第28話 温泉旅行
俺はジョンさんと話しながら、学校が終わるのを待っていた。
ニコエラとコリンがこちらに歩いてくるのを見つけて、俺は手を上げた。コリンがこちらに駆け寄ってくる。
「アルおじさん!」
ニコエラも笑みを浮かべながら、こちらに向かってくる。
「私たちを待っていたのか?」
俺はうなずき、コリンに視線を向けた。
「今日はジョンさんのところで商品を買うと福引をさせてくれるらしい。せっかくだからコリンにやらせてやろうと思ってな」
すると、コリンはぴょんぴょんと跳ねた。
「やりたい!」
「大銅貨一枚分お買い上げいただいたので、二回引いていいですよ」
コリンはうなずき、木製のガラポンを回した。すると、白い玉が出てきた。
「残念。五等の小銅貨五枚分の商品券です」
ジョンさんから商品券をもらったコリンは、苦い顔をしている。コリンはジョンさんを見上げた。
「他には何があるの?」
ジョンさんは荷台の壁に張られた紙を指差した。そこには景品の一覧が書かれていた。二等まではそれぞれ商品券で、一等の景品が温泉旅行だということに、俺は気づいた。
「よし。コリン、次は一等だ!」
コリンは俺を見上げ、呆れた顔をした。
「プレッシャーかけないでよ」
そう言って、小さくため息をつきながらコリンはまたガラポンを回した。出てきた玉に、俺とニコエラ、コリン、ジョンさんがそろって目を丸くした。ジョンさんが持っていたベルをけたたましく鳴らした。
「おめでとうございます! 一等の温泉旅行!」
俺はコリンを抱き上げ、引き当てたコリンは驚いた顔で俺の肩に手を置いた。
「よくやった! コリン!」
「おれ、すごい!」
「すごい、すごい!」
ニコエラも満面の笑みで拍手をしている。
こうして、俺たちは冬休みに温泉旅行に行くことが決定した。
俺たちはジャーヴィス温泉郷にやってきた。古い町並みが雰囲気を醸し出している。街の中央には湯畑があり、白い湯気が立ち上っていた。
昼食は街の屋台で食べ歩きをして、俺たちはさっそく宿へと向かった。宿は老舗旅館で、風情を感じる建物だった。玄関の横開きの扉を開けると、カウンターにいた着物姿の女将さんが笑顔で出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ」
俺はカウンターにジョンさんからもらった招待券を置いた。
「これでお願いします」
女将さんはそれを受け取り、うなずいた。
「お待ちしておりました。――ご案内、お願い」
すると、奥から若い着物姿の女の子がにこやかに出てきた。
「ご案内いたします」
俺たちはその女の子についていった。二階の角部屋に案内され、室内は畳張りの部屋だった。畳のいい香りがする。
女の子は宿の説明をした後、部屋を出ていった。
俺たちは部屋を探検し、そのあとテーブルでお茶を飲んで、しばらくゆっくりとしていた。コリンは茶菓子に用意されていたまんじゅうをもくもくと食べている。
「夕食の前に温泉行くか?」
俺がそう提案すると、ニコエラとコリンはうなずいた。
俺とコリンは男湯の暖簾を潜った。脱衣所で服を脱ぎ、浴場のドアを開けるとそこは露天風呂だった。
「わぁ! 外にお風呂がある!」
駆けだそうとするコリンの肩を俺は掴んだ。
「先に体を流すぞ」
「そうだった」
コリンは俺を見上げ、笑った。俺たちは並んで体を流し、待ちに待った温泉に浸かろうとしたときだった。コリンが駆けだした。
「おい! 飛び込むなよ!」
俺がそう言いながら振り返ったときには、コリンは空中にいた。大きな音を立てて、コリンはお湯に飛び込んだ。
「誰もいないからって、なにしてもいいわけじゃないぞ……」
俺も露天風呂につかりながら、コリンに小言を言った。
「ごめんなさぁい」
コリンは岩に腕を置き、そこに顎を乗せている。足を浮かせ、バタ足をしようとしたので、俺はその足を掴んだ。
「他に人がいなくてもマナーは守らないといけないぞ」
「はぁい」
俺とコリンはゆっくりと温泉に浸かった。
部屋に戻り、俺とコリンが浴衣姿でのんびりとしていると、ニコエラも戻ってきた。俺たちを見て、小さく笑った。
「二人ともにぎやかだったな。女湯まで聞こえていたぞ」
俺はそれに苦笑した。
「ニコはゆっくりつかれたか?」
「ああ。すごく気持ちがよかった。景色もよかったし、最高だ」
ニコエラはわずかに紅潮した顔で微笑んだ。その姿が色っぽくて俺は思わずどきっとしてしまった。
「失礼いたします」
その声と共に、さきほど案内してくれた女の子が室内に入ってきた。手にはお盆を持っている。
「お夕食の準備をさせていただきます」
そう言って、テーブルの上に焼いた川魚、鶏肉の鍋、小鉢などを並べていく。女の子は料理を簡単に説明し、
「ごゆっくりどうぞ」
そう言って、にっこりと微笑んだ。
女の子が部屋を出た後、俺たちはさっそく料理をおいしくいただいた。
夕食を食べ終えた俺たちは、温泉に行っている間に敷かれていた布団でくつろいだ。
「おれが真ん中がいい」
三枚敷かれた布団の真ん中をコリンが陣取った。すると、コリンはうとうととしはじめ、気づけば寝息を立てていた。
俺はそれを微笑ましく見ながらニコエラに言った。
「俺たちもそろそろ寝るか」
「そうだな。おやすみ、アル」
そう言いながらニコエラが横になったので、俺はランプを消して、布団に入った。
心地よい眠気に身を任せていると、誰かが横を通った気がして、俺はわずかに目を開けた。カラカラと窓が開く音がした。
俺は起き上がり、ベランダに目を向けると、ニコエラが景色を眺めていた。俺もニコエラの後を追ってベランダへ出た。
「寒くないか?」
ニコエラはわずかに振り返り、微笑んだ。
「少しだけ風に当たりたくなった」
俺は腕を擦りながらニコエラの隣に立った。
「眠れないのか?」
「違う。眠るのがもったいなくてな。この時間が永遠に続けばいいのに……」
そう言いながら、ニコエラは夜空に目を向けた。俺も同じように空を見上げると、月が暗い夜空に淡く白い光を放っている。下には川が流れ、せせらぎが心地よい。
俺が再びニコエラに視線を向けると、その横顔は一瞬だけ泣いているように見えた。時折、ニコエラはこういう表情をする。その顔を見ると、俺の胸は苦しくなる。俺はニコエラの手を掴んだ。ニコエラは驚いた顔を見せたが、小さく微笑み、俺の手を握り返した。
「どうしたんだ? アル」
「……なんとなくこうしたいと思ったんだ」
「おかしなやつだな」
ニコエラは小さく笑った。俺たちはしばらく手をつなぎ、ベランダから見える景色を眺めていた。




