妊娠
取り敢えず当面の衣服などとマイナンバーカードなどのカードが入ったカードケースとスマホを真由子は持ち帰った。
私は笑顔で迎えてた。
⦅この子は……辛いのに、こんなにも気を遣って……。⦆
「叔母ちゃん、ありがとう……ごめんね、こんなことさせて……。」
「いいのよ。それにしても挙式や新婚旅行まで盗られたのね。」
「あぁ………仕方ないの。何を言っても聞いてくれないから……。
それに……もう頭が真っ白で何も考えられなかった。」
「それは、そうよね。」
「でも、もう……いいの。 それより、どうするのかな?」
「何?」
「もう披露宴の招待状を送ったの。」
「そうよね。貰ったわ。」
「どうするのかな……ねっ、叔母ちゃん。新婦の名前が変わるんだもん。」
「そうよね。あはは……どうするんだろう。
バレるわ。直ぐに姉から妹に新婦が変更されたんだもの。
あはっ………面白いわ。直ぐに尻軽男が身勝手女と結婚したって分かる。」
「尻軽男?」
「杏の元婚約者よ。」
「じゃあ……。」
「そうよ、梓は身勝手女。どう? いいと思わない?」
「叔母ちゃんったら………うふふっ………。」
真由子が帰りにコンビニで買って来た肉まんを私の前に出して、「ちょっとでも食べて。」と言った。
夕食を私は少し口にしたが、食べるのも辛かった。
それに、あの食事の時に私は吐き気を催した。
ショックで食べられないかもしれないが、少しでも口に入れて欲しかった真由子は、私が好きな肉まんを買って帰ったのだ。
でも、また吐き気を催してトイレに急いだ私。
そんな姿を見た真由子は慌ててトイレで吐いている私の所へ来てくれた。
私は嘔吐しているが、何も出ない。
出るのは胃液だけだった。
真由子は私の背中を擦りながら「杏……妊娠してるの?」と聞いた。
その言葉に杏は驚いた。
「まさか………。」
「吐き気がするなら悪阻の可能性もあるわ。
勿論、別の病気かもしれないけど、生理は? 遅れてない?」
ハッとした私が真由子から差し出されたティッシュで口元を拭きながら「……………遅れてる………。」と答えた。
「杏、今から妊娠検査薬を買って来るから待ってて。」
「叔母ちゃん………ごめんなさい。」
「謝らない! 待ってて。」
「叔母ちゃん……ありがとう。」
「うん、『ありがとう。』の方がいいわ。行ってくるから待ってて。」
「はい。」
真由子は大急ぎで夜遅くまで開いているドラッグストアに向かった。
私のお腹に子どもが居るなら、その子の父親は木元康介。彼しか居ない。
私はまた涙で頬を濡らしている。
康介との愛し合った日々を思い出してしまう。
どんなに愛しても、もう見向きもされなくなった事実が胸を苦しくする。
⦅妹と会わせなかったら良かったのだろうか。⦆と思ったりする。
⦅でも、何時かは会う。だから、婚約中か結婚してからか……それだけの差……。⦆と自分に言い聞かせる。
まだ平らなお腹に私は、そっと優しく手を当てた。
⦅赤ちゃんが居るなら……戻って来てくれるかな?⦆と思い妊娠していることを願った。
それは儚い願いだと思いながらも、私は康介の心が戻って来てくれることを望んだ。




