-6 凶暴な狂犬が「忠実なポチ」になったと周囲が戦慄する中、俺たちは醤油流通ルートを確立する
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深夜の「異世界居酒屋」で、冷えたエール片手にすっかり意気投合してしまったバルドとジーク。
本人たちはただの「同郷の先輩後輩」になっていますが、周囲の人間たちはそうは思っていません。
極限までハードルが上がった状態で迎える、翌朝の最終会談。
果たして、二人の「満面の笑み」は周囲にどう映るのか!?
そして物語は、次なる章へ向けて大きく動き出します。
勘違いが限界突破する第3章の結末、
どうぞお楽しみください!
翌朝。
王宮の最上階にある大円卓会議室。
室内には、自国の重鎮たちと、隣国特使のカーミラ一行が向かい合って座っていた。
空気は、針葉樹林の冬の朝のように張り詰め、冷え切っていた。
特に隣国側の特使カーミラは、目の下に濃いクマを作り、今にも倒れそうなほど顔面を蒼白にしている。
(……来る。あの恐ろしい男が、狂犬ジークをどう「処理」したのか……。最悪の場合、ジークは精神を破壊され、廃人になっているかもしれない……!)
カーミラがテーブルの下で震える手を強く握りしめたその時、重厚な扉がゆっくりと開かれた。
「――待たせたな」
入ってきたのは、漆黒の騎士服に身を包んだ近衛騎士団長、バルド。
その顔には、前世の殺人鬼から受け継いだ「凶悪極まりない三白眼」と「凄みのある深い傷跡」が刻まれている。
だが、今日のバルドの表情はどこか違った。いつも張り詰めている緊迫感がなく、どこか憑き物が落ちたように『リラックス』していたのだ。
ルシアンは息を呑んだ。
(な、なんという余裕……! あの狂犬との密室での死闘(とルシアンは思い込んでいる)を経てなお、顔色一つ変えず、むしろ清々しいほどの覇気を纏っておられる……!)
(いや、昨日の夜、久しぶりに同郷の奴とエール飲んでストレス発散できたから、ぐっすり眠れただけなんだけどな)
俺は心の中でツッコミを入れつつ、円卓の上座についた。
そして、バルドの後ろから、問題の男が姿を現した。
隣国最強の戦闘狂、ジークだ。
彼が部屋に入った瞬間、カーミラは悲鳴を上げそうになった。
いつもなら部屋に入るなり「誰が一番強ぇんだ?」と殺気を撒き散らすはずのジークのオーラが、完全に消滅していたからだ。
それどころか――。
「チワーッス! 皆さん、昨日はお騒がせしてマジさーせんでした!」
ジークは、まるで部活の爽やかな体育会系後輩のような満面の笑みを浮かべ、ペコペコと頭を下げながら入室してきたのである。
そして、あろうことかバルドの斜め後ろにスッと立ち、まるで忠実な下僕のように背筋を伸ばして待機した。
「ジ、ジーク……? あなた、一体何を……」
カーミラが震える声で問いかけると、ジークは爽やかな笑顔で親指を立てた。
「いやー、カーミラ様! 俺、目が覚めましたよ! バルドさん……いや、『バルド先輩』の懐の深さに比べたら、俺の剣なんてただの棒っ切れっすわ! これからはバルド先輩の背中を見て、一から学ばせてもらいます!」
「…………ッ!!?」
カーミラは絶望に目を剥き、その場に崩れ落ちそうになった。
(せ、『せんぱい』……!? 未知の言語の尊称!? あの、誰の言うことも聞かなかった狂犬ジークが、たった一晩で……完全に精神を改造(洗脳)されてしまったというの……!?)
自国の最強戦力があっさりと「忠実な手駒」にされた。
その事実が、隣国特使団の戦意を完全にへし折った。
「さて、本題に入ろうか」
俺は、前世の営業時代に使っていた『柔和なビジネススマイル』を浮かべた。
だが、この極悪非道な顔面で笑うと、それは完全に「すべてを掌握し、獲物の命運を握って嗤う魔王の笑み」にしかならない。
「条約の件だが、我が国は無駄な争いは望まない。そちらが武を収めるなら、我々も寛大な処置を取ろう。……ただし、一つ条件がある」
「ひっ……! な、何なりと……!」
カーミラは涙目で首を縦に振った。
「そちらの国で採れるという、特有の『豆』があるな? あれを我が国に定期的に納入する『専用の流通ルート』を確立してほしい。我々の要求は……それだけでいい」
「……え?」
カーミラは呆然とした。
莫大な賠償金や領土の割譲を要求されると思っていたのに、ただの「豆」の流通ルート?
(……ま、まさか!)
カーミラは戦慄した。
(あの豆には、何か恐ろしい軍事利用の価値があるというの!? バルド団長は、我が国すら気づいていないその価値をすでに見抜いて……いや、ジークから聞き出したのね! なんという恐ろしい男……!)
「も、もちろんでございます……! 豆の独占流通ルート、直ちに手配いたします……!」
「そうか、それは助かる」
(よっしゃあああ!! これで大豆の安定供給ルート確保! 後は王宮の地下倉庫を使って醸造させれば、念願の醤油が作り放題だ!!)
俺は心の中でガッツポーズを決めながら、席を立ち、ジークとカーミラに向けて手を差し出した。
「これで交渉成立だ。今後とも、良き『協力関係』を築こう」
ジークは待ってましたとばかりに、俺の手を両手でガッチリと握りしめた。
「もちろんっす! 豆の手配と運送ルートの警備は俺に任せてください! 最高品質のやつ、ガンガン送りますんで!」
「あぁ、頼むぞ。……(絶対、美味い醤油作ろうな)」
「はいっ!……(これで刺身が食えますね!)」
二人の間で交わされる、熱い視線と固い握手。
それは完全に「醤油への情熱」を共有する同郷の絆だったが、周囲には全く別の光景に映っていた。
ルシアンは、感動のあまり震えながら天を仰いでいた。
「おおお……! バルド団長は、敵国の特使を無血で降伏させただけでなく、あの狂犬すらも手懐け、見事な同盟関係を築き上げられた……! やはりバルド様こそ、次代の王にふさわしい御方だ……!」
こうして、俺の胃痛の原因だった隣国との武力衝突の危機は、「醤油醸造のための大豆流通ルート確立」という形で、平和裏に(かつ、周囲の勘違いを限界突破させたまま)幕を閉じたのである。
――だが、この時の俺はまだ知らなかった。
俺とジークが「極秘裏」に進める大豆の納入と、地下室での醸造作業(醤油作り)。
その過程で生み出される『万能の黒い液体』の噂が、やがて海を越え、遠く離れた魔法国家ドゥブロニアにまで届くことを。
そして、その噂を聞きつけた『天才魔法使い』が、絶世の美男子として君臨する恐るべき魔王の討伐相談のため、俺の元へやって来るという最大の胃痛イベントが迫っていることを……。
「はぁ……終わった……。これでようやく、休日は部屋でゴロゴロできる……」
平和ボケした俺の呟きは、異世界の静かな朝の空気にむなしく溶けていったのだった。
(第3章:隣国外交・戦闘狂のデスゲーム編 完)
これにて第3章完結です!
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
皆様のご想像通り、最後は最高の勘違いスパイラルで幕を閉じました。
「豆の流通ルート確保」という、バルドにとってはただの食材調達ネットワークの構築ですが、カーミラたちには「国家の命運を握る恐るべき軍事協定」に見えてしまうというすれ違い大団円です(笑)。
そして、次回からいよいよ新展開【第4章】に突入します!
無事に流通ルートを確立し、ジークと共にウキウキで「醤油醸造」を始めるバルド。
しかし、その『謎の黒い液体』の噂を聞きつけ、魔法国家ドゥブロニアから一人の天才魔法使い(新たな転生者・マヤ)が訪ねてきます。
彼女が持ち込んだ相談は、なんと「絶世の美男子である魔王」の討伐について。
バルド(顔面凶器)と魔王(絶世の美男子)……ついに、物語最大の伏線が交差しようとしています!
社畜×ゲーマー×理系魔法使いの異世界居酒屋トークと、勘違い無双の最強ハイブリッドとなる第4章。
引き続き、バルドの胃痛への応援をよろしくお願いいたします!




