二話 新たな取引
「い、違約金!? それは、どういうことだ!?」
「あら、そのままの意味ですわ。真実の愛……素晴らしいですわね。ですが、それを理由とした婚約破棄は契約違反に当たりますので、違約金をいただきます」
「はぁ!?」
「お忘れですか? 私たち、結婚の際にあらかじめ『契約書』を作成して判を押したのですよ。そして、今回の婚約破棄はその契約内容に違反しておりますわ」
ヴィオレッタが笑顔で淡々と説明すると、フェリクスはサッと顔を青くした。
どうやら、今更契約書を交わしたことを思い出したらしい。
一方で、フェリクスに腰を抱かれたままのコルネリアは……先程の勝ち誇ったような笑みから一転して、困惑の表情を浮かべている。
「け、けど……これが契約書の内容に違反しているかなんて、そんなことわからないだろう!?」
フェリクスの足掻きに、ヴィオレッタは呆れたようにはぁ、とため息を吐いてから、大きく息を吸った。
「……『婚約に纏わる契約・第三条……相手方に帰責事由がないにもかかわらず、一方的な都合により婚約を解消した場合、婚約解消は本契約への違反とみなす。この場合、婚約を解消した当事者は、相手方に対し、別途定める違約金を支払う義務を負うものとする……」
一度もつっかえることなく、ノンブレスで契約内容を暗唱したヴィオレッタに、貴族たちは目を丸くする。
「う、うそだ! そんなの、今考えたデタラメだろう! 大体そんな契約文、全部覚えられるわけが……」
「嘘だと思うなら、今から契約書を持って来させましょうか?」
「う、ぐ……」
「反論がないなら、この話は終わりにしましょう。続きはまた後日……」
「……クソ……! 馬鹿にするのも大概にしろ!」
遂にフェリクスがなんの反論もできなくなったのか、そう言って拳を振り上げた瞬間……。
王族が着席している方向から、突如凛とした声が響き渡った。
「衛兵! 王女の記念すべき祝賀会を汚したフェリクス・オルレアンとコルネリア・フルールを摘み出せ!」
「なっ……! おい、お前ら何をする!? 俺を誰だと思っているんだ!?」
「わ、私はフェリクス様を愛しているだけなのにぃ!」
……フェリクスたちの抵抗も虚しく、訓練された衛兵たちによって、一瞬で彼らは外へ追い出された。
「少々騒ぎがあったようだが、此度のことは忘れ、今はエレノアの誕生した素晴らしい日を祝っていただけないだろうか」
そう言って、この場を収めたのは──この国の王太子である、アーノルド・ルイ・アルヴェリア王太子殿下だった。
貴族たちは、まだ少しそわそわしながらも、傍にいた者と歓談を始める。
ただ一人、ヴィオレッタ・フォンテーヌを除いて……。
そしてヴィオレッタは「残念だわ」と小さく口にしてから、会場を去ろうとした──その時だった。
「失礼。ヴィオレッタ嬢、少々話をさせていただいても?」
「……まぁ、王太子殿下からお声がけいただけるなんて光栄ですわ」
「世辞や挨拶はいい。さっきの反論、実に見事だった。そこで……だ。一つ取引をもちかけたい」
取引という単語に、ヴィオレッタの眉がピクリと動く。
王太子殿下は、その表情を見逃さず……ヴィオレッタの耳元に唇を寄せて囁いた。
「……ヴィオレッタ・フォンテーヌ。無事婚約が解消されたら、私の婚約者にならないか?」




