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茜空のアマルテア  作者: 春小麦なにがし
遥香と楓の場合
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9.お出かけ

 放課後の明るい日差しの中、郊外の整えられた道を自転車で走っていく。片目に腕時計の時間を確認し、僅かに先週来た時よりも時間的に遅くれている気がして、漕いでいたペダルへと更に力を籠める。車輪の回転数が上がって、流れる街並みは加速していく。

 前回とは違う道を通りながら、最終的には前の時と同じように市街の近くの駅の駐輪場へと止める。そのまま駆け足気味に町の中へと歩き出していった。今日も本屋の手前のビルまで向かってみると、やっぱり楓はもう既にそこの来て静かに佇んでいて、前とは違う服だったけれど今日も整った格好をしていているから、代り映えのない制服じゃなくて一度着替えてでも来た方が良かったのではと思わず感じてしまうぐらいだった。

 楓はいつものビルを背にして今日も待ちきれないように、踵を上げて背伸びしたり、何度も時計を見ては周囲を見渡していて、やっぱり仕草の一つ一つが、可愛らしく見えてきてしまう。ちょっと気後れしてしまいながらも、楓の元へと慌てて駆けよった。

「楓。」

 聞こえるようにと声を上げると、それで気が付いたのか、彼女は顔を振り向かせ、こちらの姿を認めると、笑顔で小さく手を振ってきた。

「遥香ちゃん、おはよう。」

「おはよう。もう夕方だけどね。」

 そう返事をすると、「ああ」と口に手を当てながら楓は頷いた。

「そっか。事務所だと、昼でも夕方でも、おはようだから間違えちゃった。」

「へえ、モデル事務所ってそう言うものなの?」

「どうかな?うちだけかも。」

「ふうん。まあいいけど。それで今日は、どこ行く?また喫茶店いく?」

 尋ねてみると、楓は口に手を当てたまま考えるように空へと視線を向ける。

「お話しするのも良いけど、せっかくなんだし、どっか遊びに行かない?」

 遊びに行くという言葉にピンと来なくて、ちょっと首をひねりながら彼女へと尋ね返す。

「遊びに行くって?」

「カラオケとかショッピングとか。友達と遊びに行ったりしない?」

 逆に類が首を傾げて不思議そうな表情を返してきた。

「あんまり、と言うか殆ど行ったことないかな。うるさいのとか苦手だし。」

「ああ、遥香ちゃんならそっか。」

 妙な納得の仕方をされて、むしろ自分の方が腑に落ちなくなってしまうけれど、実際に苦手なのだから何も言わずに頷く。

 再び何かを考えだしたのか空を眺めていた楓は、ふと思いついたようにこちらへと顔を向けた。

「えっと、じゃあ、美術館とかは?」

「美術館か……。それなら静かそうだし興味あるかな。」

 頷いてみると、楓も嬉しそうに頷き返してくる。

「やった。じゃあ、それで行こうか。」

「美術館ってどこにあるの?」

「七宗のデパートの中に美術館があって。電車で、五駅ぐらい移動するけど大丈夫?」

 特に異論もなくて、彼女の提案に頷いてみせると、楓はニッと笑顔を見せった。

「じゃあ、早速駅まで行こっか。」

 そう言って歩き出した楓につられて自分も歩きだす。平日でも店が立ち並ぶ街だけあって人の行き来はそれなりにあって、駅に近づくごとに人の密度は高くなっていく。すいすいと見事に人を躱して歩いていく楓に、遅れないようにちょっとだけ足を速めて付いていく。駅に近づいたころ、ようやく楓はこちらが少し遅れ気味なことに気が付いて、歩く速度を緩めてきた。

「あ、遥香ちゃん。早かった?」

「ちょっとね。」

「ごめん、なんかウキウキしちゃって。」

「美術館楽しみなの?」

「今が楽しいの。」

 跳ねるように歩いて楓は歩道の縁石へと飛び乗った。危ないよと言う間もなく、彼女は縁石から降りて再び跳ねるような足取りで人の間を歩いていく。

 駅舎の中へと入り、そのまま改札をくぐって、ホームへと降りる。丁度、電車が来て、出て来る人達と入れ替わりに車内へと足を踏み入れた。時間が時間と言うこともあって、車内には子供連れの母親や老人たちでそれなりに人で混みあっていたけれど、乗り込んだ扉の近くに並んで開いている席を見つけて、二人で慌てて座った。ちょっと歩き疲れていたこともあってシートに座った勢いでほうっと溜息を漏らしていると、すぐにガタンと車体が揺れて、ゆっくりと電車は走り始めていた。

 座りながら向かいの窓を眺めていると、外の景色では、ホームに歩く人の姿が見えて、それが徐々に後ろへと流れていき、すぐに建物の並んだ景色が現れてくる。そうして建物は窓流れていく速度を速めながら、ふいに斜め下へと消えていってしまい、次には高架の端が見えてきたか。高架の端まで窓の下へと消えていくと、その先に遠く続く大きな川が流れていくのが見えた。

「私、こっちの方向に電車乗るの初めてかも。」

 窓の外へと顔を向けながらぽつりと言うと、楓は「へえ」と、こちらへと視線を向けてくる。

「そうなの?こっちの方って、来たことない?」

「一人だと街の方ぐらいしか用はないし、それより遠い時は、親が車を出すから。」

「そっか。じゃあこれ、遥香ちゃんの初体験なんだね。」

 緩い口調で眦を下げながら言った彼女の言葉に、思わず眉根を顰めてしまう。

「初体験って、変な言い方するね。」

「え?変かな?」

 きょとんとした様子で楓は首を傾げた。

「あ、いや、なんでもない。」

 そう言われてしまうと、自分が気にしすぎなような感じがして、一瞬、顔が熱くなってしまう。そんなこちらの様子を眺めながら、楓は少しだけ首を傾げたまま言葉をつづける。

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