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虹の彼方  作者: yukko
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家出

私の声が……震えて小さな声が……一言だけ康介に向けられた。

「康ちゃん……何時から? 何時から梓と付き合ったの?」という私の問いに康介は返事をしない。

私が泣きながら話す言葉さえ康介の耳には入っていなかった。

私の涙も声も誰も気付かない。

嬉しそうに梓と康介の結婚の話をし続けている。

私はもう居られなかった。

そのまま家を飛び出した。


**********


私は何も持たずに家を飛び出していたから、お金も持っていない。

スマホさえ家に忘れて来た。

ただ当て所(あてど)なく彷徨うように歩いていた。

涙は止まることを忘れたかのように流れ落ちる。

誰にも愛されていないことを突き付けられたのだ。

最愛の男性から愛されていなかったのだ。

気付くと公園のブランコに座っていた。

このブランコに何度も乗った。

家には誰も居なくて寂しくて……両親は梓ばかり気に掛けていた。

幼い頃の寂しく悲しい私の思いを、このブランコは知っている。

あの頃、このブランコで一人の寂しい時間を紛らわせていた。

ここでブランコに乗って居れば、誰かが遊びに来る。

子どもが遊んでいれば、一緒に遊んでくれたりした。

あの頃と同じブランコに……今は綺麗に塗装されて新品のようなあのブランコに

……大人になった私が乗って、ゆっくり漕いでいた。

どのくらい経ったのだろうか。私には分からない。

ただ泣き続けて居ただけだ。

「杏? どうしたの?」と懐かしい声がした。

父の妹の加納真由子だった。

どうして、ここに叔母が来たのか杏には分からなかった。


「杏! どうしたの? 何があったの?」


ただ泣いているばかりで返事も出来ない私を叔母の真由子は察してくれたようだった。

両親から大切にされていないことを知っている唯一の親族である。


「杏、うちに来ない?

 うちなら誰も居ないから話せるでしょう。」

「叔母ちゃん……迷惑だから……。」

「泣きながら、そんなこと言うの無しよ。

 うちも悟さんが亡くなったから、私一人なのよ。

 兄さんから呼ばれてたんだけど……。

 電話を架けて急用で行けなくなったって言うわ。」

「そんな……叔母ちゃんに嘘を吐かせたくない。」

「嘘も方便よ。気にしなさんな、ね。」

「叔母ちゃん……。」

「本当にあんた達姉妹は……本当に………。

 姉は気を遣い過ぎるほど使うし……妹は全く使わないし……。

 二人を足して二で割ったら丁度いいのにね。

 さぁさぁ、駅に向かうから涙は拭きなさい。」

「………はい。」


父に呼び出されていた叔母が父に「ごめんね、兄さん。急用が出来たのよ。」と断ってくれた。

私は叔母に連れられて、隣町の叔母の家に向かった。

電車に揺られている間、私は涙を零さないように、涙が流れても周囲に気付かれないように俯いていた。

ふと、スマホのことを思い出した。


「叔母ちゃん、スマホ、家にあるの。」

「うん。」

「後で私が取りに行くわ。

 暫く、うちに居なさいよ。

 私、一人で寂しいから、ね。 頼むわ~。」

「………ありがとう……叔母ちゃん。」


叔母・真由子の言葉が心に染みた。

優しくされると涙が出て来る。

父や母の言葉を聞いて辛くなっても涙は出ない。

でも、優しくされると涙が出てしまう。

あの後、家で今も梓と康介の挙式や新婚旅行のことで話がはずんでいるのだろう――と思った。

梓の美しい笑みが目に浮かんだ。

それを見つめているであろう康介。

二人の幸せを確信して喜びの笑みを絶やさないであろう両親の顔が浮かんだ。

初めての恋と同じ結末だった。

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