2-6 ただ油断して帰宅していただけなのに、なぜか「最強の罠」を仕掛けたことになっていた件
いつも応援ありがとうございます!
皆様の温かい応援のおかげで、ついに第2章が今回で『完結』となります!
前回、前世のプレゼンスキル(ただの棒グラフ)でハルバート財務卿を完膚なきまでに論破したバルド。
失脚し、すべてを失ったハルバートは、逆恨みから私的に雇う「裏の仕事集団(暗殺者)」を放ち、バルドの暗殺を企てます。
しかし、今の近衛騎士団は、以前のバラバラな組織ではありませんでした……!
第2章のド派手なフィナーレ、どうぞお楽しみください!
御前会議での大勝利から数日。
ハルバート公爵は財務卿の地位を剥奪され、王宮財務院の不正も次々と白日の下に晒されていた。
(はぁぁぁ……やっと、やっと終わったぁぁぁ……!!)
深夜、自室への帰り道を一人で歩きながら、俺(瀬戸蓮)は心の中で涙を流していた。
ここ数日、緊張の連続で胃が完全に悲鳴をあげていた。
今夜こそ、誰にも邪魔されずに泥のように眠る。
そう固く心に誓っていた、その時だった。
パササッ……。
静寂に包まれた王宮の中庭。
月明かりを遮るように、数条の「影」が音もなく俺を取り囲んだ。
全身を黒い装束で包み、血の匂いを漂わせた男たち。
ハルバートが私的に飼っていたという、裏の世界で生きるプロの暗殺集団だ。
「……バルド。ハルバート様を奈落に突き落とした罪、その命で償ってもらう」
(ひえっ!? 出たぁぁぁぁぁぁ!! 暗殺者!! なんで俺の周りってこんなに治安悪いの!?)
俺の心臓は破裂しそうなほど跳ね上がった。
あまりの恐怖に全身の血の気が引き、身体が完全に硬直して動かなくなる。
声を出そうにも、喉がヒリヒリと鳴るだけで言葉にならない。
結果として、俺は「迫り来る暗殺者たちを前に、一切の動揺も見せず、冷酷な三白眼でじっと見下ろす冷血漢」のポーズを完璧に決めていた。
「チッ……さすがは最凶の騎士。この包囲網を前に、眉一つ動かさないとはな。だが、数で勝る我らには勝てん! やれ!」
暗殺者たちが一斉に刃をきらめかせ、俺の首筋を狙って跳躍した。
(終わった! 異世界転生スローライフ、これにて閉幕!!)
俺が絶望して目を瞑ろうとした、その瞬間。
「—我が主君を、それ以上汚い言葉で呼ぶな」
凄まじい風切り音と共に、銀色の閃光が闇を裂いた。
ギチィィィン!!
と激しい金属音が響き、俺の目の前にいた暗殺者の剣が弾き飛ぶ。
「ルシアン!?」
「遅れて申し訳ありません、バルド団長。これしきの雑兵、主君の手を煩わせるまでもありません」
月光を浴びて現れたルシアンは、激しい怒りと、それ以上の歓喜に瞳を濡らしていた。
さらに、中庭の周囲の茂みから、ジャラジャラと甲冑の音を鳴らして、次々と屈強な男たちが姿を現した。
「おいおい、俺たちの『団長』に何してくれてんだ、あぁ?」
「骨を粉々に砕かれたいのは、どこのどいつだ?」
現れたのは、俺の「名刺交換」に恐怖し、完全に忠誠を誓った五人のエリート部隊長たち率いる、王宮近衛騎士団の精鋭部隊だった。
「な、何だと……!? なぜここに騎士団の主力(精鋭)が……待ち伏せだと!? バカな、我らの襲撃ルートは完璧に秘匿されていたはずだ!」
暗殺者の首領が、驚愕に顔を歪ませる。
ルシアンはフッと冷たい笑みを浮かべ、俺を振り返って深く一礼した。
「フハハ! 哀れな虫ケラどもめ、すべては我が主君、バルド団長の計略通りだ! 団長は、御前会議でハルバートをあえて生き恥を晒す形で失脚させれば、窮鼠となった彼が必ず私兵を使って夜襲を仕掛けてくることを見抜いていた! だからこそ、あえて護衛もつけずに一人で夜道を歩き、お前たちを炙り出す『餌』になられたのだ!」
銀髪の部隊長も、狂信的な目で俺を見つめる。
「なんと恐ろしい御方だ……! 自らの身を極上の釣り餌とし、ハルバートの『最後の闇の戦力』まで一網打尽にするとは! 団長が一人で歩かれたあの隙だらけの歩調、あれこそが我々を引きつける完璧な罠(誘い)だったというわけか!」
(違う! 普通に油断して帰って寝ようとしてただけ! 誰も釣り野伏せなんか仕掛けてない!!)
「近衛騎士団、全軍突撃! 我らが絶対の主君を脅かした大罪人どもを、一人残らず叩き潰せ!!」
「「「おおおおおーーーッ!!!」」」
そこからは、もはや戦闘ではなく「一方的な蹂趙」だった。
以前までは派閥争いでバラバラだった近衛騎士団が、俺への(勘違いによる)恐怖と忠誠心で完全に一つになり、裏の仕事師たちを文字通り瞬殺・壊滅させていく。
(うわぁ……みんなめちゃくちゃ強いじゃん。ていうか、味方が一番怖いんだけど……)
血飛沫が舞う中、俺はただ直立不動のまま、一歩も動かずに(腰が抜けて動けずに)その光景を眺めていた。
その姿は、周囲の騎士たちには「戦況を完全に支配し、微塵の揺らぎもない無敵の王」の姿に映っていた。
こうして、ハルバート公爵の最後の悪あがきは、近衛騎士団の圧倒的な連帯感を示す『最高の初陣』として幕を閉じた。
♢
王宮の闇を一つ、物理的に消し去ったバルド。
彼の「最凶のカリスマ」としての悪名は、もはや王国内で揺るぎないものとなっていくのだった。
(……ねぇ、俺の胃薬、もう王宮の予算で買っていいよね?)
彼の、平穏なスローライフへの願いは、またしても遥か彼方へと吹き飛ばされるのだった。
(第2章・完)
第2章、これにて堂々完結です!
ありがとうございました!
いつも熱い応援をいただき、本当にありがとうございます!
ハルバート財務卿の逆恨みによる夜襲、そして近衛騎士団によるスカッとする返り討ちをもって、第2章『王都激震・最凶団長の胃痛スローライフ編』がこれにて完結いたしました!
「あえて自分が釣り餌になる」という、バルドの(ただのガチビビりによる)神がかった戦術に、ルシアンだけでなく、かつて反発していた部隊長たちまで完全に狂信者化してしまいました(笑)。
今や近衛騎士団は、王国最強にして、バルドが最も恐れる「最強のファンクラブ」と化しています。




