第23話 夏の日のこと①
俺は村でいいものを仕入れて、ほくほくしながら帰宅すると、家のリビングではニコエラがコリンに勉強を教えていた。そんな二人に俺はさっそく買ってきたものを披露した。
「海水浴に行こう!」
ニコエラとコリンがテーブルに広げられた水着と俺を交互に見た。コリンは茶色の瞳をきらきらとさせている。
「わーい! 海行きたい!」
ニコエラは水着を手に取った。ニコエラの水着は濃い緑色のスカートつきのビキニだ。
「これが水着か。はじめて見るな。これを着るのはちょっと恥ずかしいな……」
「海水浴は、はじめてか?」
それにニコエラはうなずいた。
「はじめてだ。泳いだことはない」
「おれもはじめて! アルおじさんは泳げるの?」
俺は自慢げにうなずいた。
「泳ぎは得意だ」
「おれにも教えて!」
俺は笑顔でコリンの頭を撫でた。
「いいぞ。厳しくいくからな」
「はい! 師匠!」
翌日。
燦燦と降り注ぐ太陽の中、俺たちは汗をかきながら海へ出かけた。浜辺にレジャーシートを敷いて、荷物を置き、服の下に着てきた水着姿になった。ニコエラも少し恥ずかしそうにしながらも水着姿を披露した。
「布の面積が小さすぎる。やっぱり恥ずかしいぞ」
そう言って、身をよじる姿は可愛らしい。俺はニコエラとコリンの手を引いて、海へ入っていった。波が押し寄せ、俺たちは笑いながらそれを受けた。
少しずつ深くなり、コリンが不安げに俺にしがみついてきたので、コリンの両手を取ってやると、コリンは笑いながら足をばたつかせた。
「顔を水につけられるか?」
コリンは言われた通り、顔を水につけて、すぐに顔を上げた。
「なかなかいいじゃないか。よし、見本を見せてやる」
俺はニコエラにコリンを預け、俺はクロールで泳ぎ出した。久しぶりに海で泳いだが、なかなかに気持ちがいい。少し沖まで行って、すぐにコリンのもとに戻った。
「すげー! アルおじさん」
俺は鼻高々に笑みを浮かべた。
「すごいだろう。ほら、また両手掴んでやるから、バタ足してみろ」
コリンはニコエラの手から離れ、俺の手を掴んだ。そして、足をばたつかせると、そのしぶきがきらきら飛び散っている。それがニコエラの顔に飛んだらしく、ニコエラは手でそのしぶきを遮るようにして笑った。
「おい、向きを考えろ。私に全部かかっているぞ」
俺とコリンはニコエラを振り返り、おかしそうに笑った。
午前中を海で過ごした俺たちは、帰路についていた。すると、向かいからジョンさんが荷馬車でやってきた。俺が手を上げると、ジョンさんは馬車を止めた。
「アルさんじゃないですか。海に行ってきたんですか?」
それにコリンが嬉しそうにうなずいた。
「海で泳いできたんだ!」
ジョンさんはコリンに笑みを浮かべた。
「夏らしくていいですね。そういえば、二十二日にアンカースで夏祭りがありますよ。ぜひ行ってみてはどうですか?」
「夏祭りかぁ」
俺がそう言うと、コリンが俺の腕にすがりついてきた。
「おれ、行ってみたい!」
「そうだな。せっかくだし、行ってみるか」
すると、コリンは笑顔で数回飛び跳ねた。
「やった!」
俺たちは夏祭りの前日にアンカースに到着した。夏祭りの準備がはじまっていて、至る所に装飾が施されている。その雰囲気を楽しみながら、街を歩いていた。
なぜ一日早く来たかというと、コリンの親戚に会おうと思ったからだ。連絡先がわからず、コリンの両親が亡くなったことをまだ伝えられていなかった。コリンは何度か来たことがあるらしく、家の場所ならわかるというので案内を任せた。
コリンは一軒の家の前で止まり、俺を振り返った。
「ここだよ。おじさんち」
俺はその家の扉をノックした。すると、ひとりの女性が出てきて、俺を見た後、横にいるコリンに気づいたようで、びっくりした顔をした。
「あら、コリン君じゃない。いったいどうしたの?」
「おばさん、おじさんいますか?」
「いるけど……。失礼ですが、あなたがたは?」
女性は俺とニコエラを見て、そう尋ねた。俺は会釈をして、答えた。
「今、コリンを預かっている者です。ご両親が亡くなりまして……」
それを聞いた女性は眉間に皺を寄せ、震える手をゆっくりと口元に当てた。
「マークとレベッカが亡くなった? ――どうぞお入りになって」
俺たちは女性について家に入っていく。リビングに行くと、男性が椅子に座っていた。
「誰だった?」
そう言って、男性が顔を上げると、女性と俺たちが一緒にいるのを見て、驚いた顔をしていた。男性が何か言う前に、女性が男性に言った。
「マークとレベッカが亡くなったらしいの。この方たちは、今、コリン君を預かってくれているそうよ」
男性は怪訝そうな顔をした。
「どういうことでしょうか? 何があったのか教えてください」
「秋ごろでしょうか。アンカースからの帰り道に魔獣に襲われて亡くなりました」
男性は額に手を当てて、脱力したように椅子の背にもたれた。
「あの帰りに……。それで、あなた方がコリンを預かってくださったのですね?」
「ええ。コリンの血縁の方の連絡先がわからなかったので、ご連絡が遅くなり、申し訳ございません」
俺が軽く頭を下げると、男性は弱々しく首を横に振った。
「いいえ。それよりも今までコリンを預かってくださっていたこと、心から感謝いたします。これ以上はご迷惑をおかけできません。コリンは俺の兄の子です。家で引き取りましょう」




