第29話 コリンの夢
「授業参観?」
学校から帰ってきたニコエラとコリンが椅子に座りながらうなずいた。ニコエラはにこやかにそう尋ねた俺に言った。
「ああ。スーザンがもうすぐ卒業だからな。せっかくなら親たちも呼んで、華々しく送り出そうと思っている」
俺はスーザンと聞いて、三つ編みをした年長の女の子を思い出した。優秀な子で、アンカースの高等学校への進学も視野に入れている子だ。
「そうか。もうそんな時期なのか」
「アルおじさんも来てね!」
コリンがテーブルに身を乗り出しながらそう言った。
「わかった」
普段、コリンがどのような学校生活を送っているのかも興味があり、俺は参加することに決めた。
授業参観当日。
ニコエラとコリンは先に学校に行き、俺はあとから学校に向かった。学校は一軒家を改造して作られており、玄関を入るとすぐに机が並び、壁には黒板が設置されていた。
すでに他の保護者たちは揃っており、壁に沿って立っていた。俺は恐縮しながらそこに並んだ。
アンナ先生とニコエラが何やら話しており、子供たちも親たちが来ているせいかそわそわとした雰囲気だ。コリンが俺をちらちらと見てくるので、軽く手を振った。すると、コリンは小さく振り返してきた。
アンナ先生が教壇に立ち、子供たちを見渡した。
「さぁ、はじましょうか」
すると、スーザンが立ち上がった。
「起立、礼」
子供たちは立ち上がり、アンナ先生に向かって礼をする。
「着席」
子供たちが座ったのを見て、アンナ先生は話し出した。
「今日はみなさんのお父さんとお母さんが来てくれています。ひとりずつ、将来の夢を発表していきましょう。まずは、スーザンから」
スーザンは返事をして、アンナ先生の隣に立った。
「わたしは春からアンカースの高等学校へ進学します。そこでたくさん学び、アンナ先生のように村で子供たちに勉強を教える先生になりたいと思います」
教室中に拍手が鳴り響いた。アンナ先生は微笑みながら、スーザンに向き合った。
「スーザン、卒業おめでとう。あなたならきっとよい先生になれると思います。高等学校に行っても、あなたらしくいてくださいね」
コリンたちも立ち上がり、口々にお祝いの言葉を述べた。スーザンは涙をたたえ、笑顔で礼を言った。
「次はコリンね」
コリンは返事をして、アンナ先生の隣に立った。俺は見ているだけなのに、なぜかとても緊張してしまう。
コリンは小さく深呼吸してから話し出した。
「おれはアルおじさんのような剣士と、ニコ先生のような魔法使いに憧れています。なので、両方合わせた魔法剣士になって、困っている人たちを助けられるような強い人になります」
俺はそう立派に言ったコリンを見て、こみあげてくるものがあった。それを堪えながら、拍手をした。
「まぁ、まぁ。コリンらしい夢ね。たくさん訓練して、夢を叶えてくださいね」
「はい!」
コリンはそう返事をして、席へと戻った。
授業参観が終わり、スーザンのお母さんが言った。
「アンナ先生、ニコ先生。今まで娘がお世話になりました。ささやかですがお礼をさせてください。よかったら皆さんも。お菓子を焼いたので、うちでお茶でもいかがでしょうか?」
それに、アンナ先生とニコエラが顔を見合わせて、嬉しそうに微笑んだ。スーザンが二人の前に立って、手を取った。
「ぜひいらしてください」
アンナ先生が泣きそうになりながら、複数回うなずいた。
「ぜひお邪魔させていただくわ」
そうして、俺たちは学校からスーザンの家へと向かうことになった。スーザンの家族を先頭に歩いていると、五人組の見慣れぬ男がこちらへやってきた。俺は警戒し、剣のグリップに手を添えた。
男たちはにやにやとしながら剣を抜いた。
「今日からこの村をオレたちの拠点とする。逆らうなら命はない。まずは、村長を呼んでもらおうか」
辺りから悲鳴が上がった。俺は隣にいるニコエラに声をひそめて言った。
「ニコは村人たちを守れ」
ニコエラがうなずき、杖を取り出した。俺は村人たちの前に出た。
「ずいぶんと横暴な移住者のようだ。村長を煩わせるまでもない。俺が相手をしよう」
俺はそう言いながら、剣を抜いた。男たちはあいかわらずにやにやとして、リーダーと思われる男が笑った。
「威勢のいい兄ちゃんだ。だが、身の程は弁えた方がいい」
そう言って、斬りかかってきた。俺はそれを避け、グリップで男の手を打って、剣を落とさせた。それを見ていた他の四人も斬りかかってきたので、それを受け流しながら、最後のひとりの剣を薙ぎ払った。剣が宙を舞い、地面に突き刺さる。
「なんだ。口ほどにもないじゃないか」
俺は剣を振り、男たちを見据えると、男たちはごくりと唾をのみ、恐ろしいものを見るようにして俺を見た。
男のひとりが駆けだし、村人の方へと向かった。狙っているのはスーザンのようで、スーザンは小さく悲鳴をあげた。すると、コリンが勇ましくスーザンの前に立ちはだかり、男がコリンに手を伸ばしたときだった。
ニコエラが杖で男のいく手を阻み、男は血走った目をニコエラに向けた。すると、ニコエラの冷たい紫の瞳に当てられ、その場に尻をついた。
「ニコ」
俺が名を呼ぶと、ニコエラはちらっと俺の方に視線を向けた。
「ああ、わかっている」
「……なんなんだ、この村」
男は震えた声でそう言いながら後退り、リーダーと思われる男が剣を拾いながら踵を返した。それに他の男たちも追随する。
俺はその後ろ姿に声をかけた。
「もう二度とくるなよ」
すると、村人たちから拍手が沸き起こった。
「アルさんとニコさんがいてくれてよかった」
俺は恐縮しながら笑みを浮かべた。そして、コリンの頭を撫でた。
「スーザンを守ろうとしたな。えらいぞ」
コリンは照れたように笑い、スーザンがコリンにお礼を言うと、コリンはさらに気恥ずかしそうに身をよじった。
そして、俺たちは予定通り、スーザンの家で卒業パーティを開いた。
帰り道、コリンは上機嫌で俺とニコエラの手を掴んだ。
「ふたりともすっごくかっこよかった。さすがはアルおじさんとニコ先生だね。おれも、もっと強くなる!」
俺とニコエラは顔を見合わせて微笑んだ。




