2-5 御前会議 前世の営業マンが黒幕を論破する
いつも応援ありがとうございます!
皆様の温かい応援のおかげで、物語はいよいよ第2章のクライマックスへと突入します。
王宮財務院の不正ルートを(無自覚に)物理的に破壊してしまったバルド。
激怒した王宮の財政を牛耳る黒幕、ハルバート財務卿がついに牙を剥きます。
舞台は王国の最高権力者たちが集う「御前会議」。絶対に逃げられない絶体絶命のピンチに、バルドの前世の「社畜スキル」が奇跡を起こす……!?
第5話、どうぞお楽しみください!
王国の行く末を決める最高意思決定の場、「御前会議」。
国王陛下をはじめ、王国の重鎮たる上位貴族たちが円卓に顔を揃えるその重苦しい空間で、俺(瀬戸蓮)は盛大に胃を痛めていた。
(いやいやいや! なんで着任してすぐの俺が、こんなガチの役員会議に呼ばれてるの!? 息が詰まって死にそうなんだけど!)
円卓の末席で必死に存在感を消そうとする俺の斜め向かいには、氷のように冷たい眼差しを向けてくる初老の男が座っていた。
王宮財務院のトップにして、この国の財政を牛耳る最大の黒幕——財務卿ハルバート公爵である。
彼は立ち上がると、国王に向けて恭しく一礼し、分厚い羊皮紙の束を机に置いた。
「陛下。本日は、我が王宮財務院による『近衛騎士団の特別監査報告』を行わせていただきます。……結論から申し上げますと、新団長バルドの指揮下において、騎士団の予算運用には重大な瑕疵、および巨額の使途不明金が存在していることが判明いたしました」
「「「な、なんだと!?」」」
円卓の貴族たちがざわめく。
ハルバート公爵は、冷徹なガラス玉のような目で俺を射抜いた。
「ここに、完璧な計算式に基づく500ページの監査報告書がございます。バルド団長は、自らの権力を笠に着て予算を私物化している。この不透明な資金の流れは、到底看過できるものではありません。直ちに彼の団長解任と、極刑を求めます」
(はぁぁぁ!? 冗談じゃない、それお前んとこの文官が勝手に作ってた裏金(ダミー商会)だろうが!)
あまりの理不尽な責任転嫁に、俺は絶望した。
ハルバートが提示した報告書は、複雑怪奇な魔法陣のように数字が羅列され、素人には絶対に解読できない「完璧な偽装帳簿」だった。
周囲の貴族たちも、その圧倒的なデータ量とハルバートの権威の前に、すっかり彼の言葉を信じ切っている。
(ダメだ、終わった。こんなの、前世で言うところの『悪徳コンサルが作った、絶対に反論できない粉飾レポート』じゃないか……。俺みたいな平の営業マンに、これを論破するなんて……)
諦めかけたその時。
俺の目に、報告書の『ある数字』が飛び込んできた。
(……ん? 待てよ。この『魔石の減価償却費』の計上タイミング、おかしくないか?)
前世で、経理部に何度も経費を突き返され、自らも月末の売上報告で胃をすり減らしてきた「サラリーマンの直感」が警鐘を鳴らした。
(それに、この資金の流動比率。架空の在庫(カラ売り)を計上して、見かけ上の利益を作ってる時のパターンと完全に一致してる……! なんだ、こいつら。偉そうな顔して、やってることは場末のブラック企業の『粉飾決算』と全く一緒じゃないか!)
相手が「魔法と権力の怪物」なら手も足も出ない。
だが、相手が「数字を使った不正(粉飾)」で挑んでくるなら——それは俺が前世で何度も見せられてきた、ただの「見慣れた手口」だ。
「……ハルバート公爵」
気がつけば、俺は立ち上がっていた。
極度の緊張と怒りで顔面は完全に引きつり、額には青筋が浮かび、眼光はこれ以上ないほどに鋭く細められていた。
「ヒッ……!」
周囲の貴族たちが、俺の最凶の顔面に怯えて息を呑む。
「その報告書……ずいぶんと『お粗末な作り(見え透いた粉飾)』だな」
俺は、ハルバートを真っ向から睨み据えた。
ハルバートの冷徹な仮面に、初めて微かな焦りの色が浮かんだ。
「な、何を戯れ言を。この報告書は我が王宮財務院が総力を挙げて計算した、一分の隙もない——」
「ルシアン! そこに『黒板』を用意しろ!」
「ははっ!」
俺はハルバートの言葉を遮り、背後に控えていたルシアンに指示を出した。
用意された黒板の前に立つと、白墨を手に取り、前世で死ぬほど書かされた『キャッシュフロー計算書』と『損益分岐点のグラフ』を、ものすごい勢いで書き殴り始めた。
「いいか、よく見ろ! お前たちが指摘する使途不明金だが、この『第三四半期(秋季)』の資金流入と、軍馬の維持費(固定費)のバランスが致命的に矛盾している! 予算が消えたんじゃない、お前たちの帳簿の付け方(計上ルール)が意図的に二重計上されているだけだ!」
「なっ……!? そ、その奇妙な図形はなんだ! なぜ、見えないはずの資金の流れが、そのように視覚化されて……!」
ハルバートが、初めて余裕を失った声を上げた。
「さらにここだ! この『一時借入金』の動き! これは明らかに、監査の直前にだけ他から資金を移して、帳簿上だけ健全に見せかける『見せ金(粉飾)』の手口だ! 違うか!?」
現代のビジネスマンにとっては基礎中の基礎である「決算書の読み方」と「グラフによる可視化」。
しかし、複雑な暗号のような数字しか知らなかった異世界の貴族たちにとって、それはまさに「真実を暴き出す悪魔の魔法」に他ならなかった。
「……おおお! 見よ、あの図形を! 財務院の隠蔽工作が、一目で丸裸にされているぞ!」
「なんという論理展開だ……! バルド団長は、ハルバート公爵の知略を完全に凌駕している!」
会議室の空気が、完全にひっくり返った。
ルシアンが、感動のあまり震える声で叫んだ。
「素晴らしい……! 団長は、財務院が作り上げた虚飾の迷宮を、たった一本の白墨による『真理の魔法陣』で粉砕されたのだ! 悪徳文官どもよ、これが我が主君の圧倒的な『叡智』だ!」
(いや、ただの棒グラフと円グラフだよ! 魔法陣じゃないから!)
俺の内心のツッコミなど誰にも届かない。
冷徹な合理主義者であったはずのハルバート公爵は、自分の完璧な論理がただの『棒グラフ』によって完膚なきまでに論破され、ついに膝から崩れ落ちたのだった。
いつも本作をお読みいただき、本当にありがとうございます!
いよいよ第2章のボス、ハルバート公爵との直接対決がスタートいたしました。
相手が仕掛けてきたのは、難解な数字の罠。普通なら絶対に抜け出せない絶体絶命のピンチですが……バルドの前世は、数字の帳尻合わせとプレゼンで地獄を見てきたサラリーマンです(笑)。
ハルバートの完璧な報告書を一瞬で「ただの粉飾決算」と見破り、異世界には存在しない「棒グラフ」と「円グラフ」を駆使して、見事に王宮の重鎮たちを味方につけました。ルシアンにかかれば、棒グラフも『真理の魔法陣』になってしまうのがバルド陣営の恐ろしいところですね。
次回は、論破されて追い詰められたハルバート公爵の「最後の悪あがき」に対し、ルシアンの最強の武力が火を噴く、第2章の本当の決着となります!




