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居場所をなくした勇者と元魔王が辺境でスローライフはじめました  作者: 冬木ゆあ


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第26話 ニコエラの帰郷②

 魔族領に入った俺たちは、二日ほどでニコエラの故郷に辿り着いた。小さな街のようで、商店などもある。俺は興味津々で街を見物しながら歩いた。すると、ニコエラと同じ紫の瞳と髪をした人々はこちらを見ていることに気づいた。


「ニコエラ様じゃないか……?」

「戻られたのか」


 そう会話が聞こえ、俺は隣を歩くニコエラに声をかけた。


「ニコは有名人なんだな」

「……この一族の当主だからな」


 俺はまたニコエラに呆れられてしまった。

 ニコエラは城といっても過言ではない建物の前で立ち止まった。門を守っている騎士たちがニコエラに敬礼する。


「おかえりなさいませ、ニコエラ様。そちらの方は?」


 騎士が俺に目を向けた。ニコエラが騎士に答えた。


「私の連れだ。気にするな」


 そう言って、ニコエラは門をくぐり、敷地内に入っていく。俺はきょろきょろと辺りを見回しながら、その後を追った。


「すごいところだな。ここはなんだ?」

「私の家だ」


 俺は愕然とし、立ち止まった。そんな俺をニコエラが振り返った。


「どうした?」

「ニコ、お前、お姫様かなにかなのか……?」

「……だから、当主だと言っている」


 ニコエラは呆れた笑みを浮かべた。それから、また歩き出したので、俺はついていった。

 玄関に辿り着く前に、紫色の瞳と肩の上で綺麗に切りそろえられた髪をした男の子が出てきた。そして、お辞儀をした。


「ニコエラ様、おかえりなさいませ」

「ああ。ジャヤックに呼び出された。いるか?」

「はい。まずはお仕度をお願いいたします。その後、応接の間にご案内いたします」


 そう言って、男の子は踵を返し、歩き出した。それにニコエラはめんどくさそうな顔をした。


「応接の間ということは、ジャヤックだけでなく、五人衆全員集まっているのか?」


 男の子はうなずいた。それにニコエラはため息をついた。

 ひとつの部屋に案内された。そこはベッドなどがおかれた部屋で客室というよりかは誰かの寝室のようだった。ふくよかな女性がいて、ニコエラにお辞儀をした。


「おかえりなさいませ、ニコエラ様。お仕度をいたしましょう」


 ニコエラはうなずき、俺を振り返った。


「そこにある椅子に座っていろ」


 俺は言われた通りに、椅子に座った。じっとニコエラを見ていると、ニコエラは困ったように言った。


「着替えるから、あっちを向いていてくれないか?」

「そうだったのか。すまん」


 俺は慌ててニコエラに背を向けた。念のために両手で目も隠しておく。衣擦れの音がしばらく続き、しばらくすると、ニコエラの声が聞こえた。


「もうこっち向いていいぞ」


 俺はおそるおそる目から手を離し、ニコエラの方を向くと、女性がニコエラの髪を整えているところだった。


「ずいぶんと御髪が伸びましたね。アップはまだ難しそうなので、ハーフアップにしましょうか」

「うん。ラーヴィーに任せるよ」


 ラーヴィーさんはニコエラの髪をハーフアップにして、化粧を施した。俺は借りてきた猫のごとくそれを見守る。


「できましたよ」


 ニコエラは立ち上がり、俺の方を振り返った。黒いドレスに身を包んだニコエラの姿に、俺は思わず見とれてしまう。


「綺麗だな。まるでお姫様のようだ」

「ありがとう、アル。それじゃあ、応接の間に行くか」

「俺も行っていいのか?」

「ああ。お前もこい」


 扉を開けると、先ほどの男の子が待っていた。男の子の先導で、俺たちは廊下を歩いていく。一室の前で男の子は立ち止まり、ノックをしてから扉を開けた。そして、お辞儀をした。


「ニコエラ様とお連れ様がご入室いたします」


 お辞儀をしたまま男の子は下がり、ニコエラと俺が入室した。そこには円卓が置かれ、五人が立ち上がり、ニコエラに向かってお辞儀をした。

 ニコエラは空いている席に向かい、その途中で、俺を振り返り、背後に置かれた椅子を指差した。


「アルはそこに座って」


 俺はうなずき、椅子に座った。

 ニコエラが席につくと、他の人たちも席についた。ひとりの若い男性が口を開いた。


「ニコエラ様、よくぞお戻りくださいました」

「ジャヤック、お前のカラスは優秀だな。ちゃんと私を探し出したぞ。それで、まずは用件を聞こうか」

「魔王の座に戻っていただきたい」


 ニコエラは首を横に傾げた。


「今の魔王はダダーレンだろう?」


 すると、ジャヤックさんは顔をしかめた。


「あれはまだ仮の魔王です。ダダーレンがニコエラ様を排した後、魔王の選抜は行われていません」

「……選定の儀が行われていないということか?」


 ジャヤックさんは気まずそうにうなずいた。


「そうです。我ら一族の当主はニコエラ様。ニコエラ様がいらっしゃらないので、正式な選定の儀が執り行えずにおりました。なので、カラスにずっと探させていたのです」


 背後に座る俺からはニコエラの表情は見えないが、表情は容易に想像できた。きっと顔に『やってしまった』と書いてあるような表情をしているに違いない。今度は女性がニコエラに告げた。


「ニコエラ様、ぜひ魔族領にお戻りくださいませ」

「我らにはニコエラ様が必要なのです」


 今度は男性が言った。ニコエラは顔を上げた。


「私は、今は魔族領に戻るつもりはない。ジャヤック、お前が当主となり、選定の儀に挑め」


 それにジャヤックさんは真剣な表情でニコエラを見た。


「ニコエラ様はこれからも人間の国にいるおつもりですか?」

「ああ。私は今、人間に興味がわいている。彼らを知りたいと思っている」


 女性は俺に視線を向けながら言った。


「ニコエラ様、人間は寿命が短い。つらい思いをするのはあなたですよ」

「わかっている、ララ―ネ。だからこそ、今この時を、彼らと共に過ごしたい」


 髭を生やした男性がうなずいた。


「そこの男はニコエラ様の何なのだ?」


 ニコエラは俺を振り返り、微笑んだ。


「私の命の恩人であり、同居人だ。あとは、村にコリンというかわいい同居人もいる。今は私のわがままを見逃してはくれないか? ジェーム」


 ジェームさんは腕を組み、考えているようだ。ニコエラは円卓にいる全員に頭を下げた。


「頼む」


 ララーネさんは微笑み、全員に向けて言った。


「ニコエラ様は今まで当主として、魔王として立派に我らを支えてくださいました。少しばかりの間、自由にさせてあげてもいいのではないでしょうか?」


 ジャヤックさんはやれやれと言った感じでうなずいた。


「そうですね。わたしも賛成です」


 ジェームさんもうなずき、他の二人もうなずいた。ニコエラは顔を上げながら言った。


「ありがとう」


 ジェームさんは俺に視線を向けた。


「お名前をお聞かせいただけますか?」


 俺は立ち上がり、頭を下げた。


「アルと申します。ニコエラ……様と一緒に生活をしている者です」


 ジェームさんも立ち上がり、俺に頭を下げた。


「ニコエラ様をどうぞよろしく頼みます」

「はい」


 話し合いはお開きとなった。ニコエラは着替えを済ませ、俺たちはラーヴィーさんが入れてくれたお茶を飲んでいた。


「さぁ、これを飲んだら帰るか」


 ニコエラがそう言うので、俺は首を横に傾げた。


「せっかく帰ってきたんだ。家族に会っていかなくていいのか?」

「会ったからもういい」


 俺はさらに首を横に傾げた。


「会った?」

「ああ。ジェームが父親で、ララーネが母親だ。ジャヤックは腹違いの兄だな」


 ニコエラが何食わぬ顔でそう言うので、俺は思わず椅子から腰を浮かべた。


「そういうことは先に教えてくれないか? ちゃんと挨拶できていないじゃないか」


 ニコエラは首を横に傾げた。


「前にも言っただろう。魔族に家族という概念はない。子供が生まれると乳母が育てる。私にとってアルやコリンに近い存在は、乳母のラーヴィーだ」


 俺は給仕をしてくれていたラーヴィーさんを見上げた。ラーヴィーさんは俺に、にっこりと微笑んだ。

 こうして、無事にニコエラの帰郷は終わった。


 アニエス村に戻った俺とニコエラは、村長の家にコリンを迎えに行った。すると、むくれた顔でコリンが出てきた。


「結局、村長にチェスで勝てなかった……」


 それに村長は笑った。


「まだまだ負ける気はしないな」


 奥さんが二人の後ろから笑いながら言った。


「あらあら、そう言って、コリンの手に何度も唸っていたじゃない」

「まぁ、センスはいい。鍛えがいがあるよ」


 コリンは村長を振り返った。


「今度は負けないからな!」


 村長は笑いながらコリンの頭を撫でた。

 俺とニコエラはその様子を見て、そっと微笑んだ。

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