第30話 闘技場
俺たちはコリンとの約束通り、春休みは闘技場へとやってきた。
コリンはやる気満々で子供の部にエントリーしている。
「頑張って来いよ」
俺はコリンの頭を撫で、コリンは力強くうなずき、選手控室へと入っていった。俺とニコエラはそれを見送り、観客席へと向かった。観客は多く、俺たちはなんとか席を見つけて座ると、司会者がちょうど開始を告げた。盛り上がる中、一組目の試合がはじまった。
コリンは三組目で、木刀を片手に舞台へと上がった。対戦相手の子も木刀を持っている。同い年くらいの男の子だった。
司会者が試合開始の合図をすると、コリンは果敢に男の子に打ち込み、相手の子はそれを木刀で受けた。剣の腕は互角のようで、コリンは少し距離をとると、ファイアーボールを唱えたようだ。二つの火球が飛び出すと、会場が沸いた。火球は相手の男の子に迫り、一つは避けられ、もう一つを避けようとしたところにコリンが木刀を当てた。
司会者が手を上げて、試合終了の合図をした。
「勝者、コリン!」
俺はそれを見て感心した。
「コリンはもうファイアーボ―ルをふたつ同時に操れるのか」
「前に言っただろう。コリンには魔法の才能があると。まぁ、私の指導がいいからな」
ニコエラは自慢げにそう言った。
コリンは二試合目も勝ち、三試合目は年齢も体格もコリンよりも大きい子が相手だった。奮闘はしていたが、コリンは負けてしまった。観客席からでもわかるくらい悔しそうにしていた。
その後、すぐに三位決定戦がはじまった。コリンは木刀を素振りし、気合十分の様子である。相手の子はコリンよりやはり大きい男の子で、コリンの分の悪さを感じてしまう。
相手の子が打ち込んできたので、コリンはそれを受け流した。
俺は思わず腰を浮かし、応援に熱が入る。
「そうだ! コリン、打ち込んでいけ!」
隣に座るニコエラも息を呑んで試合を見守っていた。
コリンが相手の子に木刀を当てにいったがかわされてしまう。コリンは体勢を立て直すために距離を取った。そして、再び打ち込みにいったかと思うと、相手の子が大振りに剣を振り上げたところに、アイスブレイドを唱えた。氷の塊が飛び、相手の子が間一髪で避けたところに、コリンが木刀を当てた。
会場から歓声が沸き起こり、今回の試合はコリンが三位で終わった。
表彰式が終わり、俺たちは控室へと向かった。コリンは俺たちを見つけると、駆け寄ってきた。
「三位だった。くやしい」
そう言いながらむくれているコリンの頭を俺は撫でた。
「コリンが出た子供の部は十歳から十四歳までだろう。奮闘した方じゃないか」
それでもコリンは唇を尖らして納得できない様子だ。
すると、背後から男性の声がした。
「コリン君のお母さんと、お父さんですか?」
振り返ると、そこには中年の穏やかそうな男性が立っていた。
「わたしは魔法学校で講師をしているアーサーと申します。コリン君の試合を見て、魔法の才能を感じました。コリン君は今、何歳でしょうか?」
俺とニコエラは驚き、顔を見合わせた。俺はアーサー先生に視線を戻して答えた。
「今、十一歳です」
「なら、来年から中等学校ですね。魔法学校の中等部への入学を検討してみませんか?」
俺が言葉を失っていると、ニコエラがコリンに尋ねた。
「コリン、この前魔法都市に行っただろう? そこに魔法学校があるんだ。行ってみたいと思うか?」
コリンは首を横に傾げた。
「急に言われてもなぁ。魔法都市だとアニエス村からは通えないだろ?」
それにアーサー先生がコリンの視線に合わせて腰をかがめた。
「魔法学校には寮がある。国中から魔法を学ぶために大勢の子がくるんだよ」
「すぐに決めろとは言わない。少し考えてみようか」
ニコエラがそう優しく諭すと、コリンはうなずいた。
アーサー先生はニコエラに視線を向け、かばんから冊子を出した。
「これは魔法学校受験の案内です。入学をご希望の場合は、願書は十二月末までに学校に届くように送付いただくか、お持ちください」
ニコエラが軽く目を通し、うなずいた。それから、気まずそうに尋ねた。
「この子、勉強はあまりできないんだが……」
それにアーサー先生は優しく微笑んだ。
「学力テストもありますが、参考程度です。実技に重きを置いているのでご安心ください」
それにニコエラはほっとした表情を見せた。アーサー先生は俺たちに会釈をしたあと、去っていった。俺はコリンの頭をわしわしと撫でた。
「すごいじゃないか。魔法学校からスカウトがきたぞ」
コリンは状況が良くわかっていないようで、不思議そうに俺を見上げてきた。
「魔法学校かぁ」
「コリンは魔法剣士になりたいんだろう? 一流の学校で学べる機会だぞ。誰でも入れる学校じゃないんだ」
コリンはうなずき、うつむいた。
「でも、ひとりで魔法都市に行くんでしょう?」
ニコエラはコリンの肩に手を置いた。
「そうだな。でも、コリンだけじゃない。他にも同い年の子がたくさん集まってくる。きっと寂しくはないよ」
コリンは少し考えている様子を見せた。
「考えてみるよ」
家に戻るとすぐにコリンが俺に言った。
「レイチェルお姉さんなら魔法学校のこと詳しいかな?」
それをきっかけに、俺はレイチェルにノートで連絡を取った。
『武闘大会の子供の部にコリンが出場したら、三位だった。そこで魔法学校のアーサー先生から魔法学校への入学をすすめられたんだが……』
すると、すぐにレイチェルから返信がきた。
『あら、アーサー先生にスカウトされたの? すごいじゃない』
『知り合いか?』
『ええ。あたしも学校時代はお世話になった信頼できる先生よ。入学を悩んでいるの?』
『そうなんだ。中等部からとなると、今年中に決めなくてはならない』
『そうね、あたしは入学をすすめるわよ。才能があるなら早めに伸ばしてあげた方がいいわ』
その返信にニコエラが言った。
「私もレイチェルの言う通りだと思う。魔法学校の先生たちの方が才能を育てることに関しては長けているだろう」
すると、さらにレイチェルから返信があった。
『なにが不安?』
「ペン貸して」
コリンが俺に手を差し出したので、俺はペンを渡した。すると、コリンがノートに書き出した。
『コリンだよ。アニエス村を離れるのが不安。レイチェルお姉さんも魔法学校を卒業したの?』
『そうよ。あたしは初等部から魔法学校の寮に入ったの。大学まで卒業したわ。だから、コリンの不安もわかるつもりよ。寮生活は楽しかったわ。今でも戻りたいと思うくらい』
コリンはペンを頬に当てて、考えているようだった。それからまた書き出した。
『おれより小さいころから魔法学校に行っていたんだね』
『そうよ。せっかくなんだから挑戦してみたらどうかしら? 困ったことがあったら、あたしも魔法都市にいるし、サポートできると思う。夏休み、冬休み、春休みも長めに設定されているから、定期的にアルとニコにも会えるわよ』
『おれ、魔法剣士になりたいんだ』
『いいじゃない。なら、なおさら魔法の勉強はちゃんとした方がいいわ。魔法学校の選択授業に剣の授業もあるし、卒業生には魔法剣士もたくさんいるわよ』
コリンはそれを読んで、顔を上げた。
「おれ、前向きに魔法学校入学を考えてみようかな……」
それに俺は微笑んだ。
「そうだな。まだ春だし、ゆっくり考えよう」
俺はそう言って、ノートにレイチェルへのお礼を書いた。
『相談に乗ってくれてありがとう』
『お安い御用よ』
俺はそれを読んでノートを閉じた。
コリンは晴れ晴れとした表情をしていたが、俺はどこか寂しくも感じていた。もしかしたら来年のこの時期にはコリンは魔法学校へ入学するため家を出るかもしれない。だが、それは喜ぶべきことである。
俺はニコエラと楽しそうに話しているコリンが、これからどう成長していくのかを想像して、それはとても楽しみな未来だと、そう感じていた。




