第48話:自分だけの踊り
次の目標が見え始めた美咲は、以前よりも練習時間を大切にするようになっていた。
ただ長く踊ればいい。
何度も同じ振りを繰り返せば上達する。
そう思っていた頃とは違う。
今の美咲は、一つ一つの動きに理由を探していた。
なぜここで手を伸ばすのか。
なぜこの音で体を止めるのか。
振り付けの形だけではなく、その奥にあるものを考えるようになっていた。
けれど、考えれば考えるほど、新しい悩みも増えていった。
「分からない……」
鏡の前で動きを止め、美咲は小さくつぶやいた。
頭では理解しているつもりなのに、体で表現できない。
気持ちはあるのに、それを踊りに乗せる方法が見つからない。
初舞台の時に感じた悔しさとは、また違う悔しさだった。
以前は「もっと上手くなりたい」という気持ちだった。
今は「自分は何を伝えたいのか」という問いと向き合っていた。
そこへ玲奈が近づいてきた。
「悩んでる?」
美咲は少し笑って答えた。
「うん。前より難しくなった気がする」
玲奈は鏡を見る。
そこには二人の姿が映っていた。
「それって、前より見えるものが増えたってことじゃない?」
「見えるもの?」
「前はできるかできないかだけだった。でも今は、自分の踊りについて考えてる」
玲奈の言葉を聞き、美咲は黙った。
確かにそうだった。
悩みが増えたことは、悪いことではないのかもしれない。
前なら気づかなかった小さな違和感に、今は気づけるようになっている。
それだけでも、自分は少しずつ変わっている。
「玲奈は、どうやって自分の踊りを見つけたの?」
美咲が聞くと、玲奈は少し考えた。
「私も最初から分かってたわけじゃないよ」
「え?」
「何回も踊って、失敗して、自分に合うやり方を探しただけ」
その答えを聞いて、美咲は少し安心した。
玲奈も迷った時間がある。
今の姿だけを見ていたから、最初から特別だったように感じていた。
でも違った。
玲奈も積み重ねてきた一人だった。
その日の帰り道、美咲はいつもよりゆっくり歩いていた。
街の明かりを見ながら、次の舞台を想像する。
もしまたステージに立てるなら。
今度は前回より少しでも、自分らしい踊りをしたい。
そう思うと、胸の奥に小さな期待が生まれた。
家に帰ると、母がテレビを見ながら声をかけてきた。
「練習、どうだった?」
何気ない一言。
でも、美咲には大きな変化に感じた。
以前なら、母は「大丈夫なの?」と心配することが多かった。
今は、美咲の話を聞こうとしている。
「難しいけど……楽しい」
そう答えると、母は少し微笑んだ。
「なら、ちゃんと考えてやってるんだね」
その言葉に、美咲は胸が温かくなった。
完全に理解してくれたわけではない。
でも、自分の気持ちを見ようとしてくれている。
その夜、美咲はノートを開いた。
次の目標。
直したいところ。
挑戦したいこと。
一つずつ書き出していく。
そして最後のページに、小さく書いた。
「自分だけの踊りを見つける」
まだ答えは分からない。
でも、美咲はもう迷って立ち止まってはいなかった。
次のステージへ向かうための準備は、静かに始まっていた――。




