3-2 大人の「やんわりなお断り」が、伝説の「パリィ」の構えに誤訳される
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皆様の温かいご声援のおかげで、第3章も好スタートを切ることができました。
さて、第2話の更新です。
前世が「社畜営業マン」のバルドと、前世が「重度の死にゲーマー」のジーク。
歓迎の宴という華やかな舞台で、絶対に戦いたくないバルドの「大人の断り文句」が、ジークのゲーマー脳によってとんでもないスキル(?)へと誤訳されていきます。
全く噛み合わない二人の攻防、どうぞお楽しみください!
隣国ガルディア帝国からやってきた特使団を歓迎する、王宮の豪奢な晩餐会。
色とりどりの豪華な料理が並ぶ長机の端で、俺(瀬戸蓮)はひたすらに気配を消し、無心でローストビーフを咀嚼していた。
(美味い……。前世のコンビニ弁当とは比べ物にならない。このまま誰とも目を合わせず、静かに食事だけして帰りたい……)
しかし、俺のささやかな願いは、斜め向かいから突き刺さる「異常な視線」によって粉々に打ち砕かれていた。
「…………(ジィィィィッ)」
隣国最強の騎士、ジーク。
彼は自分の席の料理には一切手をつけず、獲物を狙う肉食獣のような血走った目で、俺の挙挙手投足を一瞬たりとも逃さず観察し続けていた。
(ひえぇぇぇ! めっちゃ見られてる! なんで俺がフォークを動かすたびに「ほう、隙がない」みたいな顔して頷くの!? ただ肉切ってるだけだから!)
その隣では、絶世の美女である特使のカーミラが、優雅にワイングラスを傾けながら俺に探るような視線を向けている。
「……バルド団長は、随分と余裕がおありのようですね。我が国の最強の剣士を前にしても、顔色一つ変えずに食事を楽しまれるとは」
カーミラが、毒を含んだ美しい微笑みで話しかけてきた。
「ええ、まあ。料理がとても美味しいので(胃が痛くて味なんてしないけど!)」
俺が精一杯の営業スマイルで返すと、カーミラはビクッと肩を震わせ、さらに警戒のレベルを引き上げたようだった。
その時だった。
ガタンッ! と音を立てて、ジークが立ち上がった。
「……おい、騎士団長さんよぉ。堅苦しいメシの時間はもう終わりだ。あんたのその『覇気』、もう限界まで膨れ上がってんぜ?」
ジークは獰猛に笑いながら、背負っていた巨大な大剣の柄に手をかけた。
晩餐会の空気が一瞬にして凍りつく。
「俺は小難しい外交の挨拶なんて知らねえ。俺の挨拶はこれだけだ。……あんたの全力、俺に見せてみろ!!」
(ギャァァァァ! 宴会の席でいきなり武器抜こうとしてる! ガチの戦闘狂じゃん!! 誰か止めて!!)
周囲の貴族たちが悲鳴を上げて後ずさる中、俺は極度の恐怖で完全にフリーズしていた。
前世でクレーム対応に追われた時と同じだ。パニックになればなるほど、俺の顔面は氷のように冷酷な三白眼へと固定されていく。
(断らなきゃ! 穏便に、かつ絶対に戦わなくて済む「大人の断り文句」で!)
俺は慌てて席を立ち、ジークに向かって両手を前に突き出した。
手のひらを相手に向ける、前世で「ちょっと待ってください」と相手を制止する時の、ごく自然なポーズだ。
「ま、待ってくれ。申し訳ないが、本日の俺の『スケジュール(予定)』はすでに埋まっている。それに、まずは互いの『情報共有(様子見)』から始めるのが筋というものではないか?」
俺は必死に、ビジネスマン特有の「やんわりとしたお断り(今日は帰れ)」を口にした。剣の柄に手をかけることすらせず、ただ両手を前に出しているだけ。完全な非武装、非戦の意志のアピールだ。
——しかし、これがジークの「ゲーマー脳」には、まったく違う意味として翻訳されてしまった。
(……な、なんだと!? 剣を抜かないどころか、両手を開いて重心を落とす、あの奇妙な構えは……!)
ジークの目が、驚愕に見開かれた。
彼が前世でやり込んだ超高難易度アクションゲーム。
そこにおいて、武器を持たずに敵の攻撃を待ち受ける最強のカウンター技が存在した。
(間違いない……あれは敵の攻撃を完璧なタイミングで弾き返す、
伝説の『パリィ(弾き)』の構え!!
俺の最速の大剣の振りを、素手で見切って弾くつもりかよ!?)
さらに、バルドが口にした謎の言葉。
(『スケジュール』が埋まっている? 『情報共有』から始める? ……なるほど! つまり「この段階では俺はまだ攻撃しない(スキップ不可のイベント戦)」ってことか! 俺の攻撃パターン(情報)をすべて見切るまで、ただ防御だけで凌ぎ切るっていう、圧倒的な舐めプ……ッ!!)
ジークの全身が、歓喜と興奮で打ち震えた。
「……ハッ! ハハハッ! 最高だぜ、あんた! そこまで俺を下に見るなら、その余裕、俺の最大火力でブチ抜いてやるよ!!」
(えええええ!? なんで余計にキレてんの!? 全然言葉が通じてないんだけど!!)
俺がパニックに陥っていると、背後に控えていたルシアンが、感動で声を震わせた。
「皆様、ご覧ください! バルド団長は、野蛮な挑発に対してあえて剣を抜かず、『素手で全ての攻撃を受け止める』という構えを見せられました! 圧倒的な実力差を見せつけ、血を流さずに帝国を屈服させる……なんと慈悲深く、そして恐ろしい『王者の威圧』か!」
「「「おおおおお……!!」」」
周囲の貴族たちからも、どよめきと称賛の声が上がる。
(違う! 違うんだってば! 俺はただ「今日は忙しいから帰って」って手で合図しただけなの!! 誰も攻撃なんて受け止められないよ、死んじゃうから!!)
俺の心の叫びは誰にも届かず、目の前では「裏ボス」との強制イベント戦闘に歓喜する戦闘狂が、今にも大剣を振り下ろそうとしていた。
♢
最凶の顔面を持つ元営業マンの、絶体絶命のすれ違いデスゲームが、いよいよ物理的にスタートしようとしていた。
今回は、バルドの「社畜的な断り文句」と「拒絶のポーズ」が、ジークのゲーマー脳でとんでもなくカッコいい解釈をされてしまうエピソードでした。
剣を抜かない=余裕の舐めプ。
手を前に出す=伝説のパリィの構え。
スケジュールと情報共有=今はまだ攻撃しないイベント戦闘(お前の攻撃パターンを見切ってやるの意)。
ジークの中で、バルドの「最強の隠しボス」という設定がどんどん強固になっていきます(笑)。
次回は、いよいよ振り下ろされるジークの大剣に対して、バルドはどうやって生き延びるのか!?
奇跡のすれ違い回避劇にご期待ください!




