第16話 勇者パーティ
俺たちはコーネル王国と魔族領の国境沿いにあるクラウ村にきた。前回の魔王討伐の際もこの村が前衛基地として機能していた。今回も同様のようだ。
村に入ると、王立騎士団の鎧を着た若い兵士が、俺たちを騎士団長であるクライブがいる村長の家に連れてきてくれた。
「勇者アルバート殿、レイチェル殿が到着されました」
リビングで地図を眺め、数人の騎士たちと話し合いをしていたクライブがこちらに視線を向けた。
「こんな形で再会するとはな。残念だ」
俺はうなずきながら、クライブの横に並んだ。
「それで戦況は?」
「こちらが有利だ。魔王軍に前回のような勢いはない。――それでそちらの方は?」
クライブが視線を向けているのはニコエラだった。ローブのフードを深くかぶり、顔はわずかにしか見えない。
「今回、勇者パーティに参加してくれることになったニコだ。Sランクの魔法使いで、俺の連れだから安心していい。――それで、今回もエレンとフランクは参戦しているのか?」
「ああ。今は前線で戦ってくれている。呼び戻そう」
俺はうなずき、クライブにさらに尋ねた。
「二人と再会するとき、どこか空き家を借りられないか? 五人だけで話したい」
「わかった。用意しよう」
村の空き家に案内された俺とニコエラ、レイチェルは、リビングの椅子に座って、エレンとフランクを待っていた。
玄関から入ってきたフランクを俺は立ち上がり、出迎えた。
「久しぶりだな、フランク」
「おう、相棒」
エレンはというと、玄関で立ち止まり、こちらを凝視している。視線はニコエラに向いていた。
「……なぜ、魔王がここにいるんですか?」
俺はそれに驚き、エレンに言った。
「よくわかったな」
「気配でわかりますよ。あれほどの恐怖は、今でも忘れません」
ニコエラはゆっくりとフードをとり、微笑んだ。
「さすがだな。勇者パーティのヒーラーは優秀だ」
フランクも臨戦態勢になり、ニコエラを警戒している。俺は慌てて間に入った。
「待て、待て。今回は仲間だ」
それにエレンとフランクは混乱したようで、二人は顔を見合わせた。そのとき、レイチェルが吹き出した。
「この反応、期待以上だよ。二人とも」
フランクはレイチェルに戸惑った視線を向けた。
「レイチェルは知っていたのか?」
レイチェルは涙を拭きながら、うなずいた。
「一年くらい前にね、あたしはすでに二人に会っている。今、二人は一緒に暮らしているのよ」
エレンとフランクは、驚いた顔で俺を見た。俺は苦笑しながら頭をかいた。
「そうなんだ。彼女はニコエラ」
それを聞いたフランクは目を丸くした。
「『彼女』だと……? 魔王は女だったのか……!」
エレンとレイチェルが顔を見合わせた。エレンはうなずき、レイチェルは首を横に傾げた。
「女だったでしょう。気づかなかったの?」
今度、顔を見合わせたのは俺とフランクだった。気づいていなかったのは俺たちだけだったらしい。わずかに不機嫌そうな顔つきになっているニコエラに気づき、俺は慌てて話題を変えた。
「まぁ、ニコは今回、こちら側についてくれている。このパーティに入れるから、エレンとフランクも仲良く頼むよ」
フランクはニコエラに視線を向けた。
「なぜ元魔王がこちら側につくんだ? 魔族を裏切るのか?」
ニコエラは紫色の瞳をフランクに向けた。その瞳はとても冷たかった。
「私はお前たちに倒されたその日に追放された。そして、今はコーネル王国でアルと共に暮らしている。大事なものを守る。ただそれだけだ」
「……そうか。理解した。野暮なことを聞いたな。よろしく頼む」
フランクはニコエラに手を差し出し、二人は握手した。
俺は四人の顔を眺めた。
「ニコのことは周囲を混乱させたくないので、ここだけの話にしておいてくれ。――それでこれからだが……」
「私に策がある。騎士団長殿もいる場で話したい。それに騎士団長殿は、私の正体を知っておくべきだと思う。これから対峙するのは魔王軍だ。どこから私の正体がばれるかわからない」
ニコエラが軽く手を上げながらそう言ったので、俺はうなずいた。
俺たちはクライブのもとに戻り、人払いを頼んで六人だけになった。地図を置いたテーブルを囲むように立っている。ニコエラは地図を指差した。
「この地図にはないが、この辺りに抜け道がある。私たちはそこから魔王城を目指すのはどうだろうか?」
クライブは腕を組み、ニコエラに視線を向けた。
「貴殿は随分と魔族領に詳しいようだが……」
ニコエラは顔を上げ、フードをとり、クライブを見た。
「私は前回、君たちに討たれた魔王だよ」
その一言にクライブは目を見開き、剣に手を添えた。
「どういうことだ。説明しろ、アルバート!」
俺は苦笑しながら、手を上げた。
「まぁ、わけあって、今は一緒に暮らしている同居人だ」
「それじゃあ、わからん!」
クライブの剣幕に押され、俺は真剣な顔つきになった。
「今は敵じゃない。ニコは俺たちに倒された後、魔族から追放されている。――ニコの言い方も誤解を招くじゃないか」
ニコエラは小さくなりながら、謝った。
「すまん。ニコエラだ。よろしく頼む」
その様子に毒気を抜かれたクライブは剣から手を離し、頭に手をやった。
「こちらこそ頭に血が上ってしまったようだ。騎士団長をしているクライブだ」
俺は一触即発の空気が解かれ、ほっと息をついた。クライブはニコエラを見ながら言った。
「元魔王がこちら側についてくれるのはありがたい。だが、すまないが、本当に信用できるのか……?」
これが正しい反応だろうと思いながら、俺はうなずいた。
「一年一緒に生活をしていた。俺は彼女を信用している。なにかあれば俺が責任を取ろう」
「なぜそのようなことになったんだ?」
クライブの言葉に、全員の視線が俺に集まった。俺が口を開く前に、ニコエラが口を開いた。
「追放され、ぼろぼろになり、途方に暮れていた私に、アルは一緒に暮らそうと手を差し伸べてくれたんだ」
ニコエラはそう言って、俺に視線を向けた。その紫の瞳は暖かかった。
フランクは苦笑しながら腕を組んだ。
「アルバートの博愛精神もここまでくると、尊敬に値するな。死闘を繰り広げた相手と一緒に暮らそうだなんて……」
俺はそれに苦笑した。
「俺も当時は仕事が見つからず、ひとり途方に暮れていた。同じ境遇で、なんだか放っておけなかったんだ」
クライブはそれを聞いて、申し訳なさそうな顔をした。
「そうだったのか……。すまないな、王立騎士団に入団を希望してくれたあのとき、他の仕事を斡旋するべきだった」
俺はそれに手を振って答えた。
「ニコと一緒に暮らしている今が気に入っている。あれでよかったんだ。――さぁ、話を戻そう。ニコの案、俺はいいと思うが、みんなはどうだろうか?」
クライブ、レイチェル、フランク、エレンはうなずいた。
クライブは地図に目を落とした。
「ニコさんの案は、うまくいけば早期に戦争を終わらせることができる。実行は勇者パーティに任せたい」
レイチェルもうなずき、ニコエラを見た。
「道案内は任せていい?」
ニコエラは力強くうなずいた。




