第24話 夏の日のこと②
そこまで考えていなかった俺は、驚いてすぐに言葉が出なかった。
「……あ、いや。迷惑などではありませんよ」
とはいえ、俺とコリンは血がつながっていない。もしかしたら、親戚の家の方がコリンにとってはいいのかもしれないともよぎった。しかし、コリンに尋ねるのを俺は躊躇してしまった。もし、ここに住むと言われたら、寂しいと感じてしまったからだ。
ニコエラがコリンの目線に合わせて腰をかがめた。
「私たちはお前がいて迷惑だと思ったことはないし、これからもずっと一緒だと思っている。けれど、どちらに住みたいかを決めるのは、コリン、お前だよ」
コリンは茶色の瞳でニコエラの紫の瞳をじっと見つめた。
「俺は、アニエス村にいたい。ニコ先生と、アルおじさんと一緒にいたい」
それを聞いて、俺はほっとしてしまった。ニコエラも微笑み、コリンの頭を撫でた。
「ああ。これからも一緒にいよう」
俺は男性に向き直り、軽く頭を下げた。
「せっかくご提案いただきましたが、これからも俺たちにコリンを預けてはいただけないでしょうか?」
男性は穏やかな表情でうなずいた。
「もちろんです。むしろ、こちらがお礼を言わなくてはなりません。もしかして、ただ訃報を伝えに来てくださっただけでしたか……?」
「そのつもりでした」
すると、男性は謙遜したように立ち上がった。
「わざわざアンカースまで申し訳ない」
「いえ。明日の夏祭りにも参加しようと思っていたので」
「なるほど。すると、今晩は宿でしょうか? もしかしたらもういっぱいかもしれませんよ。――マーガレット、客室をお貸ししよう」
すると、マーガレットと呼ばれた女性はうなずいた。
「そうね。支度してくるわ」
俺はそれに恐縮してしまう。
「そんな、急に押しかけた挙句、泊めていただくなんて……」
男性は笑顔で首を横に振った。
「いいんですよ。申し遅れました。わたしはリチャードと申します。妻はマーガレットです」
そう言いながら、リチャードさんは立ちあがり、手を差し出してきたので、俺はその手を握り返した。
「俺はアルです。それから、妻のニコです」
ニコエラは俺の隣で軽く頭を下げた。リチャードさんもニコエラに軽く頭を下げた。
「今、お茶を入れますね。どうぞかけて、くつろいでください」
リチャードさんはそう言って、キッチンへ向かった。
翌日の夕方。
俺とニコエラ、コリン、リチャードさん、マーガレットさんの五人で夏祭りへと出かけた。いつも以上の人で、中央通りには屋台がずらっと並んでいる。軽快な音楽も聞こえてきて、賑やかだった。
コリンはさっそく屋台を指差した。
「お好み焼き食べたい!」
俺たちは食べ歩きしながら、祭りの雰囲気を楽しんでいた。
日も暮れて薄暗くなってくると、ランタンの明かりが美しい。中央広場では、軽快な音楽に合わせて踊っている人たちがいた。
俺はコリンに視線を向けた。
「踊りにいくか?」
すると、コリンが呆れた顔をした。
「こういうのは男女で踊るものでしょう? おれじゃなくてニコ先生を誘いなよ。夫婦なんだから。おれはここで見ていてあげるからいっておいで」
それに大人組はおかしそうに笑い、俺はニコエラに手を差し出した。
「じゃあ、ニコさん、ご一曲いかがですか?」
「よろこんで」
ニコエラは俺の手を取り、俺たちは踊っている人たちの輪に加わった。隣ではリチャードさんとマーガレットさんも踊っている。
俺とニコエラは向かい合い、踊っていた。ニコエラは楽しそうで、俺もその笑顔につられて笑顔を浮かべた。すると、ニコエラがコリンに手招きした。コリンは首を横に傾げながら、少し気恥ずかしそうにこちらに向かってきた。
「なに?」
「コリンも一緒に踊ろう」
「えー? おれはいいよ」
「いいから、いいから」
ニコエラはコリンの手を取り、一緒に踊りはじめた。すると、コリンは空いていた片手で俺の手を取った。さらにニコエラが俺の片手を取るものだから、三人は丸くなり、ゆっくりと回りながら体を揺らした。
「ほら、三人の方が楽しい」
ニコエラはそう言って微笑んだので、俺とコリンは顔を見合わせて笑った後、うなずいた。それを見ていたリチャードさんが俺たちに手を差し伸べたので、コリンは俺から手を放し、リチャードさんの手を取った。すると、その輪はどんどんと広がり、最終的には踊っていた人たち全員が手を繋いで、くるくると回りはじめた。
曲が終わるタイミングで全員手を上げると、歓声が上がった。
こうして、夏祭りの夜は更けていった。
翌日。
リチャードさんとマーガレットさんにお礼を言って、俺たちはアンカースをあとにした。
もうすぐ長かった夏休みも終わりを告げる。俺は隣にいるコリンに問いかけた。
「夏休みは満喫できたか?」
「うん! 楽しかった!」
コリンは満足そうにうなずいた。
家に着いた俺たちは、窓から入ってくる夜風を感じながら、寝る前のリラックスタイムを過ごしていた。すると、一匹のカラスが開いていた窓から入ってきて、ニコエラの前に止まった。俺はそれがニコエラの眷属だと知っている。何を知らせにきたのかと、俺は気になってしょうがなかった。
「あ、ニコ先生の友達のカラス」
コリンがそう言うと、カラスは一瞬だけコリンを見た後、ニコエラに向かって鳴き出した。それを聞いていたニコエラの表情が険しくなる。
「わかった。ありがとう」
ニコエラがそう言うと、カラスはまた窓から飛んでいった。
「ニコ先生はすごいね。カラスと会話できるんだ」
「まぁな。それより、コリンはもう寝る時間だろう。部屋へいけ」
すると、コリンは口を尖らした。
「もう少し起きていたい」
「だめだ。おやすみ、コリン」
かたくななニコエラにコリンは小さくため息をついた。
「わかったよ。おやすみなさい」
コリンはそう言って、二階へ上がっていった。俺はそれを耳で確認してから、ニコエラに視線を向けた。
「カラスは何を知らせた?」
それにニコエラは机に肘をつき、額に手を当てた。
「私は魔族領に帰るよ」
俺はその一言に衝撃を受けて、言葉がすぐには出なかった。




