第21話 魔法都市②
翌日。
俺たちは宿屋の前でレイチェルと合流し、さっそく魔法都市を見て回ることにした。
「まずは魔塔を案内するわ」
それに俺は驚いて、レイチェルに尋ねた。
「魔塔に入れるのか?」
「特別にね。コリンのためにおもしろいもの用意しているわよ」
それにコリンが茶色の瞳を輝かせた。
「なになに?」
昨日一緒に食事をしたからか、コリンはすっかりレイチェルに懐いていた。レイチェルはにこりと笑って言った。
「ついてからのお楽しみよ」
魔塔は魔法都市の中央にあり、塔というよりは城のようだった。警備兵はレイチェルに敬礼し、レイチェルは軽く手を上げて返した。
「ごくろうさま」
そう言いながら、レイチェルは魔塔の門をくぐっていく。玄関の門を開け、ホールの床には魔方陣が描かれていた。その中心にレイチェルは立った。
「みんなも魔方陣の上に乗って」
レイチェルに言われた通りに、俺たちが魔方陣の上に乗ると、白く光り、次の瞬間には広い部屋にいた。そこにはひとりの男性が立っていた。茶髪で、すこしおどおどとした感じの男性だった。
レイチェルはにこやかに男性に言った。
「アンリ、忙しいところ悪いわね。あなたの研究の成果、この人たちに見せてあげて」
「はい、レイチェル様。それじゃあ、部屋の真ん中に立ってください」
アンリと呼ばれた男性は俺たちと目線を合わせようとはせず、俯きがちにそう言った。俺たちは言われた通りに、部屋の真ん中へと立った。
「これでいいのか?」
「はい。いきますよ。――フライ」
アンリが呪文を唱えると、俺たちの体がふわりと浮いた。俺は驚き、思わず声を上げた。
「うわぁ……、浮いている?」
その隣でニコエラは真剣な顔で言った。
「浮遊魔法か。興味深い」
コリンは笑いながら空中で泳ぐようにしてみたり、くるんと回ったりと楽しそうにしている。しばらくすると、すとんと地面に下りた。
「すみません、まだあまり長くはできなくて……」
コリンは興奮したように体を上下させている。
「すごい、すごい! おれ、飛んでいた!」
ニコエラは真剣な表情でアンリに近づいた。
「ぜひ詳しく教えてほしい」
ニコエラの勢いにアンリは腰が引けている。
「原理はその、まだ明かせません。研究途中なもので……。すみません」
「少しだけでいいんだ。ちょっとだけ」
俺はアンリに迫るニコエラの首の後ろの服を引っ張った。
「やめてやれ。怯えているじゃないか」
ニコエラはわずかに俺を振り返り、悲しげにうなだれた。俺はにこやかにアンリに声をかけた。
「ありがとう。とても素晴らしかったよ」
アンリは照れくさそうにしながらもじもじとしている。レイチェルがその横で言った。
「アンリも言った通り、研究段階だから口外しないでね」
「えー! 友達に自慢しようと思っていたのに……」
残念そうにそう言うコリンの頭をレイチェルは撫でた。
「ごめんね」
コリンはゆっくりと首を横に振った。
それから俺たちは魔塔から出て、昼食を取り、今度は大通りを見て回ることにした。ニコエラは紫の瞳を輝かせていた。
「魔道具店がたくさんあるな!」
「ニコは魔道具店巡りをするといい。その間に俺とコリンはお土産を買おう。友達に買うんだろ?」
俺はそう提案すると、コリンは俺の手を掴んだ。
「うん! おれはあまり魔道具には興味ないや」
「なら、お言葉に甘えて、私は魔道具店を見てくる!」
そう言って俺たちに背を向けたニコエラに、俺は声をかけた。
「二時間後に宿屋で落ち合おう」
ニコエラはわずかに振り返り、それに手を上げて答えた。
俺たちは歩き出し、レイチェルが道の先を指差した。
「お土産なら、この先にある店がおすすめよ」
レイチェルが俺たちを案内するように歩き出した。俺とコリンはそれに続いてついていく。
「そこのお兄さん」
俺は思わず足を止め、呼び止めた人を見た。小さな机に大きな水晶を置き、椅子に座った小さなおばあさんだった。ローブのフードを深くかぶっている。しゃがれた声は不思議とよく耳についた。
「俺か?」
おばあさんはうなずき、水晶に手をかざすと淡く光った。
「この国を守ったお前さんにお礼としてひとつ助言をしよう。――これから先、二つの選択を迫られるときがくる。どちらを選択したとしても人生は大きく変わる。己の心に従いなさい。お前さんのいちばん大切なものはなにかをよく考えるといい」
「アルー! いくわよ!」
レイチェルの俺を呼ぶ声がして、俺はレイチェルをはっと見た。コリンと一緒に少し離れたところで待っている。
「ああ。今、いく」
俺はもう一度おばあさんを見て、軽く会釈をしてからレイチェルのもとへと足早に向かった。
レイチェルは歩き出し、苦笑を浮かべた。
「アルって占いとか興味なさそうなのに、気になったの?」
「いや、普段は興味ないんだが……」
――あんな風に予言みたいに言わるとな……。
俺はぽりぽりと頭をかいた。
お土産屋について、俺とコリンは商品を見て回っていると、コリンがキーホルダーのコーナーで足を止めた。手に取ったのはなんとも渋い『魔法都市』と文字が入ったキーホルダーだった。俺はその近くにあった可愛らしい杖のモチーフのキーホルダーをコリンに見せる。
「これとかどうだ? 女の子が好きそうじゃないか? なぁ、レイチェル」
後ろから様子をうかがっていたレイチェルもうなずいた。
「アルが持っているのは可愛らしくていいと思うわ」
「そっかぁ。これも結構かっこいいと思うけど……。でも、アルおじさんとレイチェルお姉さんがそう言うなら、そっちにしようかな」
それからお菓子コーナーへと回り、コリンがクッキーの箱を手に取った。
「これも買う」
そう言って、俺が持っているかごに二箱入れた。
――学校で配る用と、家で食べる用かな?
俺はそう考えて、特に何も尋ねることなく受け入れた。それからしばらくお土産屋を回り、俺はいつもお世話になっている村長におまんじゅうを買って帰ることにした。賞味期限が気になり、近くにいた店員に尋ねた。
「お菓子類はいつまで持つだろうか?」
「ご心配には及びません。保存魔法がかけてありますから、半年は持ちますよ」
それを聞いて、俺はほっとした。
「さすが魔法都市だな」
「魔法都市じゃなくても、お土産用の食料にはたいてい施されているわよ」
レイチェルが呆れたようにそう言ったので、俺が世間知らずだったのだと少し恥ずかしくなり、苦笑した。




