第20話 魔法都市①
「もうすぐ夏休みだな。どこか旅行でも行くか?」
夕食後のリラックスタイムで、俺はお茶を飲みながら言った。すると、ニコエラとコリンが瞳を輝かせた。
「いいな。旅行!」
「おれも行きたい!」
俺は二人に笑みを浮かべて、尋ねた。
「どこ行きたい?」
ニコエラは少し考えて答えた。
「魔法都市に行ってみたいな」
すると、コリンは隣に座るニコエラの腕を掴んだ。
「闘技場はどう?」
それに俺はうなずいた。
「魔法都市と闘技場か。闘技場に行くなら武闘大会の開催に合わせていきたいよな。冒険者ギルドに問い合わせてみたら、開催日がわかるかもしれないな」
ニコエラは頬杖をついて俺に尋ねた。
「アルはどこに行きたい?」
「温泉もいいなと思っていた」
ニコエラはそれを聞いて微笑んだ。
「うん。温泉もいいな」
「闘技場! 闘技場!」
コリンはニコエラをゆさゆさと揺すった。ニコエラはコリンの肩を抱いて、それを止めた。
「みんな行きたい場所が違うな。どうする?」
ニコエラが苦笑しながらそう言うので、俺は少し考えてから答えた。
「なら、平等にじゃんけんにしよう。ニコは魔法都市、コリンは闘技場、俺は温泉」
ニコエラとコリンがその提案にうなずいたので、さっそくじゃんけんをした。すると、ニコエラのひとり勝ちで、ニコエラは嬉しそうに両手を上げた。負けて涙目でうなだれているコリンに俺は声をかけた。
「たしか春の大会には子供の部があったはずだぞ。そっちの方がコリンはいいんじゃないか?」
コリンの表情は明るくなり、テーブルに身を乗り出した。
「春の大会、連れてってくれるの?」
「日程が合えばな」
コリンはそれで満足したようで、ニコエラを見上げた。
「魔法都市ってなにがあるの?」
「人類の魔法の英知があるぞ。魔塔も魔法都市にあったはずだ」
「そうだな。魔塔といえばレイチェルだ。ちょっと待っていろ」
俺は二階の自室に上がり、ノートと羽ペンとインクを持ってリビングに戻った。テーブルにノートを広げ、そこに文字を書いた。
『レイチェル、こんばんは』
すると、その下の行に文字がひとりでに書かれていく。
『あら、アル。このノートを使うのは、はじめてじゃない。なにかあった?』
レイチェルからの返信だった。それを見ていたニコエラが驚いた顔で俺を見た。
「この魔道具、すごいな!」
「ああ。以前、レイチェルからもらっていたんだ」
俺はレイチェルの返信の下の行にさらに返信を書いた。
『夏休みに魔法都市に行こうと思っている。おすすめの場所はあるか? 子供もいるから、子供が楽しめるところだと嬉しい』
『え? 子供? いつの間に?』
その返信に俺は苦笑しながら、事情を説明した。
『そういえば、言っていなかったか。魔獣に両親を殺された子供を引き取った。十歳の男の子だ』
『あー、驚いた。魔法都市に来るなら、あたしが案内してあげるわ。宿も手配しておいてあげる。来る日を教えて』
『わかった。詳細が決まったら、また連絡する』
そう書いて、俺はノートを閉じた。そして、俺たちは顔を見合わせ、俺は笑みを浮かべて言った。
「夏休みは魔法都市への旅行に決定だ!」
「おー!」
ニコエラとコリンは笑顔で声を揃えて言った。
夏休みに入り、俺たちはさっそく魔法都市に向かった。魔法都市へは一週間ほどの旅である。コリンもいるので、今回は乗合馬車を使って向かった。長旅が初めてのコリンは楽しげに馬車からの景色を楽しんでいた。
魔法都市は大きな街だった。やはり魔法使いの姿が多く、剣を持った俺は、場違いのような気がしてならない。
レイチェルとは西門で待ち合わせしていたが、人通りが多く、見つけられるか心配だった。しかし、それは杞憂でレイチェルが先に俺たちを見つけてくれた。レイチェルは手を振りながらこちらに向かって歩いてくる。
「ようこそ、魔法都市へ」
「この人の多さの中、よく俺たちを見つけられたな」
「アルは目立つもの。この子がコリンね。はじめまして、レイチェルよ」
レイチェルがコリンにそう挨拶すると、コリンは少し恥ずかしそうにニコエラの手を掴みながらお辞儀をした。
「コリンです。よろしくお願いします」
ちゃんとできたコリンを褒めるようにニコエラはコリンの頭を撫でた。それから、ニコエラはレイチェルに視線を向けた。
「レイチェル、今回はよろしく頼む」
「任せてちょうだい。さぁ、今日はもう夕方になるから、先に宿屋に案内するわ」
そうして、レイチェルは俺たちを連れて宿屋へと向かった。到着した宿屋は辺りでも一番立派な宿屋で、俺は驚いてレイチェルを見た。
「こんな立派な宿屋、高いんじゃないか?」
「安心して。魔塔と契約している宿屋だから、特別料金で泊まれるわ」
レイチェルはそう言って、チェックインの手続きをしてくれた。案内された部屋も綺麗で、コリンは嬉しそうに部屋の中を見て回った。
俺は荷物を置きながら、部屋を眺めていると、レイチェルはさらに言った。
「温泉ではないけど、大浴場もあるわよ。ゆっくり旅の疲れを癒してちょうだい。さぁ、夕食を食べに行きましょう。近くに美味しいお店があるのよ」
レイチェルと共に夕食を食べ、大浴場でゆっくりと入浴した俺たちは、部屋でのんびりとしていた。コリンは疲れていたのかすでに夢の中である。ニコエラもうとうととしているようだ。
「明かりを消すよ」
「ありがとう。おやすみ、アル」
俺はランプの明かりを消して、布団にもぐった。




