第13話 バーベキュー大会
俺はこの日ものんびりと散歩がてら村の周りを見て回っていた。春の陽気で気持ちがいい。ふと俺は思い立ち、帰路についた。
ニコエラとコリンが学校から帰ってきて、俺はすぐにアイディアを二人に話した。
「今度の休みはピクニックをしないか?」
コリンは茶色の瞳を輝かせ、うなずいた。
「行きたい!」
ニコエラも笑みを浮かべてうなずいた。
「最近、暖かくなってきたし、いい提案だ」
そう決まり、週末に向けて俺は計画をはじめた。
――行き先は、森の奥の原っぱにしよう。きっと桜が見ごろだろう。
納屋にあったレジャーシートを取り出し、広げてみた。この大きさなら三人で広々と使えそうだ。軽く洗って、外に干しておいた。
翌日。
ニコエラと帰宅したコリンは、すぐさま俺のところにやってきて腕を掴んできた。
「ねぇ、学校の友達もピクニックに連れていってよ、アルおじさん」
俺はびっくりして目を丸くした。
「なんだ急に……。学校で話したのか?」
コリンは勢いよくうなずいた。
「村の外には獣や魔獣がいるから、みんなの家はなかなか出かけられないんだ。アルおじさんとニコ先生が一緒なら問題ないだろう?」
俺はニコエラに視線を向けると、ニコエラも初耳だったようで困ったような顔をしていた。ニコエラはコリンの肩に手を置いた。
「気持ちはわかるが、学校行事とは違うんだ。それに、友達のご両親にも許可を取らないと……」
コリンは首を横に傾げた。
「みんなの父さんや母さんがいいよって言ったら、いいの?」
俺は少し悩んでからコリンに言った。
「……しかたがない。連れていってやるか」
コリンは嬉しそうに両手を上げてぴょんぴょんと飛び跳ねた。俺はコリンの頭に手を置いてそれを止めた。
「ただし、俺とニコの言うことはちゃんと聞くこと。ご両親に話して、許可をもらった子だけ連れていってやる」
コリンは真剣なまなざしでうなずいた。
それから、俺は顎に手をやり、考えながら話した。
「それから、行き先は海でバーベキューにしよう。森は冬眠明けの熊が出るから、コリンだけならともかく、他の子供たちを連れていくのは危険だ」
ニコエラはそれを聞いてうなずいた。
「遠足で森には行ったからな。海はいいんじゃないか?」
こうして、コリンの友達も連れて、少し季節外れだが、海でバーベキューに変更になった。
当日。
村の広場で待ち合わせていたので、材料を乗せた台車を引いて、ニコエラとコリンと一緒に向かった。すると、広場には、なぜか村中の人たちが集まっていた。村長がにこやかな笑みを俺に向けた。
「アルさん、バーベキュー大会を企画してくれて、ありがとうございます」
俺は首を横に傾げた。
「バーベキュー大会……?」
村長も首を横に傾げた。
「子供たちが村でそう触れ回っていたので、ぜひ参加させていただこうと思いまして……」
ひとりの男性もうなずいた
「Sランクのアルさんとニコさんが一緒なら安心だ」
その男性は学校で一番年長のスーザンの父親のようで、隣にいるスーザンも嬉しそうにうなずいている。
俺はいつの間にか大きくなっていた話に驚き、乾いた笑みを浮かべた。台車にはここにいる全員分の材料までは積んでいない。しかし、よく見ると、それぞれ材料を持ち寄っているようで、材料が積まれた荷台が三台あった。
俺は一度目を瞑り、観念した。
「……それじゃあ、海に向かいますか」
村人総出で、俺たちは海に向かって歩き出した。
海は森の街道を抜けた先にある。村から歩いて三十分くらいだろうか。
暖かくなってきたとはいえ、海風はまだほんのりと冷たい。海面は陽の光を受けてきらきらと輝いていた。
レジャーシートを敷くと、女性陣はそこでバーベキューの材料を串にさす作業をはじめた。男性陣は子供たちと浜辺で遊びまわっている。
俺はレジャーシートの脇で、火おこしをはじめた。すると、女性陣の話し声が聞こえてきた。子供たちの今後について話しているようだ。
ひとりの女性が尋ねた。
「スーザンは来年の春に村の学校は卒業でしょう? アンカースの高等学校に進学させるの?」
それにスーザンの母親だろう女性が答えた。
「本人はそうしたいようだけど、学費がね……。奨学金がもらえればいいのだけど」
今度はアンナ先生が言った。
「スーザンは勉強ができますし、受験させてみてはどうかしら? 奨学金の申請などお手伝いさせていただきますよ」
それにスーザンの母親はほっとしたような笑みを浮かべた。
「以前、アンカースの高等学校に務めてらしたアンナ先生がそうおっしゃるのなら、主人ともう少し前向きに相談してみようかしら……」
その会話にニコエラは真剣な表情で参加していた。
「村の学校を卒業したら、アンカースの高等学校に進学するのもなのか……」
アンナ先生はニコエラに視線を向けた。
「全員というわけではないのよ。優秀な子はね」
ニコエラは納得したように何度かうなずいた。
「じゃあ、コリンには関係のない話だな」
それに女性陣はおかしそうに笑い、アンナ先生は困った顔をした。
「コリンはねぇ、ムードメーカーでいい子なんだけど、もう少し勉強を頑張ってほしいものね……」
アンナ先生の呟きから、コリンの成績が芳しくないことを、俺ははじめて知ったのだった。
ニコエラが皿に盛った串を俺に渡してきた。俺はそれを受け取り、網に置いていく。
離れたところではコリンとクリスと父親たちが楽しそうにボールで遊んでいた。女の子たちは貝殻集めをしているようだ。
――平和だなぁ。予想外の展開だったが、にぎやかなのも悪くない。
いい感じに焼けてきたので、俺は子供たちに声をかけた。
「焼けたぞー!」
子供たちがこちらに駆けてきた。その後ろから父親たちもやってくる。まずは子供たちに配り、余った分を大人に配った。まだまだ足りないので、俺はどんどんと焼いていく。
コリンは肉を頬張りながら、俺の隣に座った。
「あまり火に近づくなよ。火傷したら大変だ」
コリンはうなずき、俺に串を差し出した。俺は一番上のピーマンを口に含んですぐに気づいた。
「……野菜もちゃんと食えよ」
「ちっ、ばれたか」
コリンはにやりと笑った。
火を取り囲み、立っている男性のひとりが言った。
「今までこういう機会はありませんでしたから、今後も定期的にやれたらいいですね」
それに他の男性陣たちもうなずく。
「子供たちが楽しそうでなによりです。アルさん、ぜひ次回も頼みます」
俺は串を返しながら、うなずいた。
「そうですね。定期的にやりましょうか。バーベキュー大会」
「そうしましょう。それに、よかったら今度、アルさんも村の酒盛りに参加してくださいよ」
「ぜひ参加させてください」
すると、ひとりの男性が俺にこっそりと言った。
「たまには奥さんの愚痴も言わないと」
それにレジャーシートで串を作っていた女性から声が飛んできた。
「あんた、あたしの愚痴があるのかい? 今すぐここで言ってみな!」
「ああ、聞こえていたか。ないない、ないですよ」
焦ってそう答えた男性に、みんな大きな声で笑った。
家に帰ると、ニコエラがお茶を入れてくれて、俺はほっと息をついた。
「予想外な一日だったが、楽しかったな」
ニコエラとコリンもうなずき、コリンは俺に言った。
「アルおじさん、今日はありがとう。みんな楽しそうだった」
ニコエラは隣に座るコリンの頭に手を置いた。
「よかったな。――それより、お前はスーザンを見習って、もっと勉強しないといけないぞ」
コリンは苦い顔をして、口をへの字に曲げた。
「おれは将来、アルおじさんみたいにSランクの冒険者になるんだ」
はじめて聞いたコリンの将来の夢が、俺を目指すものでなんとなくこそばゆい。俺は照れ隠しに言った。
「なら、もっと剣の稽古をつけないとな」
「おれ、なれるかな?」
俺は顎に手をやり、考えてから答えた。
「Sランクは誰でもなれるものではない。コリンの努力次第だな」
「おれ、がんばるよ!」
「おう。がんばれ」
俺がコリンの頭をくしゃくしゃに撫でてやると、コリンは嬉しそうな顔で俺の手を掴んだ。
こんな平和な日常がこれからも続けばいいと、俺は心の底から願っていた。




