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居場所をなくした勇者と元魔王が辺境でスローライフはじめました  作者: 冬木ゆあ


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第27話 クライブの来訪

 村の周りの見回りを終え、帰ってきたときだった。お茶でも飲もうかとキッチンに立つと、玄関のドアをノックする音が聞こえた。


「どちらさま……」


 俺がそう言いながらドアを開けると、レイチェルが満面の笑みで手を上げた。


「はぁい。アル」


 俺はそっとドアを閉めた。すると、ドアをドンドンと叩く音がする。


「ちょっと! なんで閉めるのよ!」

「お前が来ると、ろくなことがない」


 今度はガチャガチャとドアノブを回す音がするので、俺は少しだけドアを開けて顔を覗かせた。


「何の用だ」

「なによ、アルがノートを見ないから、あたしがクライブをここまで案内してきてあげたのに!」


 ぷんぷんと怒るレイチェルの後ろには苦笑しているクライブがいた。俺は笑みを浮かべながらドアを開け、クライブの肩を叩いた。


「クライブ! 中に入れよ」


 二人を家の中に招き入れ、リビングのテーブルの椅子に座ってもらった。お茶を用意し、俺はクライブの正面に座った。


「それで、こんなところまできて、どうしたんだ?」


 クライブはお茶を一口飲んでから話し出した。


「騎士団の大隊長に空席ができた。以前、アルバートが騎士団に入りたいと言っていたことを思い出してな。誘いに来たんだ」


 俺はそれを聞き、思わずイエスと即答しそうになって、ニコエラとコリンのことが頭によぎった。

 すると、ちょうど玄関からニコエラとコリンが「ただいま」と帰ってきた。


「そこに立派な馬車が止まっていたが、うちに来客か?」


 ニコエラがそう言いながらリビングに入ってくると、レイチェルが立ち上がった。


「ニコ、コリン! おかえりなさい」


 それにニコエラとコリンは目を丸くした。


「レイチェルお姉さんだ!」

「レイチェル、それに、クライブじゃないか」


 クライブも立ち上がった。そして、コリンの前で腰をかがめた。


「コリン君だね。はじめまして。王立騎士団長のクライブだ」


 それを聞いたコリンは茶色の瞳を輝かせた。


「うわぁ。王立騎士団の団長さん? すごい! かっこいい!」


 クライブは笑みを浮かべて、コリンの頭を撫でた。それから、ニコエラを見た。


「ニコさん、お邪魔しています」


 ニコエラは微笑み、うなずいた。ニコエラは俺を見た。


「私たちは部屋にいた方がいいか?」


 それにクライブが答えた。


「いいえ。わたしの用事は終わりました。もう帰ります」


 それに俺は驚き、立ち上がった。


「今、来たばかりじゃないか」

「そこに馬車を待たせている。あまり長居はできない。少し考えるだろう? 回答はまた手紙かなにかで……」

「なら、これ使いなさいよ」


 レイチェルはかばんからノートを二冊取り出し、テーブルに置いた。それから、杖を取り出し、ノートに向けると、ノートから淡い光があふれた。レイチェルはそれを俺とクライブに一冊ずつ渡した。


「これで連絡が取り合えるでしょう?」


 俺とクライブはレイチェルにお礼を言った。そして、俺は二人を玄関まで見送った。


「また連絡するよ。今回は来てくれてありがとうな」

「ああ。直接伝えたかったからな。じゃあ、また」


 クライブは軽く手を上げて、レイチェルは大きく手を振った。


「またね! アル、ニコ、コリン」


 二人の背中を見送り、俺は家の中へと戻った。

 ニコエラはそのままキッチンへ行き、昼食の支度をはじめた。


「それで、二人は何の用だったんだ?」


 俺はキッチンのカウンターに肘を置き、答えた。


「実はクライブから王立騎士団に入らないかと誘われた」


 ニコエラは玉ねぎを切る手を止めて俺を見た。


「……いい話じゃないか」

「ああ。それで、ニコとコリンにも一緒について来てもらいたい」


 ニコエラは何も答えず、視線を玉ねぎへと向けた。


「大事な話だ。昼食をとりながらゆっくり話そう」


 そう言って、ニコエラはまた昼食作りに戻った。

 昼食はクリームスパゲッティだった。食べはじめると、さっそくニコエラが口を開いた。


「王立騎士団に入るということは、王都に行くということか?」

「そうなるな。だが、定職に就ける」


 ニコエラは隣に座るコリンに視線を向けた。


「コリンはどう思う?」


 コリンはフォークでスパゲッティを巻きながら、考えているようだ。不安げな顔でニコエラを見上げた。


「……おれはアニエス村に残るよ。学校のみんなと離れたくない」


 ニコエラはうなずき、俺を見た。


「なら、私もアニエス村に残ろう。コリンが十五歳の成人まではそばにいてやりたい。その後、私も王都に行くか考えよう。あまり人が多いところに住むのは不安だ」


 てっきりついて来てくれるものだと思っていた俺は、二人の言葉に少なからずショックを受け、スパゲッティに視線を落とした。それに、ニコエラは言った。


「アルにとってはいい話だろう? 私たちに気を遣わずに、お前がしたいようにすればいい」


 俺はゆっくりとうなずいた。



 その夜。

 俺はベッドに寝転がり、考えていた。

 ひとりで王都に行き、王立騎士団に入るか、このままアニエス村でニコエラとコリンと暮らすか――。


「究極の二択だな……」


 そのとき、ふと魔法都市で出会った占い師のおばあさんの言葉を思い出した。


『これから先、二つの選択を迫られるときがくる。どちらを選択したとしても人生は大きく変わる。己の心に従いなさい。お前さんのいちばん大切なものはなにかをよく考えるといい』


「俺の大事なもの……」


 俺は起き上がり、机にノートを広げた。深呼吸をしてから書き出した。



 翌日の夜。

 夕食後のリラックスタイムのときに、俺は切り出した。


「王立騎士団のことだが、今回は見送ることにしたよ」


 それに、ニコエラは驚いたように紫色の瞳を俺に向けた。


「お前はそれでよかったのか……?」

「ああ。ニコが前に言っていただろう? 今この時を、共に過ごしたい、と。俺も同じ気持ちだ。俺にとって何が大切かを考えた結果だ」


 俺が微笑みながらそう言うと、ニコエラとコリンが俺に抱きついてきた。コリンに至っては泣いている。


「なんだ、なんだ?」

「私たち、お前がいなくなると思っていた。けど、お前にとってはいい話だったからな。行くなとは言えなかったんだ」


 俺はニコエラとコリンの背に手を回した。


「寂しかったのは、俺だけじゃなかったんだな」

「当たり前だ!」


 俺はそう言うニコエラの額に頭を寄せた。


 自室に戻り、ノートを開くと、クライブから返信が来ていた。


『お前たちの様子を見ていて、断られるような予感がしていた。また空席が出たら声をかけるよ』


 俺はそれを読んで、微笑んだ。

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