第7話 さよなら、ダディ(イラストあり)
ブラーナの強い希望で、最後の夕食は二人で作って一緒に食べた。
そして彼の、船まで送るという言葉に甘え、ララは停船してある場所まで一緒に歩く。
ララの宇宙船を初めて見たブラーナは
「綺麗だな」
と呟いた。
「はい」
ブラーナと一緒に船を見つめて、ララは頷いた。白銀に輝く船は、どこか女性らしい優美さがあり、月明かりの中でも美しい。
そして握手を交わし手を振ると、ララは船に乗り込み、宇宙へと飛び立った。
「さよなら、ダディ」
あっという間に小さくなるブラーナへ別れを告げ、通信端末でロジャーを呼び出した。
「お疲れさん。やりきったね?」
「はい……。三年後に、予約も入れて下さいました」
「それはすごい」
「マミは、ブラーナさんに会わなくてよかったの?」
消えたままのモニターに問いかけると、マミがふっと現れる。
「マミのこと、綺麗だって」
聞こえてたはずだけどね。
マミは紫色の目をふせ、悲しげに笑う。
「彼の姿を見ることができただけで十分。満足よ」
「何度も言うが、ルーカスは今の君の姿を見ても気にしないと思うよ」
ロジャーが言うと、マミはふるふると首を振る。
「女心は複雑すぎて、僕にはさっぱりだ」
肩をすくめたロジャーがララに同意を求めたので、ララは隠し持っていたカボションをロジャーに見せた。
「ララ!」
咎めるようなマミの言葉は無視する。
実はさっきマミの目であるカボションをそらし、わざと黙ってブラーナの銀河をとった。そしてその代わりにメモを入れてきたのだ。
『銀河は正当な持ち主のもとへ』
と。
意味は通じただろうか? これはマミに内緒でロジャーと決めた計画だった。
十二年前、魂が体を離れて間もないマリィは、娘の魂を抱きながら何かに惹かれるように宇宙を漂っていた。その時この船に出会い、なぜか船に一人残され、魂が離れたばかりの赤ん坊の中に娘の魂が入ると、赤ん坊は息を吹き返してしまったのだ。
マリィは焦った。
このままでは生き返ったばかりの赤ちゃんが、また死んでしまう!
どうにかしようと奮闘していたら、なぜか宇宙船と同化してしまい、弟のロジャーに助けを求めた。
『ロジャー、私よ。マリィよ。助けて!』
と。
変わり果てた姉の姿をあっさり受け入れるあたり、ロジャーもただものではないと言えるだろう。
発明家であるロジャーは、マリィに自分以外の前に出てはいけないとクギをさしったうえで、ララの後見となるべく素早く行動した。それと同時に、マリィの魂をせめて人型に移そうとあらゆる方法を試みた。だが天才と言われる彼でも、それはどうやってもできないでいるのだ。
「マミ、これは私のものでしょ?」
「それはそうなんだけど」
血はつながってなくても、魂はブラーナの娘だ。だが、そんなことは証明のしようがない。同じように自分がマリィだなんて、信じてもらう自信はマリィにはなかった。
「ダディは気にしない気がするけどね」
あのメモを見たら、ララがブラーナの娘になったつもりで銀河を盗んだのかと悩むだろうか。それについては様子を見て、いずれロジャーから話す予定になっている。それは明日かもしれないし、もしかしたら話すことはないのかもしれないが。
「事実を知ったら、追いかけてきそうな気がする」
ボソッとララがそういうと、マミは血相を変えてオロオロしだした。そんなマミを見て、ララとロジャーは肩をすくめる。
「ま、先のことはわからないよ」
三日前は幽霊屋敷だった城が、美しく生まれ変わったみたいに。
遅くとも三年後。また会えることを楽しみにしておくね。
お父さん。
(イラストは管澤捻さまに描いていただきました)
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