一話 婚約という商売
煌びやかなシャンデリア。
華やかなドレス。
優雅なオーケストラの演奏。
アルヴェリア王国の第一王女殿下が十二歳になったことを盛大に祝う、王家主催の夜会。
皆が可愛らしい王女殿下を祝っていた、そんな素晴らしいパーティー。
そんな中、一人の伯爵令息が会場の中央まで移動したかと思うと、突然大声を張り上げた。
「皆の衆、聞いてほしい!」
会場中の貴族たちが、眉をひそめて青年の方へ振り向く。
そんな視線などお構い無しに、その青年は言葉を続けた。
「ヴィオレッタ・フォンテーヌ! 君との婚約は、今日限りで破棄させてもらおう!」
それは、王女殿下の誕生を祝う祝賀会に水を差すような、衝撃的な発言であった。
青年の名は、フェリクス・オルレアン。代々続く名門貴族、オルレアン伯爵家の嫡男である。
皆がフェリクスの発言に耳を傾け、名を呼ばれた女性──ヴィオレッタ・フォンテーヌの姿を探す。
すると、ヴィオレッタは周囲の視線を一身に集めながら、フェリクスの真正面までカツカツとヒールを鳴らしながらゆっくりと歩いてきた。
会場中の誰もが、ヴィオレッタの発言に注目していた。
王家主催の夜会で婚約破棄の宣言など、大スキャンダルである。
噂好きの貴族たちが、放っておくわけがない。
そして、ヴィオレッタは手に持っていたワイングラスをウェイターに預けてから──ゆっくりと口を開いた。
「理由を伺っても?」
至極当然な疑問に対し、フェリクスはうっとりとした笑みを浮かべながら、隣に立っていた令嬢の腰を抱いた。
「簡単なことさ。僕は真実の愛を見つけたんだ。金と商売のことしか頭にない君と違って、コルネリアはいつも民のことを考えている心が美しい女性……。次期伯爵夫人には、コルネリアこそが相応しい!」
まるで大衆小説のような展開に、貴族たちはとうとうざわつき始めた。
彼らが注目していたのは、フェリクス……ではなく、衆人環視の中婚約破棄を告げられたヴィオレッタである。
彼女は、突然の婚約破棄に涙を流すのでは?
いいや、怒り出すかもしれない。
……そんな風に貴族たちがひそひそ話をする中、ヴィオレッタがパシン!と扇を収める。
会場中が、シン……と静まり返った。
そしてヴィオレッタは──泣くでも怒るでもなく、驚くことに美しく笑いながら……静かにこう告げたのである。
「その婚約破棄のお申し出、お受けいたします。……では、フェリクス様の有責でございますので、違約金を請求させていただいてもよろしくて?」




