四話 探り合い
私ならそう言うと思った、ですって?
嬉しそうに笑う王太子殿下の意図がわからず、私は思わず顔を歪めそうになる。
けれど、それは絶対にダメだ。相手は王太子殿下、不敬はゆるされない。
それに……これが『取引』だというのなら、腹の内を見せた方の負けだもの。
「殿下は、私のことをご存知だったのですか?」
「正確には、フォンテーヌ子爵家のことを、かな。君自身を見たのは今日が初めてだったけれど……婚約者に婚約破棄を告げられてあの立ち回り、素直に感心したよ」
「まぁ、ほかでもない殿下からそんなお言葉をいただけるなんて……大変光栄ですわ」
殿下の言葉を受けて、ふふ、と優雅に笑って見せる。
つまりこの方は、さっきのフェリクス様とのやり取りをみて私に声をかけた、ということか。
ただ、それだけでは納得ができない。私の家は新興貴族、しかも爵位だって決して高いとはいえない子爵家だ。そして当然、殿下だって私のことを好いているだとか、そういうわけではないことくらいわかる。
「殿下が婚約者をお探しになっていることは、よくわかりました。ですが、あなたほどの御方ならばいくらでも婚約者候補が他にいるのではないですか?」
私は笑顔を崩さないまま、質問を殿下に投げかける。
そう、この国において、アーノルド王太子殿下という存在を知らない年頃の令嬢はいない。
もちろんそれは王太子という立場もあるが……単純に、殿下はとんでもなく容姿が整っているのだ。
特に、全てを見透かすような深い紫の瞳は……王族の血を引くものだけに現れる特徴だ。
それに加え、甘い笑顔に柔らかな物腰、優秀な頭脳……この御方に憧れる令嬢は数多くいる。ちょっとお茶会に参加すれば、それくらいすぐにわかることだ。
その殿下が、この私と『取引』だなんて……一体何を考えているのだか。
「君は、私のことが余程信用できないようだね」
「まぁ、そんなこと……単純に、殿下ほどの人物がなぜ私のような小娘相手に『取引』を?と、疑問に思っただけですわ。先ほど申し上げましたように、私は子爵家の娘ですもの」
「あくまで白を切るか。そうだね、確かに私には既に新しい婚約者候補が内密に決められている。それでも君に声をかけた理由は……」
そう言って、殿下が声を潜める。それから表情を緩めて、内緒話をするように私へ囁きかけた。
「ヴィオレッタ・フォンテーヌ嬢。君に、一目惚れしたんだ」




