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第28話:問いかけ
次の練習の日、美咲は意識的に玲奈の近くへと立った。
距離はほんの数メートル。
それだけなのに、心臓の鼓動がやけに大きく響く。
手のひらにはじんわりと汗がにじみ、呼吸が少しだけ浅くなる。
何を言えばいいのか。
どんなタイミングで声をかけるべきか。
考えれば考えるほど、言葉はまとまらない。
それでも、今回は目を逸らさなかった。
逃げない。
それだけを決めていた。
玲奈が一度動きを止めた、その瞬間。
美咲は息を吸い込む。
「……どうしたら、ああいうふうに動けるの?」
声は少し震えていた。
それでも、確かに言葉として外に出た。
玲奈は一瞬だけ驚いた表情を見せる。
けれどすぐに、いつもの落ち着いた様子に戻った。
そして、少し考えるように間を置いたあと、静かに答えた。
「続けてるだけだよ」
あまりにもシンプルな言葉。
拍子抜けするほど、あっさりしている。
けれどその一言には、軽くはない重みがあった。
積み重ねてきた時間。
逃げずに向き合ってきた日々。
それらすべてが、その短い言葉の中に詰まっているように感じられた。




