3-5 深夜の密会は「異世界居酒屋」。外では勝手に「血を洗う拷問(交渉)」だと勘違いされています
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さて、第5話の更新です。
前回の晩餐会で、偶然にもお互いが「日本人(転生者)」であることに気づいたバルドとジーク。ジークが空気を読んで「降伏」を宣言してくれたおかげで、バルドの威厳はまたしても天井知らずに跳ね上がりました。
そしてその日の深夜。
周囲が「あの狂犬をどうやって完全に屈服させるつもりだ……?」と固唾を飲んで見守る中、バルドの私室では異世界らしからぬ「平和すぎる密会」が行われようとしていました。
どうぞお楽しみください!
晩餐会での衝撃的な「降伏劇」から数時間後。
深夜の王宮は、水を打ったような静寂と、異様な緊張感に包まれていた。
俺(瀬戸蓮)の私室のドアの外には、ルシアン率いる近衛騎士たちが完全武装で待機し、少し離れた場所では隣国の特使カーミラが青ざめた顔でこちらの様子を窺っている。
なぜなら今、俺の部屋の中には、隣国最強の戦闘狂であるジークが単独で乗り込んできているからだ。
「……というわけで、バルド先輩。今日はお疲れ様でした。乾杯っす」
「あぁ、お疲れ。まさか異世界に来てまで『とりあえず生で』みたいなテンションで乾杯する日が来るとは思わなかったよ……」
カチン、と木製のジョッキがぶつかる音が部屋に響く。
テーブルの上には、厨房からこっそり失敬してきた干し肉とチーズ、そしてエール酒。
部屋の外の張り詰めた空気とは裏腹に、室内は完全に「新橋のガード下の安い居酒屋」の空気に支配されていた。
「ぷはぁーっ! やっぱ戦いの後の酒は沁みるっすね!」
「お前は一人で勝手に剣振り回して喜んでただけだろ。こっちは寿命が十年は縮んだよ……」
俺は胃の辺りをさすりながら、深々とため息をつく。
ジークは悪びれる様子もなく、豪快に干し肉を齧った。
「いやマジで、先輩の『ただ転んだだけ』の無敵フレーム回避は伝説レベルっすよ。ゲーマーの俺から見ても、完全にシステムを理解し尽くした裏ボスの動きでしたもん」
「だからあれは事故だって言ってるだろ! そもそも、お前がいきなり大剣なんて振り下ろしてくるから……」
「すんませんって! だって、あの『パリィ』の構えで挑発されたら、男として全力出すしかないじゃないすか!」
「あれは前世でクレーム対応する時の『ちょっとお待ちください』のポーズ!!」
お互いの「すれ違い」の答え合わせをするたびに、ジークは腹を抱えて大爆笑し、俺は疲労で顔を覆った。
「にしても、先輩の転生設定、何度聞いてもエグいっすね。自分を殺した犯人の顔で転生とか……この世界の神様(運営)、どんだけ性格歪んでんすか」
「本当にそうだよ。おかげで、ただ普通に笑っただけでも『獲物をいたぶる極悪人の笑みだ』とか言われて、みんな怯えちゃうんだから……」
「まぁ、正直この顔面チートは、ゲームのバフ(強化)効果としては最強っすけどね。俺でもエンカウントした瞬間、ちびりそうになりましたもん」
そんな、異世界感ゼロの「現代日本あるある」と「お悩み相談」が和やかに進んでいく。
「醤油がないのがキツイ」「白米食いたい」「風呂にゆっくり浸かりたい」など、同郷だからこそ分かり合える愚痴をこぼしているうちに、俺の長年の胃痛も少しだけ和らいでいくような気がした。
しかし——。
この時、部屋の外で聞き耳を立てていた者たちの解釈は、俺たちの平和な雑談とは
『180度』異なっていた。
***
(……聞こえる。バルド団長が、あの狂犬を言葉巧みに追い詰めている声が……!)
ドアの外で待機するルシアンは、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
分厚い扉のせいで会話の詳細は聞こえないが、時折漏れ聞こえる声のトーンで、中の様子を完全に「察して」いた。
「おい、聞いたか……。あの帝国の狂犬が、何度も大きな声で呻き声を上げているぞ」
「あぁ……。きっとバルド団長が、肉体的な苦痛ではなく、己の絶対的な『格の違い』を見せつけることで、敵の精神を完全にへし折っているに違いない……!」
ルシアンたちは、ジークの「大爆笑」を「精神崩壊寸前の呻き声」だと勘違いし、バルドの「疲労の溜まったため息」を「圧倒的強者の余裕」だと変換して震え上がっていた。
少し離れた柱の陰に隠れていたカーミラも、恐怖に顔を歪ませていた。
(ジークが……我が国最強の戦士が、あんなに何度も声を荒らげて……!? 密室の中で、一体どれほどの恐ろしい尋問が……! バルドという男、もし敵に回せば、我が国は三日と持たずに滅ぼされるわ……!)
***
外でそんな特大の勘違いが起きているとは露知らず。
部屋の中の俺たちは、いよいよ明日の「会談」に向けた打ち合わせに入っていた。
「で、明日の最終会談なんだけど……。もう面倒な駆け引きとかナシにして、パパッと平和条約結んじゃってもいいか? 俺は一刻も早く、休日に昼寝できるスローライフに戻りたいんだ」
俺が社畜特有の「巻きの進行(早く仕事終わらせたい)」を提案すると、ジークは親指をグッと立てた。
「全然オッケーっす! 俺も先輩が同じ日本人だと分かった以上、敵対する理由ないっすからね。それに、平和条約結んでおけば、今後もこうやって一緒に飲めるし!」
「助かる……。本当に助かるよ、ジーク」
「あ、でも条件一ついいっすか? 俺の国、特産品で結構いい感じの『豆』があるんすよ。ワンチャン、これ発酵させたら醤油っぽくなるんじゃないかと思ってて。それを先輩の国のルートで流通させてほしいんすよね」
「なるほど、それはいいな。前世の営業ノウハウを活かして、俺が王宮の予算から上手くルートを開拓しておくよ」
「マジすか! さすが元営業マン! 先輩、一生ついていきます!」
こうして。
隣国との緊迫した外交問題は、ビール片手の「居酒屋での口約束」によって、世界で最も平和的に解決したのである。
「よし、じゃあ明日の会談は、お互い『良い取引だった』って感じで、笑顔で握手して終わろうな」
「了解っす! 最高のエンディング(大団円)を見せてやりましょう!」
俺とジークは、固い握手とジョッキの衝突で、深夜の同盟を締めくくった。
翌日の最終会談で、二人の「満面の笑みでの握手」を見た周囲の人間たちが、「あの凶暴な戦闘狂が、一晩でバルド団長の完全に忠実な手駒にされてしまった……!!」と、さらなる恐怖のどん底に叩き落とされることを、俺はこの時まだ知る由もなかった。
バルドとジーク、すっかり意気投合して仲の良い飲み仲間になってしまいました!
「醤油が恋しい」「転生の設定エグすぎ」と愚痴り合う二人ですが、その声は外にいるルシアンやカーミラたちには「恐怖の尋問による呻き声」に聞こえており、勘違いのインフレが止まりません(笑)。
さらに、隣国との重大な外交条約も、ただの「居酒屋での口約束」で決定。醤油開発という新たな目標もでき、バルドの元営業マンとしてのスキルが謎の方向で活かされようとしています。
さて、次回は第3章の最終話です!
居酒屋テンションで満面の笑みを浮かべる二人を見て、周囲はどれほど極限まで勘違いを深めるのか!? 最高にスカッとする大団円(?)をお届けしますので、お楽しみに!




