第17話 作戦開始
その日の夜。
決行前に、俺たちはビールを飲みながら話していた。
「抜け道だとニコは言っていたが、安全なのか?」
「ああ。前回の戦いのとき、アルたちはあの道を使わなかっただろう? 魔王軍側も警戒は薄いはずだ」
俺は納得し、うなずいた。
今度はレイチェルがニコエラに尋ねた。
「今の魔王を、ニコは知っている?」
「ああ。ダダーレンだ。前回の戦争のときは、あいつは前線には出なかったから、アルたちは知らないはずだ」
俺はビールを煽り、一息ついてから尋ねた。
「ダダーレンはどんなやつだ?」
「頭の切れるやつだ。前回の戦争では後方で戦略を練っていた。私と同じ魔法での戦いが得意だな」
今度はフランクが尋ねた。
「……ニコとダダーレン、どっちが強い?」
ニコエラの紫の瞳が怪しく光り、口元に笑みを浮かべた。
「私の方が強い」
それにエレンが息を呑み、フランクは黙った。
レイチェルが小さく息をはき、聞きづらそうに尋ねた。
「……なぜニコは追放されたの?」
「もともと私に相反する勢力があった。お前たちに倒され、弱っていたところを突かれた。あのときは、ただ逃げおおせるしかなかったが、今の私は万全だ」
俺は苦笑しながら、肘をついた。
「大した自信だな」
「ああ。私は魔王として百年余り、この地を治めていた」
俺は今まで触れてこなかった核心を、今ここで尋ねることにした。
「……なぜニコは戦争をはじめた?」
ニコエラは紫色の瞳を俺に向けた。その瞳は揺れていた。
「……私が不甲斐ないばかりに戦争推進派を抑えきることができなかった。私を追放したのもダダーレンたち、戦争推進派だ」
レイチェルが首を横に傾げた。
「なぜ戦争をしたのに、戦争推進派に追放されるの?」
「私が人間との戦争を先延ばしにしたせいで、魔族が負けた。それがダダーレンたちの主張だ」
その場はしんと静まり返った。俺はぽつりと言った。
「ニコは戦争をしたくなかったのか?」
「ああ。私は、魔族は魔族、人間は人間で領地を分けて生活すればいいと思っていた。だが、最終的に戦争推進派に押され、戦争をはじめたのはこの私だ。その責任は取らねばならない」
ニコエラは膝の上で強く拳を握り、そう言い切った。俺は隣に座るニコエラの手に触れ、優しく拳をほどいた。
「……ニコは最後まで魔王として責任をとったじゃないか。俺たちに倒されたことで、お前の責任は果たされた。そして、今は共にダダーレンを倒すべくここにいる」
そう言った俺の顔をニコエラは涙を流しながら見上げた。
「……ああ。共に戦おう」
翌朝は日が昇る前に行動を開始した。月明かりもない真っ暗な中を俺たちは闇に紛れるようにして抜け道へと向かった。森の中の地元の人しか使わないような細い道に出て、そこを俺たちはニコエラの先導で進んでいく。時折、獣や魔獣に出くわしながらも、魔王軍と思われる姿はなく、ニコエラの策は当たったようだ。
この日は野営をしながら、エレンが作ったスープで食事をとった。
俺はニコエラに尋ねた。
「今はどの辺りだ?」
「魔王軍の陣営は越えたと思う。少し遠回りの道だから、魔王城まではあと三日はかかるだろうな」
その日は交代で寝ずの番を置き、休むことにした。
それからも順調に進み、俺たちは少し気が緩みはじめていた。魔王城まではあと一日半くらいというときだった。ニコエラがふと立ち止まり、辺りを見回した。
「ようやく来たか……」
俺ははっとニコエラを見た。すると、辺りが揺らいで、異空間に転移させられたようだ。
「どういうことだ? ニコ、これは……」
ニコエラはにやりと俺に笑みを向けた、その顔は魔王のときの彼女だった。




